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奴隷たちの牢獄

「…………」

地下水路を壁に備え付けられているランプの灯りを便りに歩いていく。

地下水路の形自体は城下町のものと殆んど変わらない。だが、その複雑さは城下町以上で要り組んでいる。

成る程、これなら搬入には事欠かない訳だ。兵士たちの巡回も何回か見かけたが、この複雑さなら普通に見ていても意味がない。何せ、相手の方が地下水路を熟知している訳だからな。

「……ここか」

地下水路の道を歩いていき、行き止まりにたどり着きマップを見る。

ここで間違いない。この壁はあくまで仮で中心部に隠し扉がある。オークションの参加者はこのような行き止まりに見せかけた入り口から入っていると見て良いだろう。

「さて……次は、と……」

隠し扉から離れて俺は再び歩き始める。

次は、奴隷たちの場所に向かわないとな。参加者は奴隷たちをオークションの前に下調べをしており、それを行うために奴隷が入っている部屋は一回だけ入る事ができるのだ。

「何だ、このガキは」

「これを」

「なっ……!?ど、どうぞお入り下さい!」

通路の前に立っていた男に羊皮紙のスクロールを渡すと慌てて道を開ける。

やはり、この見た目は気になるところなのだろうか。いや、あの感じだと俺の体格に問題があるようだな。だが、尻尾と翼はマントで見えないし顔は仮面で見えず、両手はこの暗闇の中ではまともに視認できないだろうから別に良いだろう。

「……成る程な、これは凄い」

通路の奥に進み、扉を開けて中に入るとそこには、牢獄があった。

中は水路のような石畳ではなく煉瓦で作られており、牢の中には魔族は勿論のこと、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ビースターがおり、全員が服とは言えない布切れを着て首輪をつけられ、牢屋に繋がれており、こちらを恐怖した目で見てくる。

そして、それを見ているのは俺と同じ様に体を覆うようなマントを着た様々な仮面を着けた者たち。やはり、俺の体格に問題があったようだな。

「おや、子供でしょうか」

「……子供だろうと何だろうと、ここに来る資格を持って来たんだ。即ち、代行だ。その事を噛み締めろ」

牢屋の中をじっくりと観察しているとペストマスクをつけたエントレイ族の男に話しかけてきた。

ペストマスク、この世界にもあったのか。一度大きな疫病でも流行ったのだろうか。……今度調べてみるか。

「はは、これは手厳しいですな。それで、貴方はその雰囲気から考えて初めてですか?」

「……まあな。我が父の代行として初めて来たのだからな」

「それでは、私が案内しましょう。あ、私はクロウと言います。宜しくお願いしますよ、フクロウさん」

「……ああ」

ここでは、つけた仮面からとった印象を名前にしているのか。それなら、クロウは……鴉か?まあ、見えなくもないが……。

「ここは一般奴隷。何でもござれの奴隷でございます。無論、女は処女ですよ。あ、手を出すのは止めてくださいね?」

「この歳で性欲絶倫だったら困る。それで、他には?」

「それでは、こちらに」

牢屋と牢屋の間にある通路を通り別の通路に出る。

こっちは……一般奴隷よりも女性の比率が高いな。それに、女性は見目麗しく、男も顔立ちの整った者ばかりだ。そして、布のような物は殆んど存在しない。それで良いのだろうか。

「こちらは性欲奴隷。性的な行為を専門とする奴隷ですね」

「………………」

ペストマスクの説明を聞き流しながら怒りを滲ませながら観察する。

一般奴隷もそうだったが、こいつらはどう見ても自分の意思でここにいる訳ではないようだな。誘拐され、見ず知らずの土地に連れていかれ、自分の意思を無視させる。ああ……マスクどもを皆殺しにしてぇ……。人の尊厳を踏みにじることに躊躇いのないこいつらを残酷に殺してぇ……。

「それでは、次の場所に行きましょう」

「あ、ああ。そうだな」

説明を終えたペストマスクと一緒に別の細い通路に入り、別の大きな通路に出る。

ここは……男性の比率が高いな。それに、ヒューマンやエルフよりもドワーフや魔族の方が多い。そして、大体が褐色の筋肉ムキムキで男の夢を体現したような姿をした者ばかりだ。

「ここは肉体奴隷。力仕事や地下闘技場を専門とする奴隷ですね」

「俺の目的の者はここにはいない。さっさと次の場所に行こう」

「ええ、そうですね。私も筋肉を見る趣味はありません」

説明を切り上げてさっさと別の通路に向かう。

今度の通路は、ヒューマンやエルフ、ビースターが多く、ドワーフや魔族は少ないな。何かしら理由があるのだろうか。

「ここは実験奴隷。小動物よりも効果の出る人の体を使った実験を行うための奴隷ですね。筋肉や鱗は邪魔なので基本的にはビースター、ヒューマン、エルフが多いですね」

「……そうなのか。そう言えば、高級な奴隷はどこにいる」

「それでしたら、通路の奥に固まってますね。……と、私は用事があるのでここまでですね」

「……分かった。ありがとう」

「いえいえ、そんな大した事をしたつもりはありませんよ」

握手を交わしたあと、ペストマスクと別れて奥の法に向かう。

説明をしてくれたのは良かったが……やはり、怒りが沸々と込み上がってくる。やはり、こう言った人の尊厳を踏みにじるところを見るのは精神衛生上好ましくない。さっさと奥を確認して帰ろう。

(だが……奥に進めば進むほど良い商品になっていってるな)

一般奴隷なら肉付きがよくなり、性欲奴隷は更に美しく、肉体奴隷は更に頑強な肉体に、実験奴隷は結果の出やすい子供等が増えている。ペストマスクの言っていた通りか。

「……あの人混みはなんだ?」

高級な奴隷を見定めるふりをしながら最奥にたどり着くと、今までで一番の人混みがあった。

あれは……水槽か?となると、ここがウィルダゴル族が囚われている場所か。

「俺には関係の無いこと……ではないが、興味もない」

ここの実情を知ることができた用事は済んだことだし、こんな精神衛生的に良くない場所からさっさと出よう。

『――――――――――――――』

(……歌?)

美しい声だがどこからか悲しそうな歌が聞こえ、周囲を見渡す。

歌っている者はいないな。それに、この歌を聴いている者もいない。となれば、一体どこから……あそこしか、無いのか。

「……一目見るだけなら問題ないか」

俺は諦めるように人混みの中に入っていく。

歌はこっちの方角が聞こえた。と言うことは、魔族で一番歌が上手いウィルダゴル族としか考えられない。

「……成る程。人が混むのも無理はない、か」

水槽の前まで来たところで人混みに納得する。

水槽の中には、一人の人魚の少女がいた。

俺と同い年くらいだが、その顔立ちはブリストやオルゴのような優しさが滲みでるものではなく、リリンやミュウのような美しさが引き立つのでもない。どう見るかで可愛くも見えれば美しくも見え、優しくも見えれば冷酷にも見える、だがその全てが魅力的な、魔性とも言える少女だ。

「…………」

水槽に手を触れていると、青いウェーブがかかった髪を靡かせながら俺の目の前に着て俺の手に合わせてくる。

やはり、あの歌は俺を呼ぶためのものだったのか。それにしても、何故だ歌ったんだ?

「……それじゃあな」

俺が水槽から手を離すと悲しそうな顔をしてこちらを見てくるためそれを気にせず人混みから去っていく。

さて、この精神衛生最悪の場所からさっさと抜け出そう。それにしても、あのウィルダゴル族の少女……どこかで見たことがあるんだよな。どこだったけな……。いや、見たことない。となれば、既視感とか言うものか?


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