御恩
「あれがそうですかね?」
遠くにわずかに見える家を見て目的の村に着いたのだと少しホッとする。大体…一時間程でしょうか?あまり遠すぎなかったので安心しましたよ。一先ずは村の様子を見てみましょう。
私はそのまま村へと近づき、その様子を確認しようとすると入り口あたりから数人の村人がぞろぞろと出てきた。
「あんさん…冒険者かい?‥‥もしかして依頼を受けてくれたのか!?」
「すみませんがそれは違います。私は冒険者ですが依頼を受けた者ではありません。少し山賊の件で話があるのは間違いないですがね」
「話?悪いが報酬を増やすのは無理な話だ。あっしらの村は貧しいでとても高い報酬を払えるほど蓄えていねぇんだべさ」
「いえいえ、報酬の話ではありません」
「じゃあ何の話だ?」
「此処で話すのもあれなので村の中に入ってもいいですか?それと私はテイマーですのでこの子たちは安全です。人には危害を加えませんので安心してください」
「分かった。んじゃあおらの家に入ってくれ。おらぁこの村の村長をしてるゾイだ」
ゾイさんの話かたは少し癖のある話し方だった。日本でも地域によって話し方や言葉のイントネーションが変化する。異世界にもそれがあるのだろう。
私は村の中に入り、それぞれの住人に挨拶をする。見た感じでは怪我をしている村民はいないようですね。少し安心しましたよ。それに、魔物に対してそこまで嫌悪感が感じれない。テイムしているといったからなのか、それとも危険視されていないからなのか。
「少し聞きたいのですが山賊が襲撃してきたのは何時ですか?」
「4日前になる。連れ去られた女子供もいる。納品するための作物もあるから一刻も早く取り返してもらえてぇもんだ」
「そうですか。その時の山賊の人数は覚えていますか?」
「そうだなぁ‥‥沢山いたのは覚えてんだが正確な人数までは言えねぇ。大体10人以上はいた気がすんだがなぁ」
10人以上と言うことは最悪の場合ですとその倍は見た方がよさそうですね。山賊に仮に拠点と言う場所があるのならそこにもいる事を考えた方が良いでしょうか?いずれにしても予想以上に多いのは間違いなさそうですね。
「山賊はまた来るのですか?」
「来る‥‥奴らは1週間後にまた来るからそれまでにもっと金になるモノを用意しておけと言ってた。けどよぉこの村には金になるもんなんか一つもねぇんだ。だから冒険者に依頼してどうにかしてもらおうと考えていたんだが…それも無理な話みてぇだな」
残念そうな顔をしている。その顔には諦めと後悔した気持ちが張り付いていた。
「襲撃された時に怪我をされた方はいますか?」
「いんけど…」
「治療させてもらえませんか?この子は怪我を治す力を持っているので良ければどうですか?」
「…金はねぇんよ?」
「要りません。それにこれは依頼でもありませんので」
「冒険者様には感謝しかねぇべ。今から皆を呼んでくる。そのスライムもありがとな?」
ニアは触手をフルフルと震わす。ゾイさんは怪我した人たちを連れてくると言って家を出て行ってしまった。私はただ平屋のような村長の家でジッとして待っていたが頭の中は色んな事を考えていた。
山賊の依頼を冒険者に受けさせるにはどうすればいいのか?
私が考えていた山賊の人数は10人程度であった。ですがその数を大きく上回るかもしれないと言う可能性が高くなった今、私達が直接山賊とやり合う事はなくなりました。エルゼをテイムしてあれですが少し今の私では手に余るモノになるでしょう。ですので他の冒険者が依頼を引き受けない理由を無くしてあげれば山賊の討伐に参加してくれるのではないでしょうか?
