兵器の示唆
試食を終え、俺は自室に戻る。
この服は細かな装飾がないため王族が表舞台に出るためには不相応だからである。無論、ミュウも試食の後でウルメアが回収していった。
「……こんなものか」
正式な服に着替え、部屋に設置されている鏡を見る。
上下ともに黒を基調とし、服の至るところに金の装飾がされている。黒い手袋には左手には翼が生えた白馬、右手には手が翼で下半身が魚の女性、右胸のポケットには金色の糸で二本の角を持つ牡牛が、左胸のポケットに白い糸で巨人が繊細に編み込まれており、首に着けた白いチョーカーに竜が描かれている。
この正式な服は『ベガス』『ダゴ』『エンティ』『タウレス』、そして『ドラゴン』を象徴しておりそれらを身に纏い加護を授かる、と言う意味あいがある。
中々格好いい服装だが……やっぱり動きにくい。武器もナイフ二本を仕込める程度で戦闘には使えないな。
「っと、これは忘れてはいけないな」
脱いだ服の内ポケットからミュウの羽根を取り出して着ている服の内側に入れる。
取り出していても良いが……あいつが不機嫌になると少し場の印象が悪くなるし、ご機嫌取りのために持っておこう。
「ツクモ、いるか」
「……ああ」
部屋の扉をノックし、親父が部屋の中に入ってくる。
親父も何時もの黒いスーツから白いスーツに着替えていた。そして、両手の親指と小指に着けた四つの指輪と額に着けた装飾品に五柱が描かれている。
「参加者たちが全員会場入りして少し経ったら行くことになる」
「……それなら、少しは時間があるか」
椅子に座っている親父の話を聞きながら窓から会場である広間に繋がる通路を見定める。
見た感じ通ったのが五十人程度。今回の参加者は百人を越えるためまだ半分と少しいった程度である。
個人的には親父に祝って貰えれば充分なのだが、これも王族の務め、と言うことか。
「ツクモが春の始めに生まれて良かった。この服、夏は暑いんだよな……」
「まあ、そうだよな」
この世界の暦は星暦と呼ばれ、『始星』『純星』『封星』『朱星』『天星』『雨星』『緑星』『炎星』『残星』『麗星』『寒星』『凍星』と言う月と数字によって分けられている。うるう年はなく、一週間は七日、一年は三百六十五日である。
そのため俺の誕生日は朱星の四。前世の記憶と照合すると四月の四日と言うことになる。
これは御神『ベガス』が教えたとされる暦であるため、俺らはこれに従っているのだ。
「親父、少し話がある」
「?何かあるのか?」
「次、戦争が起きたら俺らは大きな損害を与えられる可能性が高い」
「ッ!?どういうことだ!?」
「……これだよ」
椅子から身を乗り出す親父の横を通りすぎて机の引き出しからとある物を取り出して目の前に投げる。
「これは……『鉄の引き金』か?これがどうかしたのか?」
「これ自体は問題ない。だが、これに使われている素材が問題なんだ」
俺は『鉄の引き金』を回収して机の引き出しにしまう。
「これに使われているのは白色火薬だ。火薬と言うのは知っているか?」
「ああ。今夜花火があげられるからな」
「この爆発する粉は使い方によってはとある武器を作ることができるんだ」
「……爆発しかできないのにか?確かにこれも脅威だが、そこまででは無いはずだ。」
「少量の火薬を小さな金属の筒に詰め、その筒を大きな筒から発射する。……そうすれば魔族の体でも傷つくだろ?」
「だが、避ければ良いのでは?」
「筒と言うのは一つの方向にのみ向いている。そっちの方向に爆風がいけば……避けるよりも速く体に当たる」
「……!剣や槍よりも手軽に作れてなおかつ威力もある。もし、そんなのがヒューマンたちに渡れば……!」
「強力な武器になる。肉体面で劣るあいつらが持つにはこの上ない武器ではないか」
俺が『鉄の引き金』を見つけた時に考えたのが火薬を使った究極の殺人兵器『銃』だった。銃を使えれば幼児でも簡単に大人を殺せる。この国を護るためには最悪の兵器の存在を示唆しておかなければならない。
「だが、その武器には欠点があるのでは?」
「……まあな。だから、警戒だけはしておいてくれ」
親父の指摘に首肯する。
銃は強力な反面とても精密な武器だ。剣よりも複雑で、細かい部品が一つ無いだけで使えない。火薬だって量や成分を上手く配合しなければならないため、何年もの月日がかかる。
この世界の文明レベルなら数千年程度の月日が必要となるだろう。
(……だが、勇者が存在する以上それがどう壊されるか分からない)
俺とほぼ同時期にこちらに来た勇者たち。その中に武器に精通していた場合、武装の側面ではかなり高度な発達を遂げるだろう。
警戒に越したことはない、と言うことだな。
「ツクモ様、アマノ皇。全員が来ました」
「……やっとか」
「それじゃあ、行くか」
扉をノックしてブリストが入ってきたため親父が立ち上がる。
さて、面倒なパーティーを始めるか。




