食事会と婚約
(食事会か……)
めんどくさい……堅苦しい雰囲気は嫌いなのに……。
俺が薄暗い書庫でのんびりと本を読んでいると、ミュウの城の案内を終えたブリストから告げられた内容に怒りを覚える。
全く、俺がいてもいなくても良さそうな食事会なんて、居たくないのだがな。
「ツックーいる?」
「いるぞ、ミュウ」
そう言ってミュウがドレス姿で入ってくる。
ミュウのドレスは背中に大きめな切れ目がある露出が比較的大きな白いドレスだ。向こうの国は本当に白が好きだな。けど、ミュウも白いから纏まって見える。
「食事会に行くよー!」
「……分かった」
俺の手を握るミュウに呆れながら一緒に歩き出す。
全く……見た目は完璧に美少女なのだが、どうもこうまで王族らしくないと言うか……明るくて純粋なのだろうか。まあ、それこそが俺が護りたいと思うもの何だろうけど。
「あらあら、仲がよろしいこと」
「あ、お姉様!」
「……ウルメア、だったな」
「はい、ウルメアでございます、ツクモ様」
廊下を一緒に歩いていると、ミュウと同じようなドレスを着たウルメアと合流する。
同じようなドレスを着ても、ミュウとウルメアでは気品に差があるものだ。そして、やっぱりウルメアはミュウの姉に当たる人物なのか。
「アマノ皇は特別な部屋で食べると言っておりましたが、ここで合っているのでしょうか」
「……ここだな」
壁の一部だけ変色している場所に辿り着くと、近くに飾られていた壺を右に180度回転させる。
「えっ!?壁が動いた!?」
「凄い……」
「こう言った隠し部屋は城の至るところにあるからな。ここもその一つ、と言ったところか」
変色した壁が横にズレて奥に部屋が現れるとミュウが驚き、ウルメアが驚嘆とする。
隠し部屋の多くが防音だから外から聞かれる心配はない。そのため、昔から多くの王が会食などに隠し部屋を使ってきたらしい。
「よく来てくれたね」
「はい、ご招待ありがとうございます、アマノ皇」
「よいよい、今夜は無礼講といこう。ささ、席に座ってくれ」
ウルメアが奥の席に座っていた親父に会釈をし、親父が席に座るように促す。
「それでは、さっそく会食を始めましょうか」
ウルメアが親父の反対側に、ミュウはウルメアの隣に、俺が親父の横に席に座ると、後ろに控えていた料理長が料理を配膳してテーブルに置く。
牛肉を使ったデミグラスハンバーグか。俺が料理長に教えたレシピの一つで今度のパーティーでお披露目するものを先行で食べさせるつもりか。特別感を出して向こうの印象を良くするつもりか。やはり、親父は交渉事を得意としているようだ。
「これは……!」
「おいしー!」
二人がハンバーグを美味しそうに食べているのを親父は満足そうに笑う。
こちらとしても、あそこまで美味しそうに食べてもらえるとレシピを教えた甲斐があったな。
「スープやサラダ、デザートに至るまで、ツクモが考案したものです。お味はどうでしょうか」
「ええ、ええ!とても美味しいですよ!」
「うん!ツックーありがとう!」
「どういたしまして」
一心不乱に、だけど丁寧に料理を食べる二人を見てこちらも笑みを浮かべる。
そう言えば、向こうだと野菜メインとミュウが言っていたな。それは肉の美味しさがより伝わっていると言うことか。
「……美味しい料理、ありがとうございます」
「うん、ありがとー!」
「いえいえ、あそこまで美味しそうに食べてもらえるのなら作らせた甲斐がありますよ」
「父上に同意します。あそこまで美味しそうに食べてもらえたらのなら、料理長も嬉しいでしょう」
全品を食べ終え、親父とウルメアは葡萄酒を飲み、俺とミュウは果実水を飲む。
うん、林檎のような味がする。林檎を使った果実水か。これは俺が教えたものではないし、ここで作っていたものか。
「……ツクモ様」
「何でしょうか」
「ミュウから渡された羽根をお持ちですか?」
葡萄酒を飲みきったウルメアに促され、懐からミュウから貰った羽根を出す。
この羽根は確か、発信器のような役割を持っていた筈だが……これがどうかしたのか?