まずは山賊の人数、そして拠点の場所ですね。
これは村長であるゾイさんや村の皆様に聞いてみるしかないですね。それで手がかりがありましたらそれと私のスキルを頼りに見つけましょう。
【サーチ】ですが少し範囲が狭いので広い場所から一つの物を見つけるのに不向きなんですよね。
ですのである程度の場所が分かればいいのですが…。
山賊の人数ですが…エルゼに少し聞かないといけません。
「エルゼ?少し良いですか」
『ん?なに?ご主人』
「エルゼの出した煙を吸った人を把握することは可能でしょうか?」
『えっと…多分出来るかな?でもある程度吸わせないと無理だよ』
「分かりました。…では可能という方向で話を進めましょうか」
それで山賊達に煙を吸わせれば人数の把握が出来るかもしれませんね。
問題はそれにかかる時間ですね。煙を見えないようにすると体内にエルゼの細胞が入り込むのに時間がかかるのでずっと煙を出さないといけません。時間の短縮は今のところ無理そうですのでエルゼには頑張ってもらわないといけません。
「エルゼ…煙を吸ってその体内のエルゼの細胞を操れるのに大体どれほどの時間がかかりますか?」
『う~ん…普通なら一分。けどご主人は煙を見えないようにしたいんだよね?』
「はい」
『じゃあ数時間はかかるよ?』
「そうですか…血は平気ですかね?」
『直前で吸わせてもらえば平気。ご主人はそれで山賊を倒すつもりなの?』
「いえ、中にいる人数を把握したいんですよ」
その拠点の中には山賊じゃない人もいる。だから無暗にエルゼの力を発動させてしまうと不味い事になりますからね。ですので飽くまでも人数の把握だけです。
『人数のだけ把握だけならもう少し時短できるかも』
「本当ですか?」
『うん。多分だけど出来るよ?』
「ではその時が来ればお願いしますね」
『分かった!私だって役に立つって所を後輩くんに見せてあげるんだから』
『私のほうが先にテイムしてもらった。私が先輩』
全く本当に頼もしいですね。これで上手くいけば山賊の人数を大体把握できます。分かったその数からいなくなった村民の数を引けばいいだけですからね。後は報酬金ですね。正直に言うとこれが一番キツイです。これは帰ってからケリーさんとギルド長に話をしましょう。何か解決策を知っているかもしれません。
これで山賊の依頼を受けてもらえない理由を粗方直しましたが…問題は私が本を手に入れる事が出来ないかもしれないと言う事ですかね。些細な問題だと言われるかもしれませんが元々はそれが欲しくてここまでやって来たのですから本があれば欲しいです。
「う~ん…どうしましょうか。別の本でもあれば諦める事が出来るのですけど‥‥」
「本ですかい?」
「わ!?ぞ、ゾイさんですか…それに怪我をされた方たちですね?」
「そうです。皆殴られ、蹴られ、切られて怪我を負った者達ですが治るんでしょうか?」
「ニアに任せてみませんとわかりません。ですが悪くはなりませんので安心してください」
「そうですかい。ではみんな!このスライムが治してくれるから失礼のないようにするべさ!」
「「「はい」」」
怪我人は少ないようで数名程でした。これならニアだけでも対応できるでしょう。
怪我人はニアに任せて私はお話を聞きに行きましょうかね?
「それで冒険者様、本がいるんですかい?」
「いえ、必要ではないのですが…私が読みたいのですよ。本は高価な物ですから山賊の宝の中にあるかもしれないと思って来たのです」
「そうだったんですかい。でも本ならあっしが一冊持っていますよ?」
「ほ、本当ですか!?見せて貰うことは出来ますか?」
「えぇ勿論です。ですがそんな面白い本ではありませんよ?ここら辺に生えている草木などの特徴が書かれているもんです。それと野菜を育てるために必要なもんなんかも書いてありましたかね」
ほ、欲しい。ここら辺に生えている植物の知識が付けば薬草のより良い採取の仕方なども分かるかもしれない。それに何よりも私の知らない植物が書かれている書物ですよ。私にとっては喉から手が出るほど欲しいモノです。
「良ければその本をお譲りいたしやしょうか?」
「い、いいのですか?ですが本は高価な物なんですよ?」
「良いんですよ。もうあっしらには必要のないもんですし。山賊に取られるくらいならあんさんの手に渡った方がこの本も嬉しいでしょう。こうも優しくしていただいた冒険者はあんさんが初めてなんですよ。恩には恩で報いた方がお天道様に褒められますしね。だから受け取ってくだせぇ」
「ありがとうございます」
これで私の目的は達成しましたね。この本を回収していない時点で山賊の拠点に本がある可能性が低くなりました。‥‥ですが余計にこの村を放って置けなくなりましたね。
…4日前ですから後三日ですか。少し人の為に頑張ってみましょう。
読んでくださりありがとうございます。少しでも面白い、続きを読んでもええよ?って思ってくれたらぜひともブクマ、評価をしてくださると嬉しいです。それとブクマ、評価をしてくださった方には感謝を申し上げます。
明日も頑張って二話投稿致しますのでよろしくお願いします。
ではまた会いましょう(@^^)/