二重少女と崩壊少女の闇
俺はベッドから起きて窓から外に出る。
俺らは中継地点の村で一泊することとなり、俺とリリンは比較的大きめな家に泊まる事となった。だが、急な事だったためベッドが用意できず俺とリリンが一人用のベッドを使う嵌めになったのだ。
(リリンと寝るのは問題ないのだが……)
リリンは全裸で寝るタイプの人間で俺が同じベッドで寝るのにも関わらず全裸で寝ており、しかも狭いせいで結果的に密着するような形になってしまう。そのため、昼寝をしていたのも相まって寝ることができなかったのだ。
「ひっ……!」
「アリスか?」
村を散歩していると同じように散歩していた貸した服を着たアリスが俺を見てびっくりしたように尻餅をつく。
そこまで驚くことか……?
「ご、ごごごごめんなさい!」
「いや、何で謝るんだよ……。てか、その反応、アリスじゃないな?」
「は、はははい!私はアリスではなく『イスラ』です!」
やはり、アリスの別人格か。
「何でお前が外に出てるんだ?」
「え、えっと……その……暗いのが怖くて……」
アリスは暗所恐怖症かな……?そりゃあんな暗い場所に長時間いればそうなるかもしれないが……。
「『アリス』が精神的なストレスに晒されると『イスラ』が出てくる……と考えてていいか?」
「そ、そうです!その通りです」
にしてもイスラは気弱だな……アリスはあんなにも明るいのに対してイスラはかなり気弱な性格をしている。
「アリスを表に出すことはできるか?」
「で、できません……自分では意識を変えれません……。ごめんなさい!」
「いや、謝らなくてもいいのだが……。そう言えば、イスラは俺と初めて出会った時に凄く怯えていたけど、今は問題ないのか?」
「は、はい」
てか、本当にびくびくとしているな……。驚きすぎて気絶しないか心配だ。
「あの……アリスはどう生活しているんですか?」
「ああ……とても、明るかったく生活してるぞ。何であんな状況に巻き込まれていたのにあそこまで明るくなれるのか不気味なくらいに」
「……私は、アリスの事が嫌いです」
「嫌い?」
適当な草むらに座って喋っていると、イスラの雰囲気が少し変わる。
哀愁とこの感じは……憎悪や怒りと言った破壊的な負の感情。そして嫌悪。アリスを嫌っており、しかも憎んでいるということか?
「私から明るさを奪い、なにも知らずに……私すら知らずに私の表に出ているあいつが……憎い……!」
「……どういう事だ?」
「最初に生まれたのは私。あの女じゃない。あの明るい女は臆病な私から生まれた人格。私から『私』を奪った……忌々しいやつ」
つまり、『アリス』が最初の人格で『イスラ』が後からできた人格、ではなく『イスラ』が最初の人格で『アリス』が精神的なストレスからできた人格だった、と言うわけか。だが、そうなると主人格を後から出てきた『アリス』に奪われたと言うことか。
人間には変身願望がある。所謂『別のものになりたい』と言う考えだ。イスラは精神のバランスを保つために無自覚に『苦痛を知らない自分』作り上げた。だが、その苦痛を知らないイスラ……『アリス』が主人格になってしまった……と言うことか。
個人的にはどっちでも良いのだがな。
「私の記憶は父親の記憶も、母親の記憶もない。あるのは苦痛の記憶だけ……全て、全てあの女に奪われた……!」
「……………」
「ご、ごめんなさい!貴方の前では話すべき事ではないですよね!」
「嫌、別に俺は気にしないよ」
「そ、それでは失礼します!」
我に帰ったイスラは顔に手を当てて泊めてもらっている家に入っていった。
やれやれ……そう言えば、イスラはベラと一緒だったな。
「さて、俺も寝るか。適当な毛布にでも掛ければ最低限寝れるだろう……うん?」
立ち上がり、泊めてもらっている家に戻ろうとしたところ、オルゴが近くの森の中に入っていくのを見つけてしまう。
見た感じ防具を着ずに武器の類いも持っていってないな。しかも、着ているのは薄い肌着だけだし……こんな夜中に森に入るのは自殺行為だ。取り敢えず、連れ戻しに行くか。
「俺もお人好しだよな……」
小さく呟いた後、俺は森の中に入っていく。
武器はナイフが数本……狼とかに襲われたら少し危険だし、さっさと連れ戻そう。
「……これは……血か?」
森の中を探索していると、木についた血を発見する。
新しい。それに、地面に狼と思われる四足歩行の生物の足跡が点在している。……少し嫌な予感がする。なるべく早めに見つけなければ……。
「……こっちか」
目を閉じて嗅覚と聴覚に神経を集中させて血の匂いが続く方向に歩いていく。
五感においてその一つを封じる事で他の感覚器官が鋭敏となる。普通の状態なら血の匂いが分かってもその道のりが分からない。だが、目をつぶれば何とかなる。
……まるで警察犬みたいな感じだな。
「ガウッ!ガウッ!」
「つ……」
血の匂いを辿っていくと、多くの狼たちがオルゴを引きずっていた。
まずい、出血量からしてそれなりの血が流れ出ている。
「てめぇら!何していやがる!『散れ!』」
「「「キャイン!?」」」
狼を散らして地面に置かれたオルゴを持ち上げて傷を確認する。
首もとの傷が酷い。逆に言えばそれ以外は問題ないな……。それなら、取り敢えず応急処置するか。
「痛いが我慢してくれ……!」
「ッ……!」
左手の人差し指の指先を薄皮一枚だけ切って小さな炎を出してオルゴの傷を焼き出血を強引に押さえさせる。
これで出血はしないだろう。
「………?」
「お前は、何でこんな事をしているんだ!?あと少しで死ぬところだったぞ!」
「……………」
その怒りと悔しさが混じるような表情……まさか、死ぬつもりだったのか?
「死ぬことだけは許さない」
「……………(ブンブン)」
「精一杯生きて、生きて、生きて行き続けた人間にしか死は訪れない。精一杯生きれなかった人間の死は冒涜される」
「…………!」
「嫌だろ?なら、精一杯生きてから死ぬことをお勧めする」
「……………」
オルゴを説得し、背中に乗せて森の中を進んでいく。
取り敢えず、万が一の為に持ってきておいた包帯を首に巻いて感染症のリスクを抑えるか。やれやれ、この辺りに氷があれば対応が違ってくるんだけどな。
「少し待っててくれ」
村まで戻ってくると家の近くにオルゴを置いて家に入り、包帯を持ってくる。
やはり万が一に対する備えは必要だよな。
「怪我の場所は……主に首もとだな。髪の毛を上げてくれ」
「………(コクコク)」
延びきった髪の毛を上げさせて包帯を首もとに巻いていく。
応急手当として包帯の巻き方を知っていて正解だったな。
「よし、できた」
「ア……ウゥ……(ペコペコ)」
「いいっていいって。それじゃあ、お休み」
唸り声をあげて首肯したオルゴと別れて家の中に入ろうとする。
声帯を切られて声をだせないと分かっていたはずなのに声をだそうとしていたな。……声をだそうとするほど感謝している、と言うことだろうか。
さて、これで俺も寝れるな。少しでも眠らないと起きている間が眠くなるからな。