「……ミュウ、良いのですか?」
「うん!ツックーなら問題ないよ!」
……あれ?何だろう。嫌な予感がするのに、不思議と心が乱れてない。こんな感じ、初めてだ。
「アマノ皇。よろしいでしょうか」
「何でしょうか」
「ツクモ様と私の妹であるミュウとの婚姻をお許しいただきたいのです」
…………は?つまり、結婚してくれ?
「……それは、何故かな?」
「……!」
言葉を聞いた瞬間、親父が何時もの十倍、二十倍と大きく見えるほどの威圧感を体から発生させる。
肌がごわごわして、この会場の雰囲気を重くする、嫌な感じだ。
「ひっ……!」
「……やめろ」
「いたたたたたたたたたたたたた!?」
ミュウが笑顔を止めて怖がっているのを見て体が勝手に動き、親父の脇腹をつねりあげる。
……ミュウから明るい笑顔を消そうとするのは、言語道断。親父でも万死に値するぞ。
「つ、ツクモ!?いったいどうしたんだ!?」
「……相手の話を聞こう。そのあと、俺が判断を下す」
「……分かった」
親父を説得して向き直る。
さて、どんな理由で婚約を結ぼうとしているのだろうか。
「我がウィルベガトリ族と貴殿たちヤマト皇国と大きなパイプはありません。そのため、大きなパイプを結ぼうと思いまして」
「……政略結婚か」
俺は政略結婚が嫌いだ。自分の意思を背く結婚なんて、ただの地獄でしかない。さっさと却下するか。
「勿論、これは建前です。対外的にはこう言えば納得してくれます」
建前かよ。つまり、本当の理由は別にあるのか。
「本当の理由は、ツクモ様がお持ちしている羽根です」
「羽根がどうかしたのか?」
「ウィルベガトリ族では己の翼の羽根を相手に渡す事で婚約を結ぶ風習があります。こちらの風習で言うなら結婚指輪のようなものなのです」
「だが、あれは親愛や友愛の証として渡されたものの筈だが?」
「……てへ♪」
ミュウがテヘペロをしたのを見て、察した。
こいつ、本当の意味を知っていなかったのか、と。
「同性に渡せばそうなります。ですが、異性に渡せば意味合いが違ってきます」
「……つまり、相手の知らないところで婚約が結ばれていたからそれを正式に言った、と言うことか」
「そう考えてもらえれば何よりです」
やれやれ、そう言う事だったのか。
個人的には政治の道具にされかねないから嫌だが、羽根を受け取ったのは俺だ。ちゃんと尻拭いは俺がしないとな。
それに、俺はミュウの太陽のような笑顔を曇らせないと誓ったんだ。
「……分かりました。婚約の話を承諾しましょう」
「ツクモ!?本当にそれで良いのか!?」
「ありがとうございます。それでは、時期を追って交渉しましょう。本日はありがとうございました」
「あ、ああ。楽しかったのなら何よりだ」
そう言ってウルメアは立ち上がり、親父に礼をしたあと部屋を出ていく。
個人的にはもう交渉に移っても良いが……まあ、後からでも出来るし、問題ないだろう。
「ありがとうツックー!」
「ぐあっ!?」
席から立ち上がったミュウは飛んで俺に抱きついてきたため席が倒れてしまう。
この様子から考えると、ミュウも俺との婚約を願っていたのか……?
「婚約を了承していたのか?」
「うん!ツックーは気心が知れてるし……何て言うんだろう、ツックーは一人で多くの事を抱え込んでいる気がしてたからその心を護ってあげたかったの」
「……俺と同じか」
「どういうこと?」
「俺は、お前の太陽のような笑顔を見てそれを曇らせたくないと思ってしまったからな。……何だ、俺とミュウは似た者同士か」
「あ、確かに!」
「「ははははははははははははははははははは!!」」
抱きつきながら俺とミュウは満面の笑顔で笑いあう。
それにしても、ミュウがそんな事を考えてくれていたとは……嬉しいような悲しいような、そんな感じがする。
「ああ……ミリア……息子の婚約があっさりと決まってしまった……本当に顔向けできない……」




