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JKときどき死神  作者:
第六章 銃声
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接吻

 相手にもう戦闘の意思がないと判断するや遠藤も鎌をおさめて僕のもとに駆け寄ってきた。

「せんぱい、大丈夫ですか?」

「……大丈夫に見える?」蚊の鳴くような声しか出なかった。

「ほんと、鬼畜な後輩をもって幸せだね。はい、これ」そう言って宇賀神がパックに入った液体ゼリーのようなものを僕に手渡した。

「これは?」

「霊力補給剤。滅多に使わないんだけど念のために持ち歩いてるの。少し賞味期限切れちゃってるけど、ま、大丈夫でしょ」

「……ありがとう」僕は素直に礼を言ってそれを受け取った。

 ひょっとすると罠かもしれないという疑念が一瞬よぎったが、宇賀神を見ているとそんな警戒心が馬鹿らしく感じられた。どんな味がするんだろうと恐る恐る口にしてみたところ、いかにも人工的なリンゴ味であったが想像していたよりもはるかに飲みやすかった。そして何より驚いたのが、先ほどまで指一本動かすことさえ苦痛だったのがまるで嘘のように肉体に活力が戻ってきたことであった。

「さてと、かわいいかわいい委員長にはこっちをあげようね」

 宇賀神はいまだ椅子で眠っている委員長の頭をいとおしそうに撫ででていたかと思うと、唐突に気道確保の要領で彼女の頭部をぐっと背中側に反らせて口を開かせた。そして黒蜥蜴を抜き銃口を無理やり押し込んだ。

「お、おい、何を――」

 僕の制止を待たず宇賀神は引き金を引いた。再び乾いた銃声音が部室にこだました。委員長もまた血を流すことはなかった。

「宇賀神!! お前、委員長をよくも――ッ!!」

 感情的になった僕が宇賀神に殴りかかろうと立ち上がると、後ろから遠藤に羽交い絞めにされた。

「せ、せんぱい、落ち着いてください! 彼女は採取した寿命をもとに戻しただけです!!」

「……へ?」

「大吉君はせっかちさんだなー。死神の鎌は命を奪うだけじゃないんだよ」宇賀神は黒蜥蜴を委員長の口から抜くと唾液のついた銃口をぺろりとなめて再びホルスターに収めた。

「な、なんだ……」拍子抜けした僕は再びがくりと椅子にもたれかかった。

「さて、そろそろお姫様を起こそうと思うんだけど、大吉君、やる?」

「やるって、何を?」

「そりゃあ深い眠りについたお姫様を起こす方法っていえばアレしかないでしょ」

「……え……え?」アレってまさかアレのことか。

「キスですね」遠藤が無表情で言った。

「いやいやいやいや、それはまずいでしょ。寝てるところにキスなんて反則を通り越して犯罪だよ」

「なーに固いこといってんのさ。大吉君はそれくらいしたっていいんだよ。そんなに身体張って委員長を助けようとしたんだから。なんならキスだけじゃなくて×××したっていいくらいなんだから」

「それはほんとにシャレになんないよ……」

「ほら、つべこべ言ってないで男なら据え膳食べなきゃ」そう言って宇賀神は僕の首根っこをつかむと、その華奢な身体から想像もできないくらいの怪力で無理やり委員長のところへ引っ張っていった。

 危機が迫っていることを知らない委員長は僕の目の前で安らかに寝息を立てている。普段は地味だからあまり意識したことないけど、こうやって改めて見てみると委員長って整った顔立ちをしていて結構かわいいな。ぷっくりとした薄紅色の唇はとても柔らかそうだった。僕は生唾を飲み込み、さてどうしたものかと途方に暮れてしまった。自慢じゃないがこれがファーストキスなので、いまいちどうしたら良いのか分からない。

「キース! キース! キース!」後ろから宇賀神が手拍子を取りながら圧力をかけてくる。

 僕はちらりと遠藤の方を見たがプイと視線をそらされてしまった。なんかフォローしてくれよ。バクバクと心臓が高鳴るのを感じながら僕はようやく覚悟を決めた。ええい、なるようになれ。半ば投げやりな気持ちで自分の顔面を委員長めがけて押し付けた。ヘッドバットみたく若干おでこがぶつかったが、ぷにりとした感触で一応キスが成功したと分かった。眠っている委員長には大変申し訳ないのだが、いけないことをしているという背徳感からか言いようのない興奮を覚えたのは否定できなかった。正直もっとこのやわらかい唇を堪能したいという誘惑に駆られたが、さすがに罪悪感もあったのですぐにやめてしまった。

「……これでいいだろ」僕は宇賀神に言った。

「そんなんでいいの? もっとこう、ベロベロ~ってかんじでやっちゃっていいのに」

「いや、やっぱりこういうのはお互いの同意があってこそで――」

「真面目だね~。ま、いいけど」

「でも、こんなので本当に目が覚めるの? キスしといて今さらだけど」

「覚めないよ」

「へ?」

「大吉君は単にキスしただけ。本当はわたしが委員長に寿命を返した時点でしばらくしたら目が覚めるよ」

「……え、じゃあ何で俺にキスさせたの?」

「大吉君頑張ってたから、ご褒美をあげようかと思ってさ」

「いやいやおかしいでしょ。遠藤だって分かってたんじゃないのか? 止めてくれよ」

「せんぱいはスケベですから止めたら残念がるかなと」

「遠藤は俺のこと誤解してる……」それにしても委員長には悪いことをしたな。

「さーて、じゃあそろそろ委員長を起こそうか――ほら、委員長、起きて」そう言って宇賀神は委員長の肩を叩いた。

「……う……ん……」委員長は小さく唸ると微かに目を開いた。

「……菜々……ちゃん……?」

「お、やっと目が覚めたね」

「……あれ? 私、何してたの? さっきまでたしか……遠藤さんと話していて……」

「委員長は遠藤と話している途中で急に寝ちゃったんだ。宇賀神さんは委員長を探してこの部室に」

「え……また私……ごめんなさい」再び居眠りをしてしまったと勘違いした委員長は明らかに落ち込んだ様子であった。

「でも多分、眠くなる件はもう大丈夫だと思いますよ。さっきまでと比べて身体軽くないですか?」

「……言われてみれば……あれ? ほんとだ、なんだかそんな気がする。どうして?」

「それは秘密です。強いて言うならおまじないをかけたというところでしょうか。もし明日の授業中眠くなるようでしたら、そのときはまた来てください」

「……ほんと、オカ研の人って不思議だね」委員長は狐につままれたような顔をしている。

「さあ、委員長そろそろ行こうか」

「すみません、宇賀神せんぱいは残ってください。少しお話がありますから」

 委員長を伴って部室を出ようとした宇賀神を遠藤がすかさず制止した。たしかにこのまま彼女を帰すわけにはいかない。立ち止まった宇賀神は遠藤をじっと見つめ返したが、やがて観念したように小さくため息をついた。

「……委員長ごめんねー、先に帰っててくれる?」

「うん、大丈夫だよ菜々ちゃん。別に何ともないし」

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