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JKときどき死神  作者:
第六章 銃声
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黒蜥蜴

 どさりと大きな音を立てて床に倒れた遠藤はピクリとも動かなかった。

「え、遠藤? 遠藤っ!?」

 眼前で何が起きたのか理解できない僕は、ただひたすら彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。霊力を取られた影響で頭がくらくらしたがそんなこと構ってはいられない。一方で宇賀神は眉一つ動かさず倒れこんだ遠藤を見下ろしている。

「おい、宇賀神!! お前遠藤に何をした!?」

「あれ、大吉君ってもっと紳士的な人だと思ってたけど、案外乱暴なしゃべり方をするんだね?」宇賀神はこちらを見て普段と変わらない明るい笑顔を見せた。

「答えろ宇賀神!! 遠藤に何をしたかって聞いてんだよ!!」

「怒らない怒らない。これを撃っただけだよ」

 そう言って宇賀神は右手を開いてみせた。その手には何か黒光りするものが握られている。目を凝らすとそれは映画の暗殺シーンで使われるような小型拳銃だった。

「何だよ、それ。拳銃? 本物の?」

「さあ、どうでしょう?」宇賀神はまるで僕を試すように笑っている。

 僕は床に倒れたまま動かない遠藤の方を見た。不思議なことに彼女から血は一滴も流れていなかった。ひょっとすると拳銃ではないのかもしれない。ただ、これ以上宇賀神の遊びに付き合っている暇はない。僕は腰を浮かせて遠藤のもとへ駆け寄ろうとした。

「はい、動かない!」宇賀神はすかさず銃口を僕の方にむけた。

 僕は両手を挙げて再び椅子に座りこんだ。宇賀神は相変わらずニコニコ微笑んでいる。彼女はこちらに銃口を向けながら、近くにあった机の上に腰かけて脚を組んだ。

「一体、お前は何者なんだ?」

「わざわざ聞かなくても、もう薄々気付いてるんじゃない?」

「……死神?」彼女からは霊的な気配が一切しなかったのだが、半ば当てずっぽうで答えた。

「せいか~い。よくできました」そう言って宇賀神はパチパチと拍手をした。

「遠藤はどうなったんだ? 血を流してはいないみたいだけど」

「それを知りたければ、これが何なのか理解しなくちゃ」そう言って宇賀神は小型拳銃を僕に見せびらかした。

「……死神の鎌か?」

「おおっ!? 鋭いねー。説明の手間が省けて助かるよ」

「……でも霊的な気配が全くしない」

「さすがにそこまでは分からないか。理由、聞きたい?」

 本当は、こんな無駄なおしゃべりを一刻も早く打ち切って遠藤のもとへ行きたかったが、拳銃を向けられている僕は黙って頷くしかなかった。

「そっかー、なら仕方ないから特別に教えてあげよう。気配がしないのはね、この鎌のおかげなんだ。普通、死神はその気配を消すことができるんだけど、いくらか例外もあって死神の鎌を顕現させているときはどうしてもそれが難しいの。でもね、この〈黒蜥蜴(くろとかげ)〉は顕現させるのにも発動させるのにも最小限の力しか必要としないから、気配をずっと殺し続けることができる。その分威力は犠牲にしてるんだけどね」

「それで撃たれた遠藤はどうなる?」

「そこは普通の鎌と一緒。魂を刈り取られておしまい。死神相手だと一発でしとめるのは難しいけど、死神くずれのひな子ちゃんは人間の身体だからこうなっちゃう」そう言って彼女は無残に倒れてる遠藤に一瞥を投げた。

「じゃあ――もう――遠藤は――?」

「死んじゃったよね」宇賀神はこともなげに言った。

 遠藤が死んだ? 僕はその意味がよく分からなかった。彼女の存在は僕にとって特別でも何でもなかった。付き合いが長いわけでもない。恋人でもない。ただ死神というだけだ。あと付け加えるなら、せいぜい同じオカ研部員で、後輩で、かわいくて、ミステリアスで、案外毒舌で、結局よく分からなかった。でも遠藤ひな子が死んだという事実は僕の脳を揺らし続けた。足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われた。

「何でだよ――何でこんなことをするんだ? 同じ死神なんだろ!? 何で――?」

「人間だって殺し合いするでしょ? 同じことだよ。と言っても、実は命を奪う必要なんてなかったし、見逃してやってもいいとついさっきまでは思ってたんだけど――事情が変わっちゃってね」

「それは一体……?」

「鎌がまずかったんだよねー。あれはこんな無名の死神くずれが持ってていいものじゃないの」宇賀神は話をしながら机から下りると遠藤の傍らにしゃがみこんだ。

「はあ……強制的に鎌を顕現させるのって面倒なんだよねー」

 宇賀神はため息をつくと、遠藤の美しい黒髪を優しくなでながら呪文のようなものをつぶやき始めた。やがておもむろに彼女の制服のボタンを外したかと思うと、突然その胸元に右手を突っ込んだ。どうやら何かを引き抜こうとしているようであった。まもなく宇賀神の右手とともに姿を現したのは鎌の柄であった。

「よーし、よしよし。いい子だからおとなしく出てくるんだよ」

 柄はゆっくりと、しかし確実に遠藤の胸元から引き抜かれていき、とうとう刃の部分まで到達した。そしてすべて抜き終わろうとしたその瞬間、鎌は動きを止めた。いつの間にか遠藤の右手が刃の付け根を握っている。

 宇賀神はとっさに後方へ飛んで間合いを取り黒蜥蜴を構えたが、それよりも早く遠藤は鎌を振り上げ攻撃の態勢を整えていた。遠藤が鎌を手に取ったため再び僕の身体から霊力が奪われ始めた。このままだと本当に死んでしまう。

「あれ~? なんで生きてるのかな?」宇賀神は余裕ぶって笑っていたが動揺を隠し切れていなかった。

「色々と便利なものを持っていまして」そう言って遠藤ははだけた胸元から首飾りのようなものを出して見せた。

「……形代(アブソーバー)? あなた一体何者?」

「ただの無名の死神くずれですけど」先ほどの会話を聞いていたのか遠藤は皮肉っぽく言い返した。

「まあいっか。ねえ、取引しない? ひな子ちゃんが〈猩々(しょうじょう)〉を引き渡すなら見逃してあげてもいいんだけど? わたしだって無駄な戦闘はしたくないから」

「お断りします。これを渡すわけにはいかないんで」

「自分の立場を理解してる? 見たところその形代は旧式のものだからせいぜい一回分が限度。わたしが引き金を引けば今度こそ死んじゃうよ?」

「どうでしょうか? 宇賀神せんぱいの銃鎌(じゅうれん)は威力が低いから形代の残量はまだだいぶ残ってると思いますよ。それにこうやって話してる間にも大吉せんぱいの霊力が注がれてますから」

「それ本気で言ってんの? これ以上霊力を吸えば大吉君、死んじゃうよ?」

「そんなの私の知ったことじゃありません」

 おいおい冗談じゃないぞ。大声で不服を申し立てたかったが、そんな気力は残されていなかった。結局、遠藤にとって僕は多少利用価値のある存在でしかなかったのだろうか。

「随分冷たい後輩だね。大吉君かわいそー」

「好きなように言ってください。さあ、撃ってきたらどうですか? もっとも私がしのいだら消えるのはそちらですけど。猩々なら上級の死神さえも確実に消滅させられますから。それをご存じだからこそ撃ってこないんですよね?」

「……」

 二人はにらみ合いながら固まっていた。時間が無限に続くように思われたが僕の体力は有限だった。あと数分この硬直状態が続けば僕は確実に意識を失うだろう。

「あーあ、やめやめ! もうやめよ!! こんなところで殺りあってケガでもしたらバカみたいだし――ひな子ちゃんもその鎌おろして。大吉君が冗談抜きで干物みたいになってるよ」そう言って宇賀神は黒蜥蜴を右太もものホルスターに収めた。

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