守神の怒り
「さて、行く準備は整えたか?」
「……うん」
翌日、準備を整えて俺とリリンは城門に集合する。
俺の今の姿は動きやすい黒色の服に翼を隠すためのマントを着てリュックを背負い、リリンは空色がベースに七宝の紋様が描かれた着物を着て小さめのバックを肩にかけている。着物は平面にかなり売れてるから着ていても問題ないだろう。
動きやすい服を着ているが、実のところ服のいたるところに武器を隠し持っている。まあ、護身用だな。
「……私は反対ですよ」
「反対してもこれはお前らに関わる事だ。主である俺が解決しないといけねぇ」
「むー……」
「心配すんな。すぐに帰ってくるからよ」
見送りに来ていたブリストの頭を撫でると城門から城の外に出る。
そう言えば、何時も地下水路を使って街に出てたから、城門をくぐり抜けて外に出たのは始めてだな。
「……どうやって行くの?」
「海路を使う。取り敢えず、海辺の街『ワタツミ』に行って船に乗ろう」
ワタツミはヤマト国の西側、アレグレス国との国境にあり、ヤマト国の航路を担っている重要な拠点の一つだ。ワタツミまでは乗り合い馬車で二日程かかり、船旅も合わせると五日程かかる。だが、馬車でアクアポリスに行くと二週間はかかるため、こっちの方が早いのだ。
「……でも、ワタツミまでは商会の乗り合い馬車は無いよ?」
「まあ、どうにかなるだろ」
町の西側の門に着くと幾つもの商会や個人の馬車が停まっていた。
四方の門にある乗り合い馬車の停泊所から毎日のように馬車が出てる。その中でも比較的馬車の本数が多いのがワタツミ行きだ。適当に乗れば行きは問題ないだろう。
「おっさん、この馬車はワタツミ行きか?」
「ああそうだぜ、小僧に小娘。乗ってくか?」
「乗らせてもらうよ」
「……ん、乗ろう」
ワタツミ行きの馬車に乗り込み、駄賃を御者に渡して床に座り込む。
さて、これで二日間の馬車の旅だな。
「……寝る。止まったら起こして」
「分かった」
座ってすぐにリリンは俺に体重を乗せて乗り掛かり、寝息をたて始めた。
おい、俺の肩を枕代わりにするなよ。……まあ、抵抗はしないでおくか。起こして不機嫌になるのも困るし。
「そんなに幼いのにワタツミまでよく親が許してくれたね」
「ワタツミは中継地に過ぎない。ワタツミまで行って船に乗り、アクアポリスまで行くからな」
「それなら尚更親が許してくれなさそうだけど……」
「ごり押しで承諾させた」
「……中々強気だねぇ」
……?何か嫌な気配がしたな。まぁ、どうでもいいか。
「そう言えば、そこで寝てる嬢ちゃんは従者かい?」
「……似たようなものだ」
「いやー、お熱いねー」
「……何がだ?」
「……………」
さっき、この御者下品な笑みを浮かべた気がしたが……。少し怪しいな。警戒心をあげておこう。
「おっじゃましまーす!」
「……失礼するよ」
御者と世間話をしていると、タウロクロノ族とダゴル族の若い女性が入ってくる。
タウロクロノ族の女性は武人のような引き締まった筋肉をしたゴリウーで、ダゴル族の女性は暗殺者のようなスラッとしたスレンダーな人だ。それに、二人とも多かれ少なかれ鎧を着ている……傭兵の類いか?
