生物観察のプロローグ
「教授!アメリカにて新種の生き物が見つかったと研究所から報告がありました」
「よし!じゃあその子に会いに行くぞ」
「はい!」
これが今の私の日常だった。
私はこの地球に生きるありとあらゆる生き物に熱中していた。
そして学んでいく過程で私は気づいてしまった。この世界にはまだどれだけの新種がいるのだと。
現在見つかっている生き物の数は種類で言うと約125万種ほどの生き物が見つかっているがこの数が多いと思うかね?普通はそう思うだろう。
125万など考えもしない大きい数なのだからな。私も子供の時にはそう思っていたさ。
だがある時、この地球には約850万種の生き物が住んでいると研究論文にて発表があった。
その時、子供のながらその論文の見出しを呼んだ時に唖然としたのをよく覚えているもんだ。
今までいた自分の小さな世界…下を見れば蟻が列をなして餌を運び、草むらをかき分ければバッタなどが跳ね上がる。空を見れば様々な鳥が自由に羽ばたいている。
それが全てだと思っていた自分の世界の殻が無理やりにも壊されたのだ。無理もないだろう。
そんな私が今では新種を常に追い求める研究者となってしまった。
急いで飛行機のチケットを取り、目的地へと向かう。明日など待っていられるわけがない。
助手を連れて私は飛行機へと向かう。
今回見つかったのは新種の魚類らしい。
深海から引き揚げられたのだとか。是非ともその姿をこの目で見たい。
鱗はあるのか?体の形は?特徴的な物はあるのか?
勿論形状だけを私は知りたんじゃない。その習性、どのような進化を辿って来たのか。
その全て私は知り尽くしたいのだ。
「教授!そろそろ時間です」
「分かった。もう待ちきれんよ!こんなにもワクワクするのはいつぶりだろうか」
「そんなに新種が見つかったのが嬉しいのですか?教授はもう幾つもの新種を見つけてきたではありませんか。そこまで興奮する事なのでしょうか?」
「ふむ…そうだな。確かに私は新種を見つけたがそれは過去のデータに基づいて推測をして見つけたに過ぎない。今回新種がでた場所は未知の海域だ。そこから新種が出たのだ。恐らくだがまだあの場所にはまだまだ沢山の新種が我々の発見を待っているに違いない。私はそれが楽しみなのだよ」
新種が今になってやっとそのベールを脱いだのだ。
もしかしたら調べ方が良くなかったのかもしれない。そこら辺はあちらに行って要確認だ。
「さて、向かおうか」
「はい!」
私たちはマイアミ国際空港へと胸に期待を込めて飛行機に乗った。
だがその途中に思いもよらない事件が起きる。
グゥウン…!!!
機体の大きく軋む音と共に強い揺れが乗客たちを襲う。
シートベルトをしているので幸いにも体が飛行機内に転がる事はないがこの揺れによって乗客はパニックに陥る。
ACの人も明らかに狼狽しており、ただ事ではない事を物語っていた。
暫くするとアナウンスが機内に流れる。その音もプツプツと途切れた音が入っていた。
『ただいま…の気流がはっせいしたため…一度…に着陸いたし…』
「なんだって?」
「一度何処かに着陸をするようです。…ですがこの強い揺れの中で機体を水平にする事は困難なはずです。恐らくですがこのアナウンスは私達を安心するための嘘のアナウンスだと思います」
「それを聞いた私はどうすればいい!?」
「知りませんよ。それに噓だと決まったわけじゃありません。飽くまでも可能性の話です」
「君のそう言った事は外れた試しがないじゃないか!つまりそう言う事なのだろう?私たちはどうすればいいのだ?」
「分かりませんよ。天命に身を任せるしかないんじゃないでしょうか?」
その時、私の頭部に鈍い痛みが走る。
どうやら上に収納されていた乗客の荷物が私の頭にぶつかったようだ。
「教授!?しっかりしてください」
助手君の声が遠く聞こえる気がする。可笑しい…通路を挟んで隣のはずなのだが。
それにしても運が悪い。偶然にも飛行機が悪天候の中を飛び、こう言った事に巻き込まれ、意識を失おうとしているとは…あまりにも運が悪いな。
「…授?…ってください!」
「すまない」
その一言が私の限界だった。
