スタート地点
「ふふ…順調に進んでいるようですね。…ですが力をあまり使わないのは予想外です」
大きな鏡を見ながらぶつくさと呟いているゼイラ様。
私はゼイラ様のお付きの天使であるリリニアです。最近ですがゼイラ様はあの鏡を通じてどうやら下界を覗いているようです。時々怒ったり、悲しんだり、喜んだりと鏡の前で何をしているのだと聞きたくなりますが一介の天使である私がお声をかけるなど身の程を知らないわけではありません。ですので私は何も聞けないのです。
鏡をチラッと見てみるとあの男が映っています。
それも疑問だったのです。何故あの男を助けたのか…あの男には何も特別な能力もありません。あるのは生き物に対しての強い執着心だけ。
ですがゼイラ様は助けました。かなり無茶なお願いにも答えていたのですが、それ程の人間だったのでしょうか?私にはどうもそのようには見えませんでしたが…ゼイラ様には何か分かっているのでしょうか?私のことをチラッと見たゼイラ様は私のことを微笑みながら鏡に背を向ける。
「……ふふその顔は不思議そうな顔ですね?どうしてあの男を助けたのか?とも言いたげな顔です」
「い、いえ!その様な事は」
「いいのです。今、私は機嫌がいいですので一つだけ貴方の質問に答えてあげますよ」
「……では一つだけ。何故、あの男だったのですか?」
「それは運命だったからです」
「運命ですか?」
「そうです」
ゼイラ様は愛おしそうに鏡に映っている男を見ている。その様子はまるで…まるで恋する乙女のようでした。ですが、私は余計にわからなくなってしまった。あの男に何の価値があるのでしょうか?
「あの男に価値があるのでしょうか?」
「…リリニア?」
「ッ!」
先程まで優しく自愛に満ちていた声は、冷たく乾ききったものへと変わる。重力が変わったかのように、上から押しつぶされそうになる。
「彼に価値がないと?」
「い、いえ!そのようなことは!ただ、ゼイラ様のような方が救うほどの者であったのかという疑問でして…決して彼のことを悪く言ったわけではございません」
「・・・そうですか。そうですよね?彼のことを悪く言うはずがありませんよね?もしも、そのような者が私の前に現れれば…フフフッ」
この時、初めて私は少しゼイラ様が怖いと思ってしまった。
ゼイラ様はその後も鏡をずっと眺めている。だがこれだけは分かってしまった。
あの男はゼイラ様にとって特別であり、きっとあの男が死ねばゼイラ様はまた人形のように戻ってしまうだろう。ですので私にはただ男が無事に生きてくれることを願うしか出来ません。
「彼と私は運命の相手なのです…ですから彼の為であれば私はこの神の椅子など捨ててでも貴方のもとへ…いえこの話は無かった事にしてください」
「は、はい!」
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私は取り敢えず席について飲み物か何かを頼む。
昼を過ぎたくらいですのでまだ食事を楽しんでいる冒険者も多いですね。何だか時より見られている気がしますが‥‥気のせいですかね?そんな事よりも今はケリーさんとの話ですね。驚きましたが、取り敢えず訳を聞かなければ。
「私の旅に同行?」
「はい」
「で、ですがギルドの受付は?」
「辞めてきました」
ケリーさんは清々しい程サラッととんでもないことを言ってのける。
辞めてきたって…どうしてそこまでするのでしょうか?
「どうして私の旅に同行したいのですか?」
「シズクさんが心配だからです」
「心配ですか?私は子供ではないのですよ?それに冒険者です」
「……では言わせてもらいますがそんな冒険者の常識を知らなかったのは誰ですか?」
「うっ!」
「山賊に油断して捕まったのは?」
「ぐっ!」
「大体この世界の常識も知らなかったのですよね?一人でいたら何に巻き込まれるか…」
「……」
もう私の心はボロボロです。言葉のナイフが突き刺さっています。そんな私を前に、ケリーさんは、ニコニコしている。私をいじめてそんなに楽しいですかね?
