酒場での闘い
「たのもー」
ドアを蹴破った瞬間、中から凄まじい敵意の視線を感じ、こちらも殺気を漏らしていく。
中では壁にランプが灯され、テーブルで酒を飲んでいる奴が十人弱、カウンターで飲んでいるのが三人と言ったところか。この様子や雰囲気から考えてこいつらは全員が暗殺者、もしくはそれに該当する存在である事が分かる。
「おやおや、貴族の坊っちゃんがこんな汚い酒場に何の用ですかい?」
「報復だよ。……俺に手を出した馬鹿どもとその組織へな」
「「「「!?!?」」」」
下品なニヤニヤとした笑みで話しかけてくる女の目の前に引きずってきた男の死体を放り投げると、全員の視線がそっちに向かう。
この反応は全員の共通の知り合いと見て間違いないだろう。敵は全員皆殺しにする。容赦は……しない。
「がっ!?」
こちらを警戒していなかった近くにいた男の肩に乗っかり、一瞬で首をへし折る。
「なっ!?」
「てめぇ!」
倒れるのと同時に男の腰から剣を抜き取り、テーブルに着地して迫ってくる男の両目を横に一閃して潰す。
にしても、大の大人が持つような武器を持っても何一つ体の芯がぶれていない。この体、俺が予想しているよりも遥かにハイスペックなのかもしれないな。
「「ぎゃあああああああああ!?」」
「喚くな、五月蝿い」
「そうだな。その通りだ」
男の首を切り飛ばすのと同時にもう一人の男の頭に鎖をつけられた分銅が直撃し、倒れこむ。
「……鎖鎌の類いか」
「良くわかってるね。これは東側では結構有名な暗器でね、私は仕事では良く使ってるよ」
鎖を引き戻して分銅を振り回す女を主軸に警戒しながら他の男たちも警戒する。
この女、そこら辺のゴロツキとは気配が違う。多分だが、この女はベガトリ族の凄腕の暗殺者。
「何故味方を殺した」
「使い物にならない奴は闘いの場にいるだけで邪魔だからねぇ」
「成る程、それは合理的だな」
言葉を喋りながら剣を回転させるように投げ、女の背後にあった酒が置かれた棚を出来る限り破壊し、多くの酒の入ったビンが床に落ちて壊れてしまう。
「あんたら、やっちまいな!」
「「「分かったぜ姉さん!」」」
「やはり、そう来るか」
女の声と共に押し寄せてきた奴等を避け、天井の隙間に足の指を入れて張り付く。
「なっ!?」
驚いた一瞬を突き、足の指を外して男の顔面に手を置き、体重と握力をかけて顔面を潰す。
「こいつ、なんつーパワーだ!」
「ほいっと!」
死んだ男の体に乗りながら近くの男を殴ろうとした瞬間、鎖付き分銅が俺の腕に絡まり拘束される。
「ちっ……あんたら!今のうちだね」
「分かりやした姉さん!」
「そう言えばこの武器はそう言った使い方だったな」
振り下ろされた男のナイフを絡まった鎖で弾き、後ろからきた攻撃も鱗に覆われた尻尾で絡めとる。
……そろそろ気化してきたか。
「なあ、知っているか?」
「あぁ!?」
全面から来る攻撃を両腕両足尻尾で弾き絡めとりしながら俺は笑う。
「酒の主成分のアルコールは引火しやすいんだぜ?」
「っ!まず……!」
動ける範囲で跳躍し、壁に掛かったランプを女の方向に投げた瞬間、俺が起こそうとしている事に気がついた女が鎖鎌を手放して逃げる。
「「「「「ぎゃあああああああああああああああああ!?」」」」」
ランプが落ちて破壊した瞬間、カウンターの近くにいた物や人に引火する。
棚を壊せば酒ビンが落ちて酒が外に漏れ出る。そしてそこにランプを投げ込めば発火する。だが、発火すればこっちも時間制限が出てくる。
こっからが正念場だ。
「ぎゃあ!?」
「て、てめごふっ!」
絡まった鎖を引き鎌を手にし、近くにいた男の首の重要な血管を切り裂き、その勢いのまま後ろにいた男の心臓を突き刺す。
「なっ!?」
「どきな!」
「ちっ……」
背後にいた男の足を凪いで転ばせてその勢いのまま心臓を穿とうとするが、女の手に持ったナイフで弾かれてしまう。
「生き残ってる奴等は火を消火しな!!」
「「「は、はい!」」」
消火しても良いが、俺は容赦なく殺らせてもらうぞ。
「強いな……!」
「体格差が大きい以上、逃げに徹しさせてもらっているだけだ」
女のナイフを跳躍して回避しながら鎌で攻撃を仕掛けていくが、中々当たらない。
仕方ない。時間を稼がせて貰うか。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
「くっ……!」
高速で振り回させるナイフを鎌で防いでいくが、鱗の幾つかに薄い線が刻ませれていく。
だが、この状況でその動きは予想以上に俺にとってよい方向に流れている。
「ぬおあぁぁぁぁぁぁあ!」
「ちっ……!」
遂に頭の鱗の幾つかが欠け、頭の痛みに顔を歪めるふりをする。
そろそろかな………
「ぐっ……あっ……!?」
突如、女は攻撃手を止め、喉を手で押さえて苦しみ始める。
俺が狙ったのは一酸化炭素中毒だ。一酸化炭素は血液内のヘモグロビンと酸素よりもくっつきやすい。そして、動けば動くほど体が酸素を欲しがり、症状は重症化していく。
俺が頭痛程度の軽い症状で済んでいるのは俺が女よりも身長が低く、そこまで激しく動いていないからだ。
「お前の仲間は既にあの世に行っているよ」
「ふざけ……んな……!ガッ!?」
火の近くで水の入った桶を持って倒れている奴等を伝えると、女は苦しさと怒りに顔を歪ませ、俺はその女の口の中に鎌を突き刺す。
「さて、俺はさっさと撤収させて貰いますか」
酒場を出ると、辺りは騒然となっていた。
これだけ細い道でてんやわんやしているんだ、逃げるのにはもってこいだ。さっさと逃げてしまおう。




