港の依頼
「幾つかの依頼を持ってきましたが、どれを受けますか?」
「何があるのでしょうか」
「えっと、落とし物探しに、お店の手伝い、海での魔物退治ですかね」
「魔物退治にしましょう」
「……」
そう言うとケリーは少し嫌な顔をする。
ですが私はどうしても魔物の観察をしたいのです。最近、全く魔物の観察が出来てないのですよね。
そろそろ限界が来ています。
「そんなにダメですか?」
「ダメではないのですが、どうしても心配です」
「う~ん、でも報酬金もそれが一番高いですし、魔物の素材を売ればもっと稼げるのですよね?人数が多くなって出費も多くなります。稼げるときに稼いでいた方が良いのでは?」
「僕頑張るよ?」
「ニアもやる。ご主人様の為に頑張る」
「ん~…分かりました」
二人はやる気満々のようですね。ケリーからのお許しも出たので早速依頼を受領して海へと行きましょう。あわよくば海の魔物に会えると良いんですけど。
その時丁度鞄の中でエルゼがもぞもぞと動き出した。
『ご主人~血…ちょ~だい』
怠そうな声と共にエルゼは鞄から出てくる。
ポーレリアは気温と湿度が高いため恐らくそのせいだと思われますが…。
「いいですよ。エルゼ、これから海に行くのですが…鞄の中で休んでいますか?」
『海?…ついていくよ。水の中の方が冷たそうだしね』
「……水中ですか。息できるのですか?」
『へ?スライムって息吸わないよ?』
エルゼから衝撃な事実が出てきた。
スライムは息を吸わないらしい。ニアが良く深呼吸やすやすやと寝息をたてて寝ているので勝手に判断していましたが…違うのですか?
「呼吸しないのですか?」
『別にしなくてもいいだけ。私たちスライムは魔素があれば生きていける。だから呼吸は必ず必要な物でもないんだよ』
「ニアは呼吸していますよね?」
『あれは特殊だよ?あんなスライムが他にいるわけないじゃん』
「…そうでした」
ニアは例外中の例外的な存在でした。
彼女自身が望んだからなのか進化によってかなり人間に近づいている気がします。
「はぁ…行きましょうか」
「そうしましょう」
『「「お~!」」』
ギルドで依頼を正式に引き受けた後に海での魔物退治に向かう。
海にいる魔物と聞くとどんなモノを想像するだろうか?
私は全く想像つかない。
「ん?あれは何ですか?」
「あ~、あれは光魔虫と呼ばれる魔物ですね」
海に向かう途中で店の中を軽く眺めていただけなのですか少し気になってしまいケリーに聞いてみる。瓶の中に水と何か虫のようなモノが入っており、それが光っている。
「魔物が売られているのですか?」
「光魔虫は危険性がない魔物なので平気なんです。暗いところを照らすので家の中で飼われている事もありますね。魔素と水があれば大丈夫なので飼いやすいのです」
『【ハトル】のページが更新されました』
「魔虫ですか…」
「そうですよ。魔物にも色んな種類がいる事は知っていますか?」
「えぇそうですね。例えばユリスは【キングワイト】と言う魔物ですがニアは【スライム】であり、その二つは恐らく霊魔と幻魔と呼ばれる種族で違うのですよね?」
「……ユリスさんってキングワイトだったんですか!?」
「あれ?言ってませんでしたか?」
「言ってないですよ!‥因みにですがシズクさんはキングワイトがどんな魔物なのか知っているのですよね?流石に知っていますよね?」
「いえ、ただ強力な魔物とだけ知っていますけど‥‥それ以外はさっぱりです」
そう言うとケリーは頭を抱える。何故でしょう。
そんな知らなくてはいけないような重要な事なんでしょうか?
【魔典】を見れば情報が載っているのかもしれませんが一通り私が調べてから魔典は見るようにしたいのですよね。図鑑などを見て知識を得ると言うのは良いのですが…この魔典はそれとは違うのですよ。見たら負けた気がするんです。ですので実はまだスライムの森で会った魔物以降のページはあまり見ないようにしているのですよね。
「何々?僕がどうしたの?」
黒い日傘をさしているユリスが会話に入って来た。
「いえ、ユリスがどんな魔物だったのかと気になっただけですよ」
「僕かい?えっと…僕がキングワイトって言うのは知っているんだよね?」
「そうですね。それは知っていますよ」
「キングワイトは王魔種と言って一つの種の到達点でもあるんだ」
「王魔種ですか?」
聞きなれない言葉が次々と出てきますね。
「そう!僕が館で言ったことは覚えている?進化の壁がどうのこうのって」
「はい、言ってましたねそんな事を…あれはそう言う意味だったのですか」
「そう!キングワイトって言う種が一応だけど霊魔っていう種族の一つの最高到達点だったんだ」
「一つの…と言うことはまだ他にもいるのですか?」
「いるよ。僕はワイトって言う種で生まれたからキングワイトになったけどこれがグールであったりスケルトンであったりすると別の種に進化するんだよ」
なるほど…進化の分岐があるのは生物としては常識。私達人間もその分岐の途中にいるのですからね。ですが…一つの最高到達点と言うのはどういう意味でしょうか?ユリスは私にテイムされて魔物から亜人へと変わったようですけど。
「ですがユリスは進化しましたよね?亜人族へと」
「そうだね。君のテイムのおかげで進化の壁を越えられたんだ。種と言う枠組みでの進化は終えたけど個と言う存在で進化する事が出来た。これを僕は、進化ではなく昇華と呼んでいるんだ」
話が少しややこしいですが…通常の進化とは種がもう一段上の者になると言う事ですよね。
ですが昇華と言うのは種ではなく…その者の存在そのものが種と言う枠組みを超えることを指すのではないでしょうか。進化は段階的に行うモノなのでしょう。地上を長く生きることによって進化を行う。その途中で別の生き物に殺されてしまったりするのでこの世界は上手く保たれている。
ですが昇華は恐らく違う。突発的に起きる物なのでしょう…それがどんな条件で発生するのかは分かりませんがユリスは私のテイムがきっかけとなったようです。ニアもそうですね。
「なるほど…それでいいんですか?」
「良くないです!キングワイトは小国であれば亡ぼせる力を持っていると言われているのですよ?それ程までに危険視されている魔物なのです」
「「えっ!?」」
どうしてユリスも驚いたような顔をしているのですか。貴方、キングワイトでしょう?