「ご主人様、大丈夫?」
「えぇ大丈夫ですよ。…では本気で私たちの旅に同行する気でいるのですね?」
「…ここだけの話ですが、貴方は一応使徒であるのですよ?そんな存在が一人で何処かに行く方が異常なのです」
それは知らなかった。
使徒とはそこまで大切にされているのですか?私はてっきり天然記念物のような存在だと思っていましたが…まるで高価な宝石のように扱われているのですね。
「使徒である貴方が絡むことによって巻き込まれる被害者の身にもなってください。ですので私はそう言った被害を出さない為、それとシズクさん自身を手助けするために同行したいのです」
「なるほど。ニアはどうですか?」
「……嫌」
「許可をくれればこれを差し上げます」
そう言ってケリーさんはお皿に乗った料理をニアの前に出す。
美味しそうな料理は出来立てなのか湯気が出ており、その匂いは私の空腹まで刺激する。
「やっぱり良い。ケリー良い人間」
『私は別にいいよー!と言うかご主人を守ってくれる存在は私達だけじゃ不十分だと思ってたんだよね。私達魔物だし、人間側の味方もいた方がいいよ』
「二人ともよさそうですね。一名は買収された気がしますが…」
「何の事でしょうか?」
とぼけたように平然としている。明らかに目の前で行われていた気がしたんですがね‥‥もう食べ終わったのですか。ニアは綺麗になった皿をテーブルに置いて私の隣へやって来る。
「…分かりました。ですが私の旅は恐らく面白くないですよ?それに途轍もなく長い旅になります」
「私には時間があります。それに昔は金剛級の冒険者だったんですよ?戦闘や危険な事に巻き込まれた場合は心強い味方になりますしお得ですよ?私を雇うとなると金貨十枚でも足りません」
確かにその通りではあります。
私にはこの提案を断る理由が無いのですよね。お金も払わずに強い味方増えるのですから…。
「準備は」
「もうしてあります。何時でも出発できる状態です」
「それは重畳ですね。明日の朝には馬車に乗ります。旅に同行する件は了承しましょう」
「……良かったぁ」
ケリーさんはその場にへたり込む。魂が抜けた様な表情をしていますね。
私が何か声をかけようとするとその時に宿で食事をしていた冒険者達が勝手に騒ぎ出す。
「やったなケリーさん!」
「良かったな!?」
「二人とも元気でやれよ!」
と何故か酒を飲みながらそう騒いでいる。どうやらケリーさんが私に同行をお願いすることは知られているようでしたが‥‥ケリーさんの表情を見るとどうやらそんな事は知らなかったようですね。
「あなた達‥‥どうして」
「どうしてって…なぁ?」
「ケリーさん…分かり易いんすよ」
「だよな!?明らかにあいつがいなくなると寂しそうな雰囲気出るしな」
「っけ!あいつもなかなかやりやがるぜ」
そんな感じで騒いでるのですが所々は声が重なって聞こえません。
聞こうと思って彼らに近づこうとするとケリーさんが叫ぶ。
「う、噓よ!そんな事誰も言ってなかったし‥‥同僚の子だって何も」
そう言って慌てた様子で私と目を合わせる。
あまり聞こえなかったので何で騒いでるのか分からないのですよね。この場で私だけが置いて行かれているような‥‥。
「シズク!ケリーさんを泣かしたらぶっ飛ばすからな!」
「絶対に怪我させるなよ!?」
「俺達のケリーさんをよろしくなぁ…うぅ」
「お前…泣くなよ。そうだよなお前狙ってたもんな」
宿の中がカオスすぎますね。
取り敢えず旅に同行してくれるので‥‥大切な仲間ですね。
「安心してください。ケリーさんは大切な仲間になりますので皆さんが心配しているような事は絶対にないですよ。それは約束しましょう」
私がそう言うと一瞬、場が静まったと思えば冒険者達の声が一層大きくなった。
思わず耳を塞いでしまうほどその声は大きく、ニアも私と同じように耳を塞いでいる。人間のように耳は聴覚を感じるのでしょうか?そんな事を考えていると少し顔を赤くしたケリーさんがこちらを見て頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「え?あ、あぁよろしくお願いしますね。頼りにしてます」
「はい」
その日、私はせっせと何が必要なのかを考え準備をし、ケリーさんは感覚を戻すと言ってあの特徴的な剣を持ってどこかへと行ってしまった。
次の日、私は早朝、街から出ている馬車に乗る。
その相席に座っているのはいつもとは違う、薄い鎧を身につけたケリーさんがいた。
「ケリーさん…本当に良かったのですか?」
「ケリー‥と呼んでください。これからは大切な仲間ですので」
「そうですね。ではケリー、これからよろしくお願いします」
隣にはニアが景色を見ながらぼうっとしており、小さな鞄の中にはエルゼが眠っている。
これから私は色んな事を経験し、学んでいく。それはきっと地球で体験した事よりもずっと新鮮で、面白いモノに違いないと不思議な確信があった。
読んでくださりありがとうございます。
一章?第一幕?がこれで終了になります。次回からまた新しい章に入りますのでよろしくお願いします。
次は南の国です…主人公を待ち受ける新しい魔物や人物、出来事が気になりますね。
女神様の話も少し混ぜてしまいましたが読みにくかったらすみません。
明日もまた投稿致しますのでよろしくお願いします。
ではまた会いましょう(@^^)/




