無意識に
『ねぇ?ご主人!もっと!もっと頂戴?』
「……喋った!?」
『あれ?どうしたの?ご主人?聞こえているよね?早く頂戴よ。今度は優しく吸うから』
「えっと…あまり吸いすぎると死んでしまうので程々にしてくださいね?」
『は~い!』
目の前のスライムはチュウチュウと私の血を吸っている。
スライムの体が少し赤黒から明るい赤色に変化する。どうやらこの身体の色は血の鮮度を表しているみたいだ。…と言うことは私以外にも吸われた人間がいると言う事だろう。
「どうして喋れるのですか?」
私は血を吸っているスライムに話しかける。
『喋れる訳じゃないよ?ただ理解できるだけ。えっと…ご主人と私との間に繋がりが出来たのは分かる?』
「繋がり?…もしかしてテイムの事でしょうか?」
『そうそれそれ!そのテイムでご主人が私の考えている事を読み取れるようになったってわけ。でもその魔物の存在がより濃く、強くならないと読み取れないから弱い魔物は無理なの』
「なるほど…」
ニアと喋る事が出来きないのはまだニアがそんなに強くない事が原因なのかもしれませんね。
「ニアとは喋れないのですが…そういう事なのでしょうか?」
『名前が付いているの!?私の事を殺したい程睨んでいるスライム。あれ…どうにかならない?』
「と言ってもですね…」
私にはただジッとこちらを見ているようにしか見えない。
このブラッドスライムが言うには睨んでいるらしいがスライムには目が無いため表情を読み取ると言うのも無理な話だ。
「ニア、どうしたのですか?」
そう聞いてもニアはピクリとも反応しない。
『ご主人を取られて焼きもちを妬いているんだよね~?っと!』
ニアの触手が私の腕に引っ付いているブラッドスライムを剝がそうとする。剝がすのが無理だとわかった瞬間、ニアは触手をブラッドスライムに叩きつけるが寸のところでブラッドスライムは私の腕から離れて回避する。
フルッ!!
『ふん!君が進化するのが遅いのが悪いんでしょ?本来であればスライムなんだからもっと早く進化できるはずなのに』
ニアとブラッドスライムが何か言い争っているが…私はその様子をただ見ていた。
止めるべきかと思ったのだがよく考えてみればスライムの喧嘩など初めて見る。貴重な機会だったのでそのままにしておくことにした。
『それに!ご主人のテイムによって強化されているはず。どうして言葉一つ喋れないの?』
フル…。
ブラッドスライムのその言葉にニアの触手は元気をなくしたようにうなだれる。
「私のテイムによって強化されているとはどういう事です?」
少し気になった話題が出たので割って入ってしまった。
『え?嘘!知らないの?ご主人って加護持ちの人間でしょ?その加護って色んなモノに影響が出るんだよ?ご主人であればテイムに影響が出ているんだよ。私の時もそうだったけどご主人のテイムによって強化されて世界とご主人との繋がりが強まって話すことが出来るの。この子も話させるはずなんだけど何故か話すことが出来ないみたい』
「ニアが喋れない?」
私はブラッドスライムが話し始めた時に少し違和感のようなモノを感じた。ニアが弱い魔物のはずがない。少なくとも人間を倒すことは出来たのだ。そして今その違和感に漸く気づくことが出来た。
「ニア?もしかしてだけど話せるのではないですか?」
ニアの体がピクリと動く。どうやら図星のようですね。
ですがどうして話してくれなかったのでしょうか?そうした方が互いに楽でしょうし。
『だって…気味が悪いとおもわれるから…』
小さな声でニアが喋る。本当にしっかり聞こうとしないと聞き取れないほど音が弱い。
だがブラッドスライムの声とは違い、落ち着いた声だった。
「気味が悪い?」
『うん、だってご主人様…言ってた。私が話すわけないって。だから私が話すと気持ちが悪いのかなって思って』
『あ~…ダメだよご主人?女の子にそんな酷いこと言っちゃあ。それは私でもちょっと話すのは遠慮しちゃうね。ご主人ってばサイテー』
「ちょっと?いきなり手の平を返さないでください」
それにそんな事を言いましたかね?…あまり気を付けないで話していましたので無意識に言ってしまったのかもしれません。
「すいません。謝りますので‥‥これからは是非とも喋ってくれるとありがたいです」
『いいの?』
「勿論ですよ。と言うよりも観察している魔物と喋れるなんて研究のし甲斐がありすぎるくらいです。所でさっき‥‥女の子って言いましたか?」
『言ったよ?因みに私も女の子だからよろしくね?やったね!ご主人!ハーレムだよ!ハーレム』
スライムに性別ってあるのですか!?
ナメクジやカタツムリのように繫殖する時に決まったり、自家受粉する植物のように一体で繫殖が出来る生き物だと思っていました。
『‥‥その様子だとスライムに性別ってあるの?って顔だね?』
「ギクッ」
『ご主人様、やっぱり知らなかったの?』
「そ、その‥はい知りませんでした」
大体雄か雌かの違いなど魔物初心者の私に分かるわけがない。
これは仕方がないと思うのですが…このスライム達に言っても無駄ですかね。
『まぁ、いいや。それで?私の名前は?』
「はい?」
『名前だよ。な・ま・え!この子にはあるのに私にだけ無いのは不公平でしょ?』
いきなり名前を考えろと言われても難しいモノなんですよ?
ニアは少し勝ち誇った様な雰囲気を醸し出している。名前をニアは持っていますからね。
『別になくてもいい。スライムで私とは区別つく』
『私が困る!そんなの嫌だよ!これでもスライムとして君よりも長く生きているんだらね!?先輩だよ?先輩!』
『此処では私が最初のご主人様のスライム』
『それがいいただけだよね!?』
二人が言い合っている間も私は必死に考える。そしてようやくいい感じの名前が思いつく。
「…よし決まった。君の名前はエルゼだ」
流石に名前に蚊やモスキートとかを入れると可哀そうだと思ったので血を吸う生き物…蝙蝠、吸血鬼と言う発想に至った。エルゼベエト・バートリと言うある貴族が昔いたのだがその名前からとったのだ。まぁ…安直だが引っかけすぎないぐらいが丁度いいのだと私は思っているのでいいだろう。
『エルゼ…うん!言い名前!何かしっくりくる気がする』
「そ、そうか。それは良かった。それで早速だが何が出来るのか教えてもらっていいか?」
【魔典】で調べるのもいいのですが折角話せるのだしコミュニケーションを取っていこう。
ついでにニアの出来ることも増えていないか調べてみないと。
『いいよ~。私の攻撃はこの触手とこの煙ね。あまり吸わないようにしてね?吸いすぎると人間なんかは直ぐに死んじゃうから』
身体から少しの煙を出しながらそう言う。
煙を吸って死ぬ?一酸化炭素中毒のような感じで死んでしまうんだろうか?人間の体の構造は地球でも異世界でも変わらない。だからその言った予測が立てられるが…。
「どうして煙を吸ったら死ぬんだい?」
『その煙にはね私の一部が入っているの。それで私は自分の身体を操れるからある程度その煙を吸って、その体の中で私の一部が集まると…こんな感じに串刺しに出来ちゃうってわけ』
エルゼは体の一部を切り離し、そこから無数の棘のようなモノを出して見せる。
これは考えていたモノよりも圧倒的に殺意が高い。確実に敵を殺すためにある能力だ。それ故に時間もかかるのだろう。
「その煙だけど限りなく見えなくすることは可能かい?」
『出来るよ?‥でもその分攻撃が出来るようになるのに時間がかかるんだよね…前にそれで逃げられちゃったし』
なるほど…これは使えるのではないでしょうか?
これであれば山賊が何人いようとも関係ありませんよね。それに山賊の依頼書を見ましたが生死は問わないと書いてあったので大丈夫でしょう。
「他に出来ることはありますか?」
『えっとね‥‥血を操れるよ?』
「血を?」
『うん。一度私が吸収した血を誰かにつけたり注入する事によって体を痺れさせたり出来るの』
‥‥怖ろしいですね。それってつまり一度でも攻撃を食らった時点で次が即死に繋がると言っても過言じゃありませんよね?なんだか強すぎないですか?何か厳しい条件でもないと釣り合いが取れないんじゃ。
「何か制限はありますか?」
『えっと私の持ってる血の量が少ないとその攻撃は出来ない。それと注入したりする血が少なすぎてもダメ。だからね条件が少し厳しいの』
『使えない‥‥ポンコツスライム』
『あ!君にだけは言われたくないんだけど!?君だって回復しか出来ないでしょ?』
『私‥‥戦える。これ使えば余裕』
そう言ってニアは複数の触手を出して唸らせる。
「ニアは変わった事はあるかい?」
『無い。ご主人様が教えてくれたように触手で顎を狙う』
「あはは…頑張って」
いつかその触手で首を飛ばしそうだと思ったことは心の中でとどめておこう。
ニアは回復、エルゼは攻撃特化、私は観察係兼雑用。うん‥‥少し私の立場が無いけど良いんじゃないです?と言うよりも想像よりの何十倍もスライムが強いので困惑しているんですよね。もしかしてですけどドラゴンなどもこの世界にいるんでしょうか?そしたらどれ程強いのかちょっと気になったりしますが…今は山賊の事に集中しましょう。後は私は作戦を立てて実行すればいいだけですね。
待っていてくださいね!顔も知らない山賊の人達。
今から頑張ってそちらに伺いますので。
読んでくださりありがとうございます。
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明日も頑張って投稿するのでよろしくお願いします。