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JKときどき死神  作者:
第六章 銃声
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催眠術

 ガラガラと部室の引き戸を開けると、すでに遠藤が椅子に座って待機していた。目を閉じ腕組みしているその姿は、精神を研ぎ澄ましているかのようで室内は緊張感に満ちていた。

「委員長さんはひとりで来るって?」瞑想を解き僕の方を見た遠藤が尋ねた。

「一応そういう段取りになった。職員室に用事があるからその後ひとりで来てくれるはず」

「へえ、うまくいったんだ」遠藤は意外そうな顔をした。

「どういう意味だよ、それ」

「いえ、せんぱいって案外慕われてるんだなって思って」

「そうでもないよ――結構怪しまれたんだからな。それにしてもあまりにも慌ただしいんじゃないか?」

「この前話したでしょ、彼女の寿命はあと二週間もない。一日でも早く採取を止めないと――もっともこれは問題の抜本的な解決にはならないんだけど」

「どういうこと?」

「今回助けるのはあくまで委員長さんだけってこと。他の生徒への採取は続く。結局、採取をしている犯人を見つけてそれをやめさせないと意味がないの。委員長さんの場合はあまりにも作用が進行しすぎているから応急処置を施すだけ」

「この学校の生徒全員にその応急処置を施せば問題は解決するんじゃないの?」

「理論上はそうね。でもそれを実行に移すにはせんぱいの命がいくつあっても足りないけど」

「……」

 たしかに一回霊力を吸い取られただけであれほど体力を消耗したのに、千人近い生徒を助けようとすればそれを何回繰り返すことになるのか。想像しただけでぞっとする。

「じゃあせんぱい、指輪の準備をお願い。委員長さんが来たらあとは私の方で大体やってしまうから、私が鎌を出したらせんぱいは指輪をはめて」

「分かった」

 僕は返事をすると近くにあった椅子に腰かけた。実を言うと昼休みに霊力を吸い取られてからずっと体調はすぐれなかったのだが、ことがことだけに割り切るしかなかった。それから五分ほどして控えめなノックとともに委員長が現れた。

「あの――蒲生君いますか?」

「あ、委員長、ありがとう。とりあえず座ってよ」僕は適当な椅子に委員長にすすめると、(あとは頼んだぞ)という目くばせを遠藤にした。

「委員長さん、この間の相談の件なんですけど、あのあと私たちなりに色々と調べてみたんです。それで、原因はおそらく精神的なものなんじゃないかって結論に至りました」遠藤がゆっくりと話し始めた。

「精神的なもの……」

「そう。あなたは精神的に疲れている。大好きなおばあさんの容体が悪くていつも心配している。とても疲れている」

「……私は疲れている……」

「だからあなたはゆっくりと休む必要がある」

「……私は休む必要がある……」

 僕は二人の会話に違和感を覚えた。委員長の方を見ると、テレビ番組で催眠術をかけられた人のように目の焦点が定まっていない。遠藤が何かしたのだろう。

「しばらく眠ってていいわ。おやすみなさい」

 遠藤の言葉とともに委員長はがくりと身を崩した。すかさず遠藤が彼女を支えた。

「お、おい――大丈夫なのか?」

「少し眠っているだけ。さ、早く終わらせましょう、そんなに時間はないから。指輪をつけて」

「その前に鍵だけかけとくよ」

 こんなところを他の生徒に見られたらどう思われるか