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JKときどき死神  作者:
第二章 招かれざる新入部員
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モテ期到来?

 翌日いつもどおり登校して教室に入ると、自分に向けられるクラスメイトの視線が普段と少し違うように感じられた。変な寝癖でもついているのかと思い席に着いた僕が髪の毛を撫でつけていると健と堂島が近づいてきた。

「なあ大吉、昨日のあの子誰だったんだ?」健が尋ねた。

「え? ああ、ただのオカ研の入部希望者だよ」ようやく僕は先ほどの違和感の原因を理解した。

「でもさ、スゲーかわいくなかったか、あの子?」今度は堂島から質問を浴びせられる。

「たしかにかわいいな」堂島の意見に異論はなかったし、正直あれだけかわいい子だったらぜひお付き合い願いたい。彼女が死神じゃなければ。

「一年生だろあの子? 大吉には悪いけど、オカ研にはもったいないよ。テニス部とかいいと思うんだよなあ」

 健にそう言われて僕は遠藤がテニスウエアに身を包んだ姿を想像してみた。たしかにいいね。

「でもなんでオカ研なんかに入部したんだ? クラブなんて他にいくらでもあるのに」堂島が解せないといった表情で尋ねた。

「『なんか』ってあんまりだろ――あとまだ正式に入部したわけじゃない」

「え、まだなのか? なら逃げられないようにしろよ」健が心配した様子で言った。

「さっさと弱みを握ってしまうことだな」堂島が邪悪な笑みを浮かべた。

「オカ研はそんな悪質な部じゃないんで」

 二人に散々オカ研をけなされていると突然僕を呼ぶ声が聞こえた。

「蒲生君、お客さんだよ~」クラスメイトの宇賀神(うがじん)だった。

 お、例のあの子か? 健と堂島はにやにやと笑いながらこちらを見た。僕は照れくさい気分になりながら烏羽色の髪をした少女が現れるのを待った。ところが宇賀神に促されて扉から顔を出したのは、なんと轡だった。

「Oh...]健と堂島は、額に手を当ててしかめ面をしたり頭を抱え込んだりして大げさに失望感を表した。アメリカのスクールドラマかよ。

 それにしても内気な轡がこうして僕のクラスに来るのは極めて珍しかった。緊張しているのかその顔は若干こわばっている。待っていればこちらに来るのかと思ったが、一向に扉の所から動く気配がない。仕方なく僕の方から彼女を迎えに行った。

「どうしたの?」

「……企画書……つくった」

 そう言って轡は遠足のときに配られるような「しおり」と書かれた小冊子を二部手渡した。題は『真夜中の宝山神社散策』であった。余白のところどころにかわいいイラストが描かれている。ここら辺はかろうじて女の子らしい。

「これ一日でつくったの?」

「……頑張ったから」

 純粋に新入部員を歓迎する気持ちでこれをつくったんだったら素直に讃えるところだが、そうじゃないから反応に困った。

「宝山神社って、橋を渡ったところにある、あの?」

「……そう」

「でもここからだと結構遠いでしょ。そもそも車がないと行けないような場所だし」

「……それについては……心配しないで」どうやらアテがあるらしい。

「分かった――読んどくよ。でもなんで二部くれるの?」

「……あの子に……渡しといて」

「自分で渡さないの?」

「……ヤダ」

 僕が何か言おうとすると用件を済ませた轡は引きとめる間もなく帰ってしまった。どうしたもんかなあと途方に暮れて彼女から渡されたしおりを眺めていると、僕たちのやり取りを隣で見ていた宇賀神がぐっとのぞき込んできた。

「ねえねえ、それ何?」

「ええと――ウチの部で新入部員歓迎会みたいなのをやるんだ。そのしおり」突然話しかけられた僕はどぎまぎしながら答えた。

 宇賀神菜々を一言で形容するならばチャラい。それに尽きる。一応校則で髪を染めてはいけないことになっているのだが完全に明るい色をしているし、メイクもばっちりだ。スカートもパンツが見えないのが不思議なくらい短い。誰に対しても歯に衣着せぬ物言いでずけずけと話し底抜けに明るい。見た目や話し方はちょっとアレだけど不思議と不愉快な感じはせず、気の良い性格で誰とでもうまくやっていた。実は親の仕事の都合で四月に転入してきたばかりなのだが、ひと月も経たないうちにクラスの人気者になっていた。さらに言えば髪の毛を染めたり化粧なんかしなくても、彼女の容姿は校内でもトップクラスだったため特に男子の中で人気が高かった。