「ぼ、僕そんな危険な魔物だったんだ。道理でよく人間たちに狙われると思ってたんだ」
「狙われていたのですか?」
「うん。でも僕は何も悪い事してないんだよ?だから誰にも狙われそうにないあの館の地下でずっと研究をしてたんだけど‥‥。僕以外のキングワイト、会ったら絶対に許さないからね」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
ユリスをなだめてケリーの話を聞く。
ギルドの資料で幾つかの国を滅ぼしたキングワイトがいたらしい。その後、姿を消したため死んだと書かれていたのだと。
「へぇ…ではユリスは危険な魔物なんですね」
「し、シズク?僕は危険じゃないよ?安全だよ?」
「その言葉では余計に怖くなりますよ。あ~…少し怖いですね」
「そんな‥‥」
笑いながら少しユリスをからかう。
するとからかった事が分かったのかユリスは心配そうな顔から少し怒った様な顔になる。
「からかったね?」
「ちょっとしたイタズラですよ。歩いているだけでは暇でしたので」
「それだけ!?」
「あとどんな表情をするのか気になっただけですよ。ちょっとした生き物観察だったのですが少しやりすぎてしまいましたかね。すいません、ユリスは大切な友人であり仲間ですよ」
「シズク~!」
気が付くと目の前には青い海が広がっていた。船が幾つものあり、潮風によってゆらゆらと静かに揺れている。話に夢中になっていると歩いている時間も苦痛から楽しさに代わるモノですね。
「気持ちいい」
「海ってどうしてこんな綺麗なんだろう。‥‥水の中、気持ちよさそうだな~」
「勝手に水の中に入ったらダメですからね?それで海での魔物退治と言っていましたがどんな魔物を退治するのですか?」
「えっと【エンジェラ】と言う魔物です。簡単に言えばクラゲ型の魔物ですね」
「クラゲですか。それは厄介ですね」
「えっと右の港に船があるのでそこに行かないといけないようです」
ニアたちが海に入らないように見ながら港の右側に向かう。
すると漁船のような船が浮いている。どうやら目的の船らしい。私たちが近づくとあちらも依頼を受けた冒険者だと分かったのか船に乗ってくれと言って来た。
「お前さんがこのパーティーのリーダか?」
「えっと…そうなんですか?」
「そうですね。それで登録しましたのでそうなります」
「いつの間に…」
「まぁなんでもいいが…仕事の内容を話すぜ?」
「あ、はい」
「俺達がお願いしたいのは【エンジェラ】をこの網で掬ってこの中にぶち込んでくれればいい」
木枠で囲まれた網を指さしてそう言う。
「俺たちは網をぶん投げて魚を取るんだがこの時期になると俺たちの魚を取る場所で奴らが大量発生しやがるんだ。だからその駆除を頼んだぜ」
「分かりました。任せてください」
「おう!任せたぜ。お前らぁあ!船を出せ」
「「「おう!」」」
クラゲのような魔物ですか。
早く会いたいですね。そのクラゲは食用なのでしょうか?もしそうでしたら一口食べたいですね。
「また変な事考えてますか?」
「そんな事無いですよ」
どうして疑うのでしょうか?私は至って普通の人なんですが。
ケリーと海を眺めているとニアが私の気になっていたことを聞く。
「クラゲ、美味しい?」
「エンジェラの事ですか?あれは食べるものではありませんよ?と言うか魔物は食べても基本的に不味いです。ニアちゃん?美味しい食べ物は夜まで我慢しましょうか」
「うん、分かった」
ニアはユリスと一緒に船の中に入って行った。どうやら船の中も気になるようであれこれと船員たちに聞いている。
「全く、魔物が美味しいと言う発想が出てくるのでしょうか?元スライムだからですかね?」
「…」
「シズクさん?大丈夫ですか」
「へ?あ、いいえ大丈夫ですよ」
「まさか…ニアちゃんと同じ様な事を考えていたのですか?」
「……はは、まさかそんな私でも流石に魔物は食べませんよ」
「ですよね。流石にそこまで常識外れではありませんよね」
「……」
依頼の前に少しだけ心にダメージを受けました。
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