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神と人

(……帰るのか)

親父に頼み込んだ数日後、俺は正門前に親父の隣に立っていた。

今日、ウィルベガトリ族の使節団は帰る。二ヶ月もいた訳だからいつ帰ってもおかしくなかったからな。

「すみません……自白させる事はできませんでした……」

「ウルメア様はよく頑張られた。後はこちらに任して下され」

頭を下げて謝罪をするウルメアに親父は労いの言葉をかける。

暗示をかけられていたあの暗殺者は何も知らない。そのため、嘘の情報を話すことも本当の情報を話すこともできない。まあ、こっちはこっちで調べがついているから問題ないけどな。

「ツックー……」

「……どうかしたのか、ミュウ」

俺が思い耽っていると、悲しそうな顔をするミュウが話しかけてきた。

何だろうな、ミュウの今にも泣きそうな顔を見ているとどこか虚しいものを感じる。悲しい、と言うべき感情なのだろう。ミュウと別れるのは本当に名残惜しい。やはり、頭では理解してても別れたくないと思ってしまう。

だが、ここでそれを表に出してはならない。軟弱者ではないからだ。

「ミュウ、ツックーとまた別れるの、すっごく嫌なの……。三年前に合ったときにはこんなに心がざわつく事は無かったのに、何でなの?」

「……それは口で説明できない事柄だ」

「でもでも、また会えるよね」

また会える、か……。

俺はミュウたちが去った後、命懸けの戦いに身を投じる。そこで手傷を負うこともあるだろうし、最悪死ぬこともあるだろう。

だが―――

「必ず、会えるさ」

敢えて俺は断言する。

これでもう、俺は死ぬことが許されない。ミュウとの約束を護るためにも、俺を慕ってくれる者たちが悲しまないためにも、俺は生きて帰る。

「うん……!」

ミュウは俺に抱きつき、胸の中で涙を流す。

ここは周りの目があるのだが……注意なんて、無粋な真似はできない。好きなだけ涙を流してくれ。

「ミュウ、行くわよ」

「た、タンカス!?離して!離してよ!」

「嫌でございます」

泣きじゃくるミュウの首根っこをタンカスが力強く掴み取り、暴れるミュウを馬車の中に押し込みんで鍵を閉める。

うわー、かなり強引だな……。まるで、俺と近しい状況であることが憎たらしいような感じだ。

「お、おい!今ぐらい涙を流させてやれよ!」

「甘えさせてはダメですツクモ様!ミュウ様は我らの始祖に近しきお方。例え同じ始祖に近いツクモ様だろうと、誰かに入れ込んでは駄目なのです!」

「何だと……!?」

つまり、ミュウは一生一人ぼっちでなければならないと言うことか……?あいつが自分の意志で笑顔の仮面を作らなければならないのか?あいつが、初めて会った時のブリストと一緒の状況でなければならないのか?

そんなの、本物の神ではないか(・・・・・・・・・)。ミュウは人だ、そんな事をすればどうなるか分かっているだろうに。

「……己の幸せを願う人ではなく、神様に近い現人神でなければならないと言うことか?」

「無論、その通りだ。ミュウは神に近きお方なのだぞ!」

「……そうか。それなら――――」


「お前は俺の敵だ」


「っ!?」

「っ!!ツクモを取り押さえ

「『タンカス以外動くな!!』」

気配の変化に気づいた親父が周りにいた兵士たちに命令を下そうとしたため、強めに命令して全員の動きを止める。

邪魔されては困るからな、致し方ない。

「これは……『強制命令』!?」

「知っているのか、ウルメア殿……!」

「魂が格下の者に強制的に命令を下し、従わせる御神ドラゴンの力です……!御神に近いツクモ様なら使えるのでは、と思っていましたが本当にできるとは……!」

ウルメアが何か説明してくれているようだが、正直に言ってどうでもいい。

「貴様……!」

「俺は、ミュウの幸せを望んでいる。あいつが心の底から笑える生活を望んでいる。分かるか、お前はミュウが神様であることを望んでいる。俺はミュウが人であることを望んでいる」

「ふん、私もミュウ様が幸せになることを望んでいる!それの何がおかしい!」

「お前の幸せは神としての幸せ。俺には理解できない。だから……」

嘲笑するタンカスに近づきながら俺は拳を強く握りしめていく。

あぁ……まずいな。タンカスの思想は許しがたい。いつ殺してもおかしくない。

「やめろ、ツクモ……!お前の怒りは最もだ。だが、それはダメだ……!」

「……分かった。『解除』」

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

「……………」

命令を解除するとバランスを崩した親父やウルメア、兵士たちが地面に顔面から倒れたため、上から見下ろす。

今回は親父に免じて許すが、次はない。

「タンカス」

「何でしょうか、ツクモ様」

「次はない」

「つくづく腹が立つ人だ」

タンカスが笑みをこちらに向けてきたため、俺も笑みを向ける。どっちも目は笑ってはいないが。

「それでは、私はこれで」

「そうだ、ウルメア様」

「何でしょうか、ツクモ様」

「そちらの方で、俺との婚約を公表してください」

「……分かりました」

タンカスが馬車に乗ったのを見計らいウルメアに用件を伝える。

親父も、使節団が出てから俺の婚約を公表するつもりだし、向こうでも公表しておいた方が良いだろう。

「タンカスは信信心深い人なので、ミュウを神の生まれ変わりとして崇めているので……」

「……信仰の深さも悩みものだな」

もし親父らが信心深かった場合……。四歳の時点で城を抜け出して一人で過ごしていただろうな。

……あぁ、だからミュウは家出していたのか。

「それでは、私はこれで」

「ありがとうございます」

ウルメアが馬車に乗る直前、俺らの方を向いて礼をして馬車に乗る。

全く……最後の最後だ騒動が起きるなんて想像しなかったな。

「ツックー!!」

「っ!?」

馬車が動き出したところで窓からミュウが顔を出して満面の笑みでこちらに手を振ってくる。

「ありがとねー!」

「……どういたしまして」

返すように手を振ると、ミュウは更に眩しい笑みを浮かべて力強く手を振ってくる。

だがまあ……ミュウと再会できたのは純粋に嬉しかった事だがな。

(さて、次は………)

「…………………」

「…………………」

「……後で執務室に来い」

「分かりました」

(この大激怒の親父をどうにかしないとな)

面倒くさい……。怒らせると親父は厄介なんだよな……。仕方ない、最終手段として強制命令……だったか。それを使うか。



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