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闇夜の暗殺者

「見つかったぞ!」

「速すぎだろ!?」

「ごふ!?」

俺が取り仕切っているパーティー会場である大広間に乗り込んできた親父に向けて計画書を投げつける。

仕事中に他の仕事の話をされても困る。俺は聖徳太子じゃないんだよ!

「それで、見つかったと言うと朝の……」

「ああ。一人はアリエス商会からの打診で送られた商人見習い。もう一人はとある男爵の子息にあたる」

「はあ……。取り敢えず、この仕事が終えたらそっちに行くから会場から出ろ」

「う、うむ……。そこまで言わなくて」

親父に要件を言わせて会場から蹴り飛ばし、床に落ちていた計画書を拾う。

親父がいると準備するメイドたちに余計な心労をかけてしまい、くだらないミスをされてしまう。今回ばかりは、ミスは大きな命取りになる以上、許されない。それなら、親父をここに越させなければ良い。

「皇子、この燭台は」

「それは左から三番目の席だ」

「この調度品は」

「それは向こうの壁に沿うように置け」

メイドや執事たちに矢継ぎ早に命令していき、こちらとしてもかなり大変だ。

それにしても……やっぱり派手だ。豪華絢爛な大広間に純金のシャンデリア、金細工で作られた壁紙、庭に面したバルコニーに高級なカーペットが敷かれ、テーブルには銀の燭台何かが置かれている。

(……やっぱり、落ち着かない)

俺は基本的に宝石や金で装飾をあまり好まない。どちらかと言うと雅楽や和服、浮世絵などの雅で粋な物の方が好ましい。質素の中にある美は何とも言えない趣を感じさせるからな。

「皇子―――」

「ああ、分かった」

会場の会場に対する僅かな嫌悪を感じているとメイドの一人から声をかけられて仕事に戻る。

けど、そんな事を言える立場じゃないんだよな。郷に入ったら郷に従え……だ。


仕事が一段落したし、親父のところに行くか……。疲れてるし、なるべく早めに終わらせたいのだが……。

「失礼する」

「よくきたな、ツクモ」

「お疲れ様です、ツクモ様」

執務室に入ると物理的に紙に埋もれた親父と苦笑いしているブリストが待っていた。

最終的な許可証ばかりだから、書類に適当にサインを書けば良いのに。まあ、貴族どもの苦情だったら横暴だったら無視するけど。

取り敢えず、今の状況はスルーしよう。

「それで、呼んだ連中はどこにいるんだ?」

「ああ、入ってきてくれ」

親父が埋もれた紙から手を出して叩くと、奥の扉からリリンと同い年くらいの茶髪のドラグニカ族の少年が入ってくる。

リリンは今は商人見習いとして働いているから商会から派遣されたのがリリンで男爵の息子がドラグニカの少年か。

「……久しぶり、アリエス」

「久しぶりだな、リリン」

部屋に入ってきたリリンと俺は握手を交わす。

前は痩せ細っていたけど今はすっかり程よい肉付きになっている。

「え、リリン殿とツクモ様はお知り合いなのですか!?それにアリエスって……」

「……うん。アリエスはツクモの偽名。ツクモはアリエス商会の代表で和紙や着物何かはツクモが始めて作った」

「……凄い。そんな人物だったのですね……」

リリンが俺の表での略歴を話すとドラグニカの少年は俺の目の前で跪く。

「自分の名前はヨモル・ボルドー。ボルドー男爵家四男です」

「ボルドー男爵家……確か、ウィルツァン国と面している場所に小さな領地を構えている男爵だったな」

「よくご存じですね」

逆に言えば、それ以外に何一つとして目立ったものがない領地だ。土地も凡庸で特産品の類いは多くない。

「一々見下ろすのは首が疲れてしまうし、ヨモルにとって負担にしかならないから立ってくれ」

「は、はい!」

俺が無愛想に命令するとヨモルは勢いよく立ち上がる。

緊張でガチガチだな。全く、緊張して失敗されても困るのだが。なるべく緊張を解してもらいたいものだ。

「それでは、明日からよろしく。部屋はブリストに案内させろ」

「畏まりました」

「俺はさっさと寝させてもらう」

後の仕事をブリストに押し付けると俺は執務室から出る。

まさか、サードが派遣したのがリリンだったとは意外だが……まあ、スラムにいた頃から冷静だったし仕事もすぐに慣れるだろう。

問題はヨモルか……。一々親父や俺に会っているだけで緊張してもらっても困る。明日はあいつに仕事を押し付けまくって仕事に慣れさせるか。

「それにしても、今日は新月か」

窓の外を見て呟く。

この世界も周期は前世と同じで、月に該当する衛星があるため俺はそれを月と呼んでいるのだ。ちなみに正式な名前は『シーラ』である。

「………………」

誰か、いるな。(・・・・・・・)

ブリストやリリン、ヨモル、親父何かじゃない。とてつもなく濃い気配だ。そして、向けられているのは……殺気。となると、暗殺者か。暗殺者ギルドは潰したから恐らく貴族や豪商が飼っている(・・・・・)暗殺者か。

はあ……。俺も有名になったものだな。

「狙いは良いけど、急所に目掛けすぎだ」

「なっ……!?」

背後から投げられた物を少し体をずらして翼に当てて弾き飛ばす。

三年前に比べて俺の鱗の硬度は更に上がった。結果、ナイフや針程度では刺さらないどころか傷ひとつつかない。

「そこか」

体を反転させ闇に紛れる暗殺者に向けて疾走し跳躍してドロップキックをかますが避けられる。

「バーカ」

がら空きの背中にナイフを突き立てようとした暗殺者の腹に肘鉄を打ち込む。

隙を作れば相手は油断する。だが、その油断が命取り。真っ正面なら殴りあうつもりはないしな。

「ガハッ!!」

肺の空気を全て出されて踞る暗殺者の頭を掴み鳩尾に膝蹴りを入れて気絶させる。

さて、取り敢えず殺しても良いが……血で汚れても困るし、後の処理も困るしサードに引き渡して尋問させるか。

「よっこらせ」

俺は暗殺者の襟を掴み引きずって自室に入り、机の引き出しの一つを押し込み壁の一部を開く。

ホント、どこにでも秘密の通路があるな。この暗殺者も秘密の通路から入ったのかな?けど、暗殺者ギルドが使っていた通路は埋めたし……。

「考えても仕方ないか」

俺は考えるのを諦めて通路を下りていく。

どうせ、こいつの口から吐かせれば良いだけの話なんだからな。

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