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JKときどき死神  作者:
第七章 神の法
43/47

真相

「失礼しまーす」

「失礼します」

 宇賀神の明るい声とは対照的に僕の声は沈んでいた。遠藤は無表情だった。僕たちが入ったのは保健室だった。

「あら、なんだか珍しい組み合わせね。でもごめんね、今日はもう帰っちゃうの」大川先生はいつもどおりの優しく、しかしどこか哀しい笑顔を浮かべた。

「そっか~残念! でもせんせー、とっても大事な話があるから帰るのは少し待ってほしいんだ」そう言って宇賀神は近くにあった丸椅子に勝手に腰かけた。

 宇賀神は終始笑顔を崩さなかったが有無を言わせない雰囲気があった。先生もそれを察したのか、机上の書類を片づける作業を中断して身体をこちらへ向けた。

「大事な話って?」

「例えばね、せんせーはある人が若くして死んで、別の人がすごく長生きするのってどう思う? 不公平だと思う?」

「どうしたの、急に?」

「いいからいいから。せんせーの考えを聞かせてよ」

「一時期そんなことばかり考えていたけど――でも、私の個人的な話になっちゃうわよ?」

「それが、聞きたいの」

 宇賀神の唐突な要求に先生ははじめ戸惑った様子を見せていたが、数秒間目をつぶってからやがて口を開いた。

「大事な人を突然失ったときにね、私はその人を恨んだわ。どうしようもなく憎くて憎くて仕方なかった――何で私を、息子を置いていったのかって。自分自身を責めたりもしたけど何も変わらない。ああしとけばよかったとか後悔もしたけど、もっとつらくなるだけ。ごく普通に、でも幸せそうにしているよその家庭を見ていると、なぜ私にはこの当たり前のものが手に入らなかったのだろうって妬ましくなった。不公平かと聞かれれば、不公平だと答えるわ。でもそんなこと喚いたって、誰も聞いてくれない――誰も」

「そう。そうなんだよね。普通は誰も聞いてくれないから諦めて、時間とともに忘れちゃうしかないんだ。でも――」そう言って宇賀神は右手を先生に向かって差し出した。その手にはいつの間にか黒蜥蜴が握られていた。

「――せんせーの場合、それを聞いてくれる相手がいたのが不運だったね」

 宇賀神の口調は背筋が寒くなるほど冷淡だった。銃口を向けられても先生は眉一つ動かさず氷のような瞳をただ見つめ返しているだけだった。僕は一縷の望みをかけた。先生が普通の人間なら宇賀神の銃鎌は見えない。そうすれば先生はこの事件と無関係だ。一秒一秒が圧縮された一時間のように感じられた。

「そう――あなたもあの人の仲間なのね」先生は観念したように目をつぶった。

「先生……」僕はどんな言葉をかけてたら良いのか分からなかった。

「宇賀神さん、今度は私に質問させて――あなたには大切な家族を突然失った人の気持ちが分かる?」先生の口調は相変わらず落ち着いていた。

「分かんない。わたしたちはいつだって奪う側だから」

「あなたたちにも色々なタイプがいるのね、人間と同じで。あの人はもっと優しかったけれど」

「あの人って遊馬(あすま)龍一のこと?」

「ええ」

「あいつを信用しない方がいいよ。甘い言葉で近づいてくるけど本質はわたしと一緒」

「……そうかもしれないわね」

「念のために確認するけど、遊馬から死神の力を授かったのは間違いない?」

「ええ、間違いないわ」

「その力を使ってここの生徒の寿命を採取したことも認める?」

「……」

 先生は少しの間無言を貫いた。しかし小さなため息を吐いた後「私がやりました」とかろうじて聞き取れるような声で答えた。

「先生、なんでこんなことを?」僕はそう尋ねずにはいられなかった。あの優しかった大川先生が、生徒を大切にする大川先生が犯人だなんて信じられなかった。

「……蒲生君は、普通の人間なの?」

「ええ、僕は」でもひょっとしたら、これだけ死神と関わっている時点でもう普通の人間を名乗る資格などなかったのかもしれない。

「そう……」

 先生は目をつぶって少し考えるようなそぶりを見せた。そしてやがて再び話し始めた。

「蒲生君は私が夫を亡くしていること知ってる?」

「……はい」

「そう――今は息子と二人で暮らしてるの。さっきも話したけどね、夫を亡くしたときは本当に憎くて憎くて許せなかった。私と生まれたばかりの子供を残していってしまうなんてね。でも、もともと心臓があんまりよくなくて、亡くなったのもそれが原因だったから誰も責めることはできなかった。いっそ私も死んでしまえば楽になれるのかなって考えたこともあったけど、子供を守らなきゃっていう気持ちが何よりも強かった。自分がいなくなったらこの子は誰が育てるんだって――」ここまで話すと先生は感情を抑えきれなくなり時折ハンカチで目頭を押さえた。

「――私は息子と二人で生きて行く覚悟を決めたし、一緒なら大丈夫だって思ってた。でも――この子も生まれたときから病弱だったんだけど、夫が亡くなってしばらくしてから急に具合を悪くして病院につれて行ったら――医者からもう長くはないって言われたの」

 僕は無言で先生の話に耳を傾けるほかなかった。テレビのドキュメンタリーなどでこういった不幸が立て続けに起きる人を見たことはあったが、現実にそういった人を前にしてどのような言葉をかければ良いのか見当がつかなかった。ただ生半可な慰めは相手を余計に傷つけるだけなのだろうから、それはやめておいた。

「もう頭が真っ白になってね、どうしたらいいのかなんて分からなかった。息子と死のうと考えたりもした。でも息子の笑顔を見てると、私が勝手にその命を奪うのも躊躇われて、最終的には息子を見届けたら自分ひとりで死のうって考えてた。考えてたんだけど――ある日病院の待合室で遊馬さんが声をかけてきたの。死神がどうとか言うものだから、はじめはちょっとおかしな人か宗教の勧誘だろうって思ったんだけど、実際に常識では信じられない力をまのあたりにして、遊馬さんの言うことを信じるようになった。そして彼は息子を助ける方法があると教えてくれた。本当に藁にもすがるような気持ちで彼の話を聞いたわ」

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