ワタツミ到着
「……アリエス、そろそろ付きそうだよ」
「うぷ……そろそろか……」
腹から込み上げる胃液を押さえ込みながら外を見ると、僅かに潮の香りを感じる。
寝不足に加えてさっさと行きたいと目的語に行きたい連中のオーダーで馬車を全速力で走らせた結果、中にいる人間の多くがリバースしている。
この世界の動物の体力は前世の動物の体力よりもよりも遥かに高いため全速力を長時間維持することも可能らしいが……悪路でそれは駄目だろ。
それにしても、リリンのやつ、悪路での走行でよく乗り物酔いしなかったな……。
「取り敢えず、事情を説明してくるね。手綱よろしくね、テイン」
「分かった」
ワタツミに入る門の前で入る順番待ちをしているとノリスが馬車の手綱をテインに渡して降りていった。
まあ、捕まっていた人たちの事もあるし、説明しに行くのは道理か。
(それに、説明するなら大人の二人のどちらかの方が良いしな)
盗賊どもは村に駐在している兵士たちに引き渡したが、捕まっていた人の引き渡しはある程度大きな町でないと引き受けれない。何でも身元を調べるのにも時間がかかるから、らしい。
そのため、急な用事でない者は村で次の乗り合い馬車を待つことになっている。
『大丈夫?』
「まあ、あと少ししたら治るだろう……」
「……降りたあとに兵士たちに細かい情報を教えてあげて、ベラ」
「分かりました、お姉さま」
「私は荷物を降ろすね!」
「あら、ならわたくしはアリスさんの手伝いをしますわ」
「呼んできたよー!」
俺らが荷物の整理をしていると数人の兵士を連れたノリスが帰って来た。
やっとか……取り敢えず、積まれていた荷物と事情の詳細な説明をさせるか……。それにしても、兵士の中に名前は知らないけど見知った顔がいるような気が……。
「あれ!?ツクモ様ではありませんか!?」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
兵士の一人が荷物を下ろしていた俺の顔を指差して驚いてしまう。
あー、思い出した。記憶が元に戻って直ぐに行った組み手の際に話しかけた兵士だ。この町に派遣されていたのか。
「え、つ、ツクモ様!?ツクモ様ってあの!?」
「何でこのような場所に……?」
はあ……ここまで疑念の感情を抱かせてしまったら何をいっても埒があかない。仕方ない、認めるか……。
「そうだ。俺はアリエスではない。俺はツクモだ」
「え、そうだったの!?」
「知りませんでした……」
「ん、びっくりした」
『驚きました……』
四人とも、かなり驚いているな……。そりゃあんな行いをした人が一国の皇子何だからな。
「こうなるから言いたく無かったんだが……取り敢えず、細かい事情を説明するから兵所まで連れていってくれ」
「か、畏まりました!」
驚きで酔いが覚め、兵士に命令し先行させて兵士の務め所まで行く。
全く……まあ、ここまでは別に計画に支障が出るわけではないし、腹をくくろう。……胃が痛い。
数十分後、俺は兵士の務め所から出て町の中に入る。
事細かく事情を説明したらあっさりと町の中に入れてくれたよ。個人的には助かった。だが、貴族や王族を優遇していると見られてしまうから区別を無くすように、と伝えておいて正解だろうか。
「お、いたいた」
「……やっときた」
門を入ってすぐの噴水広場のベンチに一人で座っていたリリンの方に向かう。
取り敢えず、合流した方が良いからな。
「他の奴らは?」
「……テインとノリスは船に乗りに行った。捕らわれていた人たちはみんな兵士たちに保護される事になった」
「そうか……なら良いか」
「それと……ベラ、アリス、ココラから伝言。『助けてくれてありがとう』。だって」
「まあ、保護された訳だからどこかで会うこともあるだろう……あれ?オルゴは?」
「…………(ツンツン)」
後ろから突っつかれて振り向いてみると、石板を持ったオルゴが立っていた。
オルゴもあいつらと同じように保護されて家か何かに帰されるのでは無いのだろうか。
「……親と縁を切ると言う通達が既に兵士たちに伝わっていて行く宛てもないらしい」
「………(コクコク)」
「成る程ねぇ……まあ、自分の命は自分で守れよ?」
「………(コクコク))」
それにしても、結婚するのと同時に家族の縁も切るとか……どれだけ今回の結婚に乗り気だったんだ?他に理由があると考えて良いだろうか。
「……取り敢えず、船に乗ろうよ」
「ん?ああ、分かった」
リリンに引かれて俺は船着き場まで歩き始める。
やれやれ、アクアポリスに行くだけでハプニングに巻き込まれ過ぎではないだろうか。海に出たら海賊……何て可笑しな事にはならない事を祈ろうかな。




