夜明けとトモに堅く誓う
【ゴブリン】
知能が低く、棒など単純な道具しか扱えず
群れをなして行動するが、仲間意識がある訳でもない
自分の身に危険があれば共に暮らす仲間でも見捨てる
不衛生な場所を好む
「まっ!ゴブリンに関して記してあるのはこんな所かな!」
そう言いながら背表紙に『魔物辞典』と書かれている厚手の本をパタンと勢いよく閉じる
その声は後ろでトボトボ歩く少年へと向けられる
「そんな事言っても、魔物狩りなんて初めてなんだから怖いよ…」
「だから、説明しただろ?この先に居るのは魔物の中で最弱のゴブリン!ビビることはないって、ちゃんと武装して来たんだ、な?」
戦闘を歩く活発な少年は、軽装だが急所はしっかりと守られている鎧を纏い片手で振れる程の剣に木製の盾を所持している
盾と剣を打ち鳴らしながら説明するが、後ろの少年にはイマイチ響いていないようだ
「お前だっていつまでも馬鹿にされたくないだろ?16にも成って魔物一匹倒したことないなんてさ!」
「そうだけど…でも、」
「でも、も、だっても、いいから!その杖代わりに使ってる剣を振回せば倒せる、その程度の魔物なんだ!怖ければ後ろで見ていたって構わない、このままじゃ何も変われないんだぞ?」
後ろの少年は無理やり自分のことを納得させ
「…よし!…わかった、ちゃんと行く」
そう、意思を示した
ーーー
ゴブリンが居る森林エリアまで到着した二人しばらくしてから標的を発見する
「あそこに2匹いる、音を立てるなよ?俺が後ろから斬りかかるから、自分のタイミングで加勢に来いよ」
岩陰に隠れながら、小声で会話をする
「分かった、気を付けてね」
幼さの残る少年はサムズアップをしてゆっくりとゴブリンへと近づいて行き
完全に背後に周り一刀の元、ゴブリンを両断した…
《ウガガガガガァァァァ》
その悲鳴が森の中を虚しく木霊した
ーーーーー
木の隙間などに居る虫を好物として食べている者がいた
容姿は醜く、身体には何も纏っていない
そして、言葉も要領を得ず愚かな生き物
その者の顔は大きく腫れ上がっている、醜い顔が更に見るに耐えない顔になっていた
どうやら、仲間から爪弾きにされているようだ
相手にされていなくても、独りでは生きていけないことを理解しているから、どんな扱いを受けようが付いて行く
それだけの生き方だった
みんなと少し違う、それだけの事で生きていくのが難しくなってしまった
望めるのなら、みんなと同じが良かった、そう願った事は数え切れない
自分の生死が誰かの気まぐれで壊されるかもしれない
しかし、コレ以外の生き方を知らない
だから、受け入れた
そんな彼にも唯一話し掛けてくれる相手が居た
仲が良いと言うわけではない、ただ、普通に扱ってくれる
そんな関係だった
それでも、彼には砂漠に与えられた一滴の水程度には潤してくれた
そんな『友』とも言っていい仲間が、目の前で切り捨てられた
「ほら!簡単だったろ?お前も早く出て来いよ!」
少年は後ろに声を掛けた
「…ホントだね、思ったより怖くなさそう」
そう言いながら物陰から姿を現した
首元から胸にかけて大きく切り裂かれた『友』を見下ろし、自分には何も出来ないことを悟り、ポロポロと涙をこぼし…
《ウガガガガガァァァァ》
叫ばずにはいられなかった
悲しみ苦しみ怒りを初めて体験した
「なんだよビックリした!脅かすなよいきなり叫んで!」
「ちょっと!仲間を呼ばれたかもしれない!早く逃げようよ!」
少年たちは焦りの表情を浮かべる
「わかった!早く片付けて逃げよう!!!」
少年たちの焦りとは裏腹に彼はゆっくりと喋る
《コレガ、カナシミ…クルシミ…イカリ……クルシイヨ、たすけられなかった…オデ…たすけられなかったよ…》
その言葉を聞いて少年たちは異変に気付く
「「喋った!?」」
二人は顔を見合わせ戦慄する
喋るゴブリンなんて聞いたことが無い
つまり目の前に居るのはあり得ない存在だ
「なんかヤバイ!逃げるぞ!!!」
二人は一目散に逃げる、来た道を全力で駆ける
《オデ、おで…お、オ…オレが…必ず、敵を取るから…》
彼は近場にあった木の枝を2本拾い、一本を投げつける
後ろを走っていた少年の足元に木の枝が絡まり受け身も取れずに大きく転ぶ、彼は転んだ少年に木の枝を突き立てる
しかし、鎧に阻まれバキッと折れた音が響いただけだった
《…それは、そういう物なのか》
少年はそのすきに立ち上がり走り出す
「早くしろ!追い付かれるぞ!!!」
先を走っていた少年が足を止めこちらの状況を見ていた、戻るか躊躇っていたようだが立ち上がった事を確認して先を急ぐように促すだけに留めた
何か硬いものがあった…アレはそういう物なのか、なら…
近くにあった木の枝をもう一本拾い、それと掌サイズの石も拾った
そして、大きく振りかぶって投石した
「ぐふっ」
肩付近に当たり、大きく体制を崩し倒れた
「がぁはっ!」
少年の倒れ方が悪かったらしく右腕がへしゃげていた
「クソ野郎!!!」
後ろを走っていた少年が倒されたことに気付き先行していた少年は剣を振りかぶって走り戻って来る
彼は倒れている少年に、またも枝を突き立てる
「ゔっ…」
今度は深く身体の奥へと入って行く
《やっぱり、ここは硬くない》
鎧で覆われていない部分を狙って突き立てていた
「やめろ!!!」
剣は空を切り、地面に突き刺さった
剣を避けるために後ろに下がった彼の手には倒れた少年が持っていた剣が握られていた
「おい!しっかりしろ!死ぬな!お前なんてことしてくれたんだ!?」
《先に襲ってきたのはお前たちだ、俺からは何もやっていないはずだ》
少年は歯を噛み締めゆっくりと正対する
「お前を倒して、早く病院へ行く!」
《お前たちを帰すつもりはない》
少年は剣を構える、彼も一拍遅れて同じく構える
「だぁぁぁ!」
少年は走り出し彼へ刃を下ろす
《なるほど、そうやって使うのか》
彼は観察していた、物の使い方、特性などを
何もかもが未知、得られる情報は全てが宝石のようだった
彼は剣を振るった
少年の顔は絶望した…切り落とされた自分の腕を見ながら
《俺は、あのままの生き方で良かったんだ…何も求めてなどいなかった》
呟きながら、少年二人に刃を突き立てた