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星の子ポンタ  作者: 鴨川京介
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08.結婚式と直会(なおらい)

「俺もここに住む。」

 と親父は宣言しだした。

 家族で自分だけ仲間外れになっていることが気に入らないようだ。


「俺だけ東京であくせく働くのは嫌だ。俺もここで畑を耕して暮らすぞ。」

 と親父はそう言って東京に行き、会社に辞表を提出した。

 会社としては突然の辞表に焦り、アメリカ支社長まで歴任していた会社の柱がいきなり抜けることになり、大騒ぎになったそうだ。


 しかし、親父は

「もう十分に働いただろう。あとは孫と一緒に余生を過ごす。」

 と田舎に引っ越すと宣言して、1か月のうちに仕事を引き継いで、引っ越してきた。


 東京の家はそのまま置いてあるそうだ。いい人がいれば貸すのもいいけど、そのうち由美が東京に戻ると言い出すこともあるだろうと、そのままにしている。

 たまにじいちゃんの道場を継いだ家の人が、窓を開けて風を通したりして、手入れをしてくれることになっているそうだ。

 道場を継いだじいちゃんの弟子は親父の弟弟子にあたるそうで、親父たちには頭が上がらないようだ。


 それから俺たちはみんなで朝、食事をして、鍛錬をして、畑仕事をして、それぞれに趣味に合わせたモノづくりをして過ごしていた。


 俺たちの結婚は両家が認めた形で、地元の神社で、神前結婚式を挙げた。

 直会の時に朝峰家の親族を紹介してもらったけど、あまりに多くて覚えきれなかった。

 そうして俺は朝峰家にも迎え入れられた。

 そしてその時、源蔵さんがこの神社にまつわる朝峰家のご先祖様の話をしてくれた。


「うちの朝峰家の朝峰って言葉なんだが、どうやら俺たちが住んでいる裏の山が朝光って見えたところから、朝峰が光るって朝峰家になったらしい。なんでもこの神社の秘宝として代々その頃の話が残っとるらしいんだが、俺もまだよく読んでいないんだ。」

 朝峰ってそういう意味があったのか。

 でも光るって……

 その時俺はポンタを拾った所の傍にあった石の祠を思い出していた。

 あれも気なのだろうか…?

 俺だけに見えて、ほかの人には見えなかったんだが。

 一度じいちゃんたちを連れて行って見た方がいいかもしれない。

 俺はそう考えながらも、次から次に酒を酌み交わすために来る親戚にあいさつしながら、受け答えしていた。

 い…いや。もう飲めないって。

 その日俺はつぶれるまで飲まされて、あくる日起きると自分の部屋で寝ていた。


 今また、俺の家の隣にもう一軒の家を建て始めている。

 親父たちが住む家だ。

 これも同じ間取りがいいそうで、急遽朝峰工務店にお願いして建ててもらった。

 だから、俺のところには3件の家が建っている。

 半年後、親父たちは新しい家に移っていった。

 じいちゃんとばあちゃんは相変わらずうちにいる。

 妹の由美も新しい家に移っていった。


 …とはいえ、食事はいつも俺の家で、全員で食べてるんだけどね。

 親父も満を持して、車とバイクを手に入れたようだ。

 俺のハーレーを見てまた血が騒いだらしい。

 妹の由美もバイクを手に入れた。

 たまに親子三人でツーリングに出かけたりもした。

 そんな時はなっちゃんたちもワゴン車で付いてきた。


 そんな毎日を送っている中、ポンタはすくすくと成長していた。

 少し片言に何か言っているように声を出していることもある。

 とうちゃんとかあちゃん、じじとばばのどの言葉を一番初めに呼んでくれるかが、我が家でのひそかな競争になっている。

 みらいちゃんでもポンタでも両方反応してくれる。

 みんな好きに呼んでるが、ポンタ勢が多くいつの間にかみんなポンタとしか呼ばなくなっていた。


「そういえばポンタがうちに来てからそろそろ一年がたつな。」

 と、何気なくつぶやいたところで、あの光の祠のことを思い出した。


「じいちゃん、ばあちゃん。ちょっと俺についてきてくれない」

「どうしたんじゃ?」

 じいちゃんがいぶかしげに俺を見るので、ポンタを見つけた場所の近くにあった石の祠のことを説明した。

「そんな重要なこと、なんで今までほったらかしにしてたんじゃ。」

 そんなこと言われても…。日々楽しいことでいっぱいだからね。

 ポンタもかわいいし。嫁さんもかわいいし。


 下手に言い訳するとまずいと思い、

「ごめんごめん。ちょっと付き合ってよ。」

 と言って、じいちゃんとばあちゃん、それになっちゃんとポンタも一緒に山に登ることにした。

 山に登るといってもほんのちょっとだ。

 しかし、道があるわけでもないので、道を作るための鉈や鎌も持って、服も丈夫なものを着てもらった。

 ポンタはおんぶひもで、なっちゃんが背負っている。


 俺たちは石の祠を目指して、藪を切り開いていった。

 1時間後、ようやくポンタを見つけた場所まで道が通った。


「じいちゃん、ばあちゃん。あそこなんだけど。」

 俺が指さす方向の岩壁に俺には祠が見えていたが、じいちゃんたちには見えるのだろうか?


「ほう。確かに祠があるな。ばあさん、見えるか?」

「確かに何かあるようね。しかし、残念ながら「石の祠」とやらは見えないわ。私にはもやがかかったような光が見えるだけだね。」

 なっちゃんはどう?

「私には何もわからないけど、何かあるの?」

 なっちゃんは無理か。やはりこれって『気』が見えるかどうかかもしれない。

 ポンタはなっちゃんの背中でキャッキャとはしゃいでいる。


 俺は意を決して、祠に近づいて、そっと扉を押した。

 すると、石の扉に吸い込まれるようにして俺は石の中にいた。

 いやいや。

 石の祠の中にいた。


 しかし、ここって…。


 俺の後ろからじいちゃんが慌てて追いかけてきた。

「お前は少しは警戒しろ!うん?なんじゃ、ここは。」

 あたりを見回すとどこかの部屋の中のようだ。

 そして俺たちが出てきたところには大きな鏡があった。

「これってどうなってるんだろ?」

 俺は出てきた鏡に触れると、今度は石の祠の前に出た。

 そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとなっちゃんがいた。

 ポンタは相変わらずはしゃいでいる。


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