それぞれの意志
…数時間前
「ニア?空がオレンジ色に変わっても私たちが帰らなかった場合、街に帰ってこのカードと紙をケリーさんに渡してください。ケリーさんは分かりますか?」
『分かる。あの人間のメス』
「まぁそうなんですが女性って言いましょ?ではよろしくお願いしますね」
私は体内にご主人様に渡された物を仕舞って街に運ぶ。オレンジ色になってもご主人様は帰って来なかった。もしかしたらご主人が捕まっているかもしれない。
『ご主人様にもう会えない。嫌、そんなの絶対に嫌!もっと早く、もっと早く街に行かないと‥』
ニアには得体のしれない感情が芽生えていた。それはただの魔物であった時には感じる事の出来なかったものであった。孤独、不安、焦燥‥‥その全てがニアに襲い掛かる。
『間に合わない‥‥ご主人様が危ないのにこんなに遅かったら死んじゃう』
焦りながらもその体を跳ねらして街へと道を進む。だが幾ら進んでも進んでも目的の街は見えてこない。ニアの心はもう折れかかっていた。
『ご主人様と一緒に来たときは遠くに感じなかったのに…どうして?どうして見えてこないの?』
ニアの体はもう疲れていた。
スライムの体はシズクの言う通り人間の筋肉と似たモノになっている。その為、動かして続けていると何が起こるか…それは筋肉細胞の炎症による筋肉痛と同じような現象が起きる。
つまり、動けなくなるのだ。
『ダメ…どうして?動けない』
ニアがゆっくりと街へと向かっている時に後ろから声が聞こえる。
その声は何処かで聞いたとこのあるような声だったがニアにとってはどうでもいい人間の声に変わりはなかった。
「おめぇ…シズクんとこのスライムじゃねぇか!?こんなところで何やってんだ?」
『誰?…ご主人様の知り合い?だったら…これ渡せる?』
「てかシズクは何処にいんだ?あいつに礼言いたいんだよな。薬草の場所を共有してくれたのはあいつって言うし、本当お前さんのご主人って凄いんだって‥‥ん?どうしたんだ?」
ケリーさんに渡してって言ってた。でも…この人の感じは悪い人間じゃなさそう。
ご主人様が倒れた時も部屋まで来てくれた人だったかもしれない。
でもご主人様に言われた人じゃない。今渡さないとご主人様が死んじゃうかも。
『…ごめんなさい、ご主人様』
「ん?んだこれ。地図とあいつのギルドカードじゃねぇか。裏に何か…ッ!?悪いが走るぜ?スライムを運ぶのなんか初めてだが許してくれよ!」
ニアはシズクの以外の人間の言っている事は分からない。だがその人間の感情を読み取る事に長けていた。だから分かったのだ。目の前の人間がご主人様を助ける為に急いでいるのが…。
『良かった…でももう疲れた。ごめんね?ご主人様』
ニアはこの世界に生まれて初めて意識と言うモノを失った。
『系譜を持つ魔物の感情を感知しました。…進化を強行します。対象【ニア】』
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やべぇ、やべぇ!あいつがこんなモンを残すって事はそう言う事じゃねぇか!
てかスライムの体って冷たいんだな。初めて触るからびっくりしたぜ。そんな事は今はどうだっていいんだよ。早くこれを届けないとな。【縮地】を帰り道に使うなんて初めてだがこれが一番早いからな。恩は返すぜ?シズク。
街の中に入り、急いでギルドの中に入る。
汗をかき、腕にシズクのスライムを抱き、ポーチに入っているスライムの持っていた物を出してケリーさんに何も言わず渡す。と言うかこの年で全力疾走は辛すぎるぜ…ったくあいつが帰ったら絶対に冷えたエールをおごらしてやる。
「ウェンさん?これは…!」
「ははっ!あいつってスゲーよな。地図の裏に依頼書なんて普通は思いつかなねぇよ」
「これに書いてある事は本当ですか?」
「こいつが道を走っていたんだが…かなり弱っている。何とかしてやれなぇか?」
「スライムの事はよくわかりませんが魔力が無くならない限りは死にませんので大丈夫です。冷えた部屋に休ませてあげましょう。これを運んでくれたのですよね?」
「そうだ。あいつが俺にそいつを渡してくれた」
「この依頼書がシズクさんが作ったということですね。それに短いですがメッセージもありますね」
『この依頼書があると言う事は山賊に掴まったもしくはそれに伴う危険な状態と言う事です。ニアに街に行くように伝えましたが…酷な事をさせてしまいましたね。私が依頼したいのは上記の通りですが…足りなければ追加致します』
「この報酬の場所に書かれている事ってマジかい?」
「本当でしょうね。シズクさんは此処に来て短いですが嘘をつく人ではありません。そうですね…少しギルド長と話してきます。ウェンさんは依頼に来てくれそうな冒険者を集めてくださると…」
「おう!任せな。あいつに少なからず恩を感じている奴は幾らでもいるからな。直ぐにでも集まるだろうさ。ってかケリーさん…怒ってねぇか?」
「怒ってません。では私は二階に行きますので」
そう言ってケリーさんは二階へと行ってしまった。
「ははッ!あいつ…知らねぇぞ?女を怒らせるとどうなるかろくなことが無いのは確かだしな。
さてと、俺は集めに行くとするか。普段は酒飲んでばっかだけどたまには仕事しねぇとなぁ?」
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全く…本当に全くですよ。
何ですか!あんないい笑顔で去っておきながらこんな依頼を残すなんて馬鹿じゃないんですか?
