作戦の下準備
「……親父居るか?」
「ん?あぁ、居るよ」
「失礼する」
親父に断りを入れて執務室に入る。
親父も最近は疲れぎみだな。仕事の量も前よりも多いし、寝てる時間も少ないのだろう。
「……あの女の方はどうなっている」
「うむ……。『知らない』『分からない』の一点張りだ。法術でも自白できないところを見ると、本当に知らないのかもしれない」
「あの女については知らないが、一つだけ手がかりがあった」
「手がかりだと!?」
親父が机に乗り出して俺の話に食いついてきた。
これで、万が一に備える事ができる。母上を無くし、ブリストを拐われたあの失態を繰り返さないためにも、親父には充分な警戒をしてもらいたい。
「取り敢えず、極秘で頼むぞ」
「ああ。勿論だとも」
「まず始めに―――――」
「――――と言うことだ」
「まさか、ツクモにそんな事が……うむむむむむむ……」
若干の嘘を交えた情報を親父に教えると、親父は唸りながら椅子に座って考え始める
嘘をついた内容は『モルモの生死』と『パォンデロー公爵の悪事』。モルモの生死は俺の返り討ちにあって死亡したと言い、パォンデロー公爵の悪事は賄賂とレクス大陸との奴隷貿易しか話していない。また、ブリストの件も何一つとして話していない。そんな事を話しても意味がなく、ブリストの心に傷をつけてしまうかもしれないからだ。
「……取り敢えず、軍を動かし一斉摘発を」
「それは難しい。軍を動かせばパォンデロー公爵に感づかれれる可能性がある。この場合、別件逮捕が楽だ」
「別件逮捕?何だそれは」
まさか、別件逮捕も知らないのか……。まぁ、そんな事をすればどれだけの人間が逮捕されるか分かったもんじゃないがな。
「別件逮捕と言うのは、比較的軽い罪……所謂軽犯罪で捕まえ、そのあと他の犯罪を芋づる式で掘り出していく手法だ」
「確かに、その方法は有効だ。だが、あのパォンデロー公爵がそう簡単に尻尾を出すとは思えないが……」
「確かにな」
簡単に尻尾を出していたら、こんなに慎重に動かなくても良いんだがな。
「それに、あの男の犯罪の実態はウィルツァン国の王も知らない以上、賄賂の捜査から行われなければならない。感づかれる可能性が高い」
「駄目ではないか」
「だから、俺は個人で動く」
個人で動けばあまり目立たない。それに、あの男に繋がるルートは俺が保有している。それなら、俺が動いた方が早い。
「危険すぎる!三年前も僅かな掛け違いで死んでいたかもしれないのだぞ!?」
「確かに、危険だ。だからこそ、親父には幾つかしてもらいたい事がある」
「……何?」
さて、ここからが本番だ。
「一つ目、俺が出てから兵士たちの巡回路の中に水路を入れろ。また、城内の兵士たちの巡回路や時間も毎日組み換えろ」
「城内は分かるが水路を?……成る程、隠し通路潰しか」
「その通り」
冷静を取り繕いながら怒りが滲み出る親父に気迫を受け流しながら話を進める。
隠し通路を潰しておけば基本的に外から侵入される事はない。それに、万が一侵入されても巡回路や時間が毎日変われば向こうも対応できない。
「二つ目、『影』を使わせてくれ。あいつらを使えば確実だ」
「……どこでそれを知った」
「さぁ、どこでしょうか」
うわー、かなりキレ気味だな、こりゃ。まぁ、仕方ないか。
国の暗部にして諜報機関『影』。情報収集能力と暗殺能力に長け、国を裏側から支える非合法組織。そいつらを使わせろと言うんだ、怒るに決まっている。
こいつらの存在を知ったのはパォンデロー公爵のお抱え暗殺者を尋問した時だ。犯罪を犯している連中からしても『影』はヤバい組織らしい。
「……何に使うつもりだ」
「パォンデロー公爵の賄賂の裏帳簿の回収」
俺は知識や戦闘能力は高いが、潜入はそこまで得意ではない。それなら、専門の人間を使った方が効率が良い。
「分かった。『影』も動かそう」
「三つ目、親父は俺の妨害をするな」
「な、何故だ!?」
「『動くな』『喋るな』」
「―――――!?」
再び身を乗り出してこちら側に来ようとするのを強めの語気で命令して来るのを止めさせ、ついでに口を塞がせる。
「あいつを潰すのには良い方法がある。あいつから買われた奴隷を一斉解放させ、買っていた奴等を一斉検挙する絶対的な方法が。その方法を使うには親父に動かれては困るんだ」
「――!?―――――――――!」
「親父には、事後処理を頼みたい。基本的には、ヒューマンやビースター、エルフ、ドワーフの生活圏の確保だ。魔族は基本的にあいつらに敵対心を持っているわけではないが、万が一にも備えてそれぞれの生活圏を作らせておいた方が良い。それを親父に頼みたい」
「―――、―――――」
口を塞がれた親父は頭を振って肯定する。
基本的に魔族は『罪を憎んで人を憎まず』の精神が強い。そのため、前世のように刑罰を終えて反省した者を虐げることはない。そのため、戦争をした国は憎んでもそこの住民を憎むことはない。そうでなければ、何時向こうに侵略をしていたか分かったもんじゃない。生活圏を作るのは万が一に備えてだが、無いよりはましだろ。
「『喋っても良い』『動いても良い』」
「っ!はぁ……はぁ……本当にその力は凄いな」
「使いどころを見定めなければいけないけどね」
親父に課した命令を解除してから俺は部屋を出る。
そう言えば、使節団のやつらが城を去るのは何時だろう。ミュウがついてきて危険に晒されるのも困るし、なるべく早めに去ってもらいたいな。




