比護される者の誘拐
「……遅いな」
「そうですね、殿下」
俺は食堂のテーブルでエントレイ族の料理長と小魚を摘まみながら二人を待っていた。
料理長は祖父の代からここの料理場を取り仕切っており、俺ら王族やブリストのような従者、執事等の腹を満たしてくれる存在だ。
「そうだ。殿下が教えてくれたレシピ、皆さんからとても好評でしたよ」
「そうか。だが、俺はあくまで教えただけで作ったのは料理長だ。俺を褒めるのはお門違いだと思う」
俺は料理を作らない、と言うよりも作れない。前世の料理のレシピを教えるのは簡単にできるが作ることはあくまで料理人がすべき事であり、その仕事を奪うのは良くない事だからだ。
「いえいえ『マカロン』や『ラクレット』、『ブフ ブルギニヨン』、『カスレ』『タルティフレット』等々はとても簡単に作れてそれで美味しいですから、私たちも楽できます」
「俺が教えた料理は簡単に作れて素材も安価で手に入るものだ。平民でも簡単に作れる代物だから料理長ほどの人物なら簡単だと思えれる」
「確かに……このレシピなら簡単に作れますね。そうだ、こう言った料理を平民にも教えれれば……」
「それは面白い。料理本を作れればそれなりに売れるかもな」
料理本か……。その場合、分かりやすくするために絵を描いてみるのも良いな。となると、絵の具の量産と本の量産法を開発しないといけないな……。
「それにしても、本当に遅いな」
「あの二人は約束をしっかりと守る人たちですし……仕事が終わったらすぐに来る人たちだと思うのですが……」
少し、嫌な予感がする。
「それじゃあ、様子を見てくるよ」
「分かりました」
「小魚ありがとな、料理長」
「いえいえ、この程度なら安いことですよ」
料理長に礼をした後、俺は食堂から出て走り出す。
あいつら、何をしているのだか……。
(……ん?この匂い……)
まるで血のような鉄の匂いがあいつらがいた場所から臭ってきたため顔を歪める。
一体、何が……。
「アリ……エス……」
「リリン!?」
シーツを干していた場所で体から血を流して倒れていたリリンを抱えるとリリンが僅かに瞼を開ける。
リリンの目の焦点が合っていない。出血箇所は頭、首もとで傷口は大きくない。
多分刃物の大きさがそこまで大きく無く、出血もそこまでしていないからリリンは生きているのだろう。
「ブリスト……ちゃん、暗殺、者に……連れて、かれた…」
「暗殺者だと……!?」
馬鹿な、俺は確実に暗殺者ギルドを潰した筈だ。それなのに、何故……!?まさか、あの地獄に立ち会わせていなかった暗殺者がいたのか……!
「取り敢えず、お前を医務室に送るからしっかりと掴まってろよ」
「う、ん……!」
俺がリリンを抱き上げるとシーツに黒いインクで書かれた文字が目にはいる。
『我らの友を奪いし狂人よ、汝の大切なものを奪った。明日の夜の零時に霊廟にて決着をつけよう』
くそ、何が決着だ……!俺の母上を殺し、ブリストを拐ったお前らに何一つ慈悲は与えない。徹底的にねじ伏せてやる……!