「ねぇ坊や」
「……どうかしたのか」
「何で坊やたちはこの馬車に乗ってるの?」
「……理由を話す必要はあるか?」
「無いね。あ、私たちはアクアポリスに向かうの」
「……そうか」
となれば、俺らと目的地は同じか。
「私はノリス・キンジン。こっちは」
「……テイン・ブリガデイロ。よろしく」
「俺はアリエスだ。よろしく」
ノリスとテインと握手を交わすと情報交換を行う。
アリエスとテインはアクアポリスの学校の戦術を指南するために向かうらしい。こっちとしては、俺の仕事の邪魔をしなければ問題ない。部外者とみて良いだろう。
「……アクアポリスまでの道のりは結構盗賊が出やすいこと、知ってる?」
「そうなのか?」
「そう。森が多くてそこが盗賊のアジトになっている」
「私たち、腕っぷしも強いからいざとなったら守ってあげるわ」
守ってもらうほど弱いわけでは無いのだがな。……いざとなれば強制命令を使えば良いわけだなしな。
何人か客が乗ると、馬車が動き出した。
さて、やっと出発か。
「うわ、結構揺れるな……」
「む~……」
リリンも夢で魘されているような声を出しているよ。
これがサスペンションがない馬車か……。コンクリで舗装されてないことも相まってかなり揺れるな。
「よいしょ……」
森に差し掛かったところで俺はリリンの体を押して適当な木箱にもたれ掛からせる。
これくらいの重さなら揺れで動くこともないだろう。
「えっ……その木箱、結構重いはずだけど」
「……そうか?」
そこまで重くない筈だけど……。それにしても深い森だな。それに、この気配は……。
「……なあ、テイン、ノリス」
「どうかしたの?」
「……どうかしたか?」
「敵がいる」
「その馬車動くなぁ!」
「……遅かったか」
外を見ると、馬車を十数人の盗賊に囲まれていた。
……仕方ない。適当に気絶させて兵士たちに引き渡すか。
「動くなぁ!」
「……アリエス、ごめん」
後ろから声がして振り向くと、寝ていたリリンを持ち上げて首もとにナイフを突きつけた御者がいた。
最初から通じていた、と言うことか。我ながらこんな単純な手に引っ掛かるとはな。
「へへ……中々の上玉がいっぱい乗ってんじゃねぇか」
「先につまませてもらおうぜ」
「ちょっ、止めて!」
「くっ……!」
後ろの方で二人程度の盗賊が嫌がるテインとノリスにボディタッチし始める。しかも、胸とか尻とかばかり執拗に、である。
あの二人は傭兵としては綺麗だし真っ先に狙われて当たり前か。アジトに向かってから気絶させようかな。
「へへ……嬢ちゃんは後でたっぷり楽しんでやる」
「ひ……!」
前言撤回。今ここで皆殺しにするは。
「その汚い手を触れるな」
「へ……?」
隠し持っていたナイフを取り出し一呼吸で近づきリリンに触れてる御者の心臓を突き刺す。
「へ……あ……?」
御者は自分の心臓にナイフが刺ったのを見て顔を青くしてそのまま床に倒れて息の根が止まる。
「……アリエス、ありがとう」
「……ここからは目を閉じていてくれ」
「てめぇ!」
「この野郎、ぶっ殺してやる!」
「「させるかぁ!」」
気を持ち直した盗賊が二人を放り出してこっちに向かってくるが、二人から後ろからナイフと剣で刺されて絶命する。
「……リリンたちの警護を頼む」
「えっ、ちょっ!?」
「危険だ……!」
馬車を飛び出し、目の前にいた盗賊の眼球に指を突き刺して脳に傷を負わせ一瞬で絶命させる。
これで二人。
「なっ!?」
「このクソガキィ!」
気づいた二人の盗賊たちの足を尻尾で払い喉の気道を手刀で同時に突き刺して二人の盗賊は一瞬の痙攣の後同時に死亡する。
これで四人。
「ふっ!」
「がっ!?」
「くそっ……!」
「せい!」
落ちていたナイフを両手に数本を持って回転させて投げて数人の盗賊を当て、一気に接近し盗賊の一人の金的を殴り付ける。
「ひぃ――――!」
金的に手を当てて俯く盗賊の膝蹴りで顔面を粉砕させ意識を奪い眼球の抉りとって絶命させる。
五人。
そして翼を広げて飛翔し刺さったナイフを取ろうとした盗賊の頭を持ち、力一杯握りしめる。
「なん……だ!このが」
言葉を言い終わるよりも速く、男の頭は果物のように破裂する。
六人。
「な、何だよあれ……!」
「に、逃げるぞ!」
「「「「は、はい!」」」」
逃がすと思っているのか……?
「この俺が、テメェらのようなカスどもを!この俺が、逃がすと思っていたのか!」
「「「「ぎゃあああああああああああああ!?」」」」
隠し持っていた針を左手の掌に深く突き刺して引き抜き、凪ぎ払うように振ると傷口から青い光線が放出し盗賊たちの大半が焼かれてしまう。
これで……何人だ?数えきれないな。
「何なんだよ……!何だよお前は……!」
「言う価値もない事だ」
腰が抜け、恐怖に顔を歪めた盗賊たちのリーダーを頭を掴み強く握りしめて破裂させる。
盗賊どもの生存者はゼロ人と言ったところかな。
「おーい、何人か来てくれ」
「……分かった」
「アリエス君どうかしたの?」
「どうかしたのか?」
馬車の方を呼び掛けるとリリン、テインとノリス、そして数名の客が外に出てくる。
みんな不安そうな顔をしているな……。まあ、盗賊に襲われたんだし、仕方ないか。
「盗賊のアジトに行ってくるから死体の排除と消火を頼みたい。すぐ近くに小川があるからそこから水を運んでこれば楽だろう」
「……危険」
「えっ!?き、危険だよ。さっきみたいに上手く行くとは思えないし」
「そうだよ。それなら、ボクらが行くよ」
「それなら俺もだ!」
「俺も俺も!」
「『分かったな?』」
「「「「「はい!」」」」」
強制命令を使用して止めようとする奴らや着いてこようとする奴らを黙らせて俺は草を掻き分けて森の中に入っていく。
さて、盗賊たちのアジトをさっさと見つけて皆殺しにするか。今回ばかりは許すつもりはないしな。




