「お前を俺たちのパーティーから追放する。」
俺の名前はアレックス・ロックハート。自分でいうのもなんだが、この国でも片手で数えられるくらいしか存在しないSランク冒険者パーティーのリーダーを務めている。そしてメンバーは俺を含めて5人で、人数は少ないながらもこの2年間、このメンバーで数々の冒険をこなして今の地位まで登りつめてきた。
だが、そんな順風満帆だった俺たちのチームは今、パーティー内の人間関係の不和によって崩壊の危機を迎えている。だから今日は少し、俺たちのパーティーの話に付き合ってほしい。
俺たちのチーム内には、パーティーの補助に回る、言わば裏方役に徹する人物がいる。というのも彼は、純粋な戦闘スキルを保有しておらず、彼の有しているスキルは「アイテムボックス」「鑑定」「算術」の三つという、完全に補助的なスキルだった。
そしてパーティーという集団で活動する以上、俺たちは活動資金の管理や倒した魔物の素材の運搬、入手した魔道具の鑑定などの手段を獲得していなければならない。だからこそ、完全に非戦闘要員であった彼を戦闘を主にする俺たちのパーティーに入れたし、なんなら彼もそのことには納得していた。だから彼にはいつも戦闘時には後方に下がってもらっていたし、経済面を担当してもらっているから、いつもそれなりに大きな額の報酬は分配していた。
しかし、今になって思えば、彼の人格面を見極めることなく、その能力だけでパーティーに勧誘してしまったことが何よりの過ちだったのだろう。
初めに彼の人格に疑問を抱いたのはいつだっただろうか。思い返せばそれこそ綺羅星の如く思い返せる彼の独善的異常性であるが、特に印象に残っているのは彼の異常なまでのフェミニズム、いや、英雄症候群とも呼ぶべき性格だ。
例えば彼は、悪行を働くのが男であれば俺たちがそいつを殺す様子になんの言葉も挟まないのだが、しかしそれが少女、とりわけその容貌が整っているものであれば、さながら物語の英雄のように少女を諭し、それを殺めようとする俺たちを絶対悪であるかのように糾弾した。
また、彼はSランクパーティーのメンバー故の膨大な給金によって孤児院を建てたが、そこでも男児は決して引き取ることはなく、容貌の優れた女児ばかりを引き取っていた。それも本当に救いを必要としているはずの、下水で空腹を紛らわせるほどに困窮しているようなスラム街の子どもではなく、ある程度の清潔感のある端麗な少女ばかりを引き取っていた。
彼は知っているのだろうか。彼が改心したと判断した少女は、その後さらに悪行を重ね、多くの犠牲者を出した後に最近晒し首にされたというのを。そして彼が建てた孤児院は、彼が後は彼女たちだけで自立してやっていけると判断して管理権を他者に手放した途端に奴隷商人の食い物にされたということを。
彼はまるで、世界が自分を中心に回っていると勘違いしているかのような行動を取る。
俺たちは高ランクの冒険者故に、貴族の方々と対談する機会も多い。しかし彼は、その場においてもまるで自らが国王陛下であるかのような態度で以て貴族にため口で話すし、なんならその事に対して貴族が怒れば、権力を振りかざす悪徳貴族のレッテルを貼りつけ、目の仇にする。また、嫌がるメイドに対しても同じテーブルで主人と同じ料理を食べさせるという行為を強要し、それでいて本人には悪気がないというのだから質が悪い。
さらに彼は、非戦闘員であり、俺たちのパーティーの命綱ともいえる食料やポーション類を持っているにも関わらず、戦闘時にはまるで自分は戦えるとでも言わんばかりに最前線に出てくる。そしてそのことをメンバーに責められれば、彼は自分の非を一切認めることなく責任転嫁をし、不遇扱いをされる悲劇の主人公的自己意識に陶酔する。
正直に言って彼の自己愛的人格にはほとほと呆れかえるところであるし、まるで世界が善悪二元論的簡易機構の上で成り立っているとでも認識しているような狂気的な思考回路にはついていく事ができない。
だからこそ俺は彼のそうした行動を咎め、彼のせいでギスギスしたこのパーティーを正常に戻すためにも、リーダーとして今日この場で彼にこう言ってやるのだ。
「お前を俺たちのパーティーから追放する。」と。
正直、なろう系主人公は偏執的な狂人が多すぎる。