本当に許せませんが…私情を仕事に持ち込むのは二流以下のする事ですね。
「ギルド長、失礼します」
「…何があった?」
「それが…」
私はシズクさんの作った簡易依頼書を見せて状況を説明する。
ギルド長は苦い顔をする。
「あいつか…本当に大物ルーキーじゃねぇか」
「馬鹿なこと言っている場合じゃありません。この様子ですと捕まったのは数時間前の事です」
「分かっている。依頼に書かれている報酬の件が本当なら受けるべきなんだが…俺は動ける状態じゃねぇ。この街を離れるわけにもいかねぇし」
「私が行きます」
「……本気か?」
「はい、それではこの依頼に判をお願いします。下ではウェンさんが既に冒険者達を集めてくれています。書かれている山賊の人数からして必要な冒険者の数も相当数必要ですがそんな数の冒険者はこんな辺境の街にはいません。ですので私が直接行ってきます」
シズクさんには言いたいことが山ほどあります。
冒険者としての危機管理能力が低すぎるんですよ。それに自分がどういった存在なのかまだわかってないのでしょう。そのシズクさんと言う存在が世界にとってどれ程に価値があるのか…今度みっちりと説教して教えてあげなければなりませんね。
「では私は準備しますので…この依頼書は私が管理いたしますね」
ギルド長の判が押された依頼書を受け取り、ギルド長室を後にする。その後ろ姿を見てギルド長もウェンと同じように呟く。
「あれは大分怒っているな。シズクよ…生きて帰ってもお前は地獄を見ることになるぞ」
一階に行くとそこには数名の程の冒険者が集まっていた。全員が若い人達で、ベテランと呼ばれるのはウェンさんだけですが構いません。人数が欲しい今の状況では一人でも多くいるとありがたい。
「おう!呼んで来たが…他の奴らは既に酒で溺れてる奴ばっかだったよ」
「そうですか…まぁこの時間なら仕方ありません」
「だなぁ。俺も普段は昼間っから酒飲んでるから強くは言えねぇんだわ。悪いな」
「平気です。今回の依頼は私も同行いたします。と言うよりも私とウェンさんを軸にして動きますので安心してください」
「そ、それは危険っすよ!相手は山賊なんすよ!?」
「大丈夫です。こう見えても昔は強かったんですよ?」
「昔って…子供の時からっすか?」
集まった冒険者の中で一人の若い男がそうケリーに言う。
ウェンさんはクスクスと笑いながらその若い冒険者に向かってある事を言う。
「ケリーさんはハーフエルフなんだよ。俺達人間とは時の流れが違ぇんだ。因みにだが冒険者としてのランクは金剛級だったそうだぜ」
「えぇ!?それマジっすか?…初耳っすよ」
「自分から進んで言う事ではありません。聞かれれば話す程度の事です。そんな事よりもこの依頼が承認されましたので早速ですが皆さんには山賊の討伐もといシズクさんの救出を依頼します」
「分かったす。あの方にはお礼も言いたいのでいい機会っすね」
「今夜にそのまま仕掛けますがあなた達にやってもらいたいことは村人、シズクさんたちの救出です。山賊の殲滅は私たちが行います」
「了解っす。皆もそれで構わないっすよね?」
「私は平気。それでお金がもらえるなら…」
「俺はお前が行くって言うからついてきただけだ。お前が良いなら俺もかまわない」
「儂も平気じゃよ。それよかそのシズクと言う奴は凄いのぉ」
「どうしてっすか?」
「冒険者が見つかったと言う事は村人が依頼を出したと言う事じゃ。馬鹿な山賊でもそれは分かるじゃろう。逃げれば見せしめとして農民が何人殺されたかわからん。そ奴はそれを分かった上で捕まったのじゃよ。恐らく無理やり逃げることも出来たがそれをしなかった。その勇気は凄いもんじゃよ」
「そうっすね。やっぱりシズクさんは凄いっすよ」
そう話している事を聞きながらも心の中でケリーは静かに考えを巡らす。
どうしてニアと呼ばれるスライムだけが街に来たのか?あの赤いスライムは何処に行ったのか。
…彼はきっと私よりも頭が良いから何か考えがあるのでしょう。
私はこの剣で全てを切るだけです。
読んでくださりありがとうございます。今回は少しぐちゃぐちゃになってしまいましたので読みにくいかもしれません。すみませんでした。
少しでも良いと思って下さればブクマ、評価をしてくださると嬉しいです。
皆様の心優しい評価をお待ちしております。
明日も頑張って二話投稿いたしますのでよろしくお願いします。
ではまた会いましょう(@^^)/