一体何に対しての「すまない」だったのか。目を瞑り、意識を手放すまで私はまだ見ぬ新種の姿を思い描いていた。
意識を失い、黒く淀んだ意識の中で私はある声を耳にする。
「起きなさい」
よくそう言われて母親に起こされたのを思い出す。
深夜まで生物図鑑などに張り付き、自分の体力と気力の限界と共に死んだように眠るのだ。
そんな事を繰り返していると今の声のように呆れた様な声で母親は私を起こす。
「起きなさい。江村 雫」
「母親ではないな」
「当たり前です。私は…なのですから」
霧がかかった様な意識を覚醒させる。全身が怠く、重い。
まるで深い海の中にいるかのように全身に圧力がかかっているようだ。
「私はどうなった?」
「勿論ですが死にました」
「ふむ…死んだ?ではここにいる私はなんだ」
「精神…簡単に言うと魂の状態です。体の方は別の場所に保管いたしました」
「なるほど…どうやって私は死んだのだ?死因を知りたいね」
「窒息死ですね。海に落ちてそのままです」
「…あの飛行機は墜落したのか。私の助手は?」
「生きていますが…もうすぐ貴方の後を追うでしょう」
「助けることは?」
「ダメです」
ダメ…つまり無理ではないと言う事だな。不可能でないなら是非とも助けて欲しい。
彼には私の代わりに新種を見てほしいのだ。そしてあわよくば私の墓にでもその新種を取った写真とかをお供えして欲しいのだ。
つまり、彼が死ぬことは私の中では絶対にNO!
「どうしたら助けてくれる?」
「……運命を変えることは許されないのです」
目の前の人間と変わらないような姿をした女性はそう言う。
だがその目は明らかに嘘をついている。瞳孔が開き、一瞬だが声が上ずった。
その落ち着いた雰囲気も恐らくは俺に焦っている事を気づかせないためだ。
「早く条件を言ってくれないか?助手君が死んでしまうではないか」
「随分と余裕と言うか…貴方死んでいるんですよ?」
「人間とはいつかは老いて朽ちるものだろう?それに人間は老いれば体の自由が利かなくなる。私のような中年がギリギリ何の枷も無く動ける限界だろう」
それに人間は老いるとどうも頭の方も劣化が早い。彼は優秀だし私のような老体がいては若い彼に迷惑がかかるかも知れない。この辺で居なくなった方が良かったのかもしれんな。
私が質問に答えると気味の悪い物を見るような目で私を見る。
「変人を連れてきちゃったかも…」
「さて早く彼を助ける条件を言ってくれ」
「…はぁ、じゃあ私と一緒に来てもらいます。それが条件です」
「承諾しよう。早く彼を助けてやってくれ」
「もう助けました」
「ん?何もしていないように見えるが…嘘をついている?」
「これが証拠です」
そう言われて俺の頭の中に出てきた映像は助手君が救命ボートで救われるシーンだった。
何処かのドキュメンタリー番組のように妙なリアル感があり、助手君は意識があるのか薄く目を開く。私を見ているような気がする。気のせいかもしれないが…せっかくだし何か伝えれるなら伝えておこう。
伝わるとは到底考えられないがそう頭の中でメッセージを送る。
『頑張ってくれ。それと新種を見てくれよ』
そう冗談っぽく言ってみると助手君が軽く頷いたような気がした。
そこで映像は途切れる。
「さて‥行きましょう」
「今の映像は?」
「地上のものよ。安心して?私が約束を違えることはあり得ませんわ」
「先ほど嘘をついたのはノーカンかね?」
「そ、それとこれとは別ですわ。早く行きますわよ」
そう言って女性が持っている杖を振ると目の前に一つの扉が現れる。
「入ってください。話はその中でしますわ」
「分かりました」
さてと鬼が出るか蛇が出るか…実に楽しみだ。
観察してねぇじゃん!って言いたい気持ちは分かりますが…ね?
プロローグですし?もう暫く待っていただけると嬉しいです。
読んでくださりありがとうございます。こんなしょうもない小説かもしれませんがくだらない考察に皆さまも一緒になって考えてくださると嬉しいです。
沢山の魔物が出てくる予定ですので…何卒宜しくお願い致します。
そうですね…初代Pモンの数を超えることを目標にしていますが…挫折もあるかもしれませんので何卒ご容赦を。