 つまり簡単に言ってしまうと、宇賀神は僕みたいな根暗野郎とは対照的な存在であり普段会話を交わすことなど皆無に等しかったのだ。いや、実際のところ僕の方が勝手に苦手意識をもって避けていたという方がより正確なのかもしれない。それにしても香水でもつけているのだろうか。すごく甘くて良い香りがする。

「へえ~それって昨日教室に来てた子も来るの?」

「来る。ていうか入部希望者は今のところ遠藤だけだから」

「あの子遠藤さんっていうんだ。新入部員歓迎会って何するの?」

「だいたい肝試しみたいなものかな。今回のはまだしおりを読んでないから分からないけど、多分同じような感じになるんじゃないかと思う」

「へえ~面白そう。ねえ、それわたしも参加していい?」

「えっ!? 別に構わないけど――ひょっとして宇賀神さんも入部希望?」

「違う違う。わたしはもうラー研に入ってるから」

「なんだ――ていうかラー研なんだね」 

 ラー研とはラーメン研究会の略で、その名のとおりひたすらラーメンを食べ歩く部である。一見とても楽そうに思われがちで、僕みたいな部活動にヤル気のない生徒が寄ってくるのだが脱落者が後を絶たなかった。というのも部活動には極めて真剣に取り組んでいるため、放課後は数件のラーメン店をハシゴするのは当たり前、休日になれば客なんて本当に来るのかと言いたくなるような山奥の店に丸一日かけて遠征したりするらしかった。このように文科系の中でもかなりマッチョな部であったため、ついていけずに辞めていく生徒も多かったのだ。

「わたしラーメン大好きだから。知らないお店に連れて行ってもらえるし楽しいよ。それじゃあわたしもその肝試しに参加ってことで、ひとつ提案があるんだけど」

「なに?」

「こういうのって大人数でやった方が楽しいと思わない?」

「まあどっちかっていうと」

「健君も誘おうよ」

 僕はここでピンとくるものがあった。宇賀神の目的は健なのだ。以前から薄々感づいてはいたのだが、彼女はどうやら健に気があるらしい。健は長身で顔も良く運動も勉強もそれなりにできる。おまけに僕なんかの友達にしとくにはもったいないくらいの良いやつとくれば、モテないわけがなかった。それにしても健には「メグちゃん」という彼女がいて、本人はそのことを別に隠したりもしてないのだが、それでもアタックしてくるあたり恋する乙女はたくましい。でも今回ばかりはその恋心を利用させてもらうのも悪くないと思われた。というのもイニシエーションの参加人数が増えればそれだけ轡の負のオーラが薄まるからだ。彼女と遠藤とのあの重苦しい雰囲気の中で僕ひとりが板挟みになるのは避けたかった。

「分かった、誘ってみる。堂島も誘うけどいい?」

「げっ! 堂島!? ……別に構わないけど」

 気の毒なことに健と違って堂島は女子からまったく人気がない。顔はお世辞にも良いとはいえないし中肉中背でこれといって秀でたところもない。もっとも僕も良い勝負なのだが。おかげで僕たち二人はいつも低レベルな百年戦争を繰り返していた。

「じゃあ後でこのしおりコピーして渡すから」

「ありがとー。あとわたしの連絡先教えとくね」

「え? いいの?」

「当たり前じゃん。逆になんか不都合でもある?」

「ないけど――」

 何というか今までろくに話したこともない宇賀神が、僕にあっさり連絡先を教えてくれたことに驚いたのだ。これが世にいう「モテ期」というやつなのだろうか。僕は珍しくうきうきとした気分で一限目の授業に臨むことができた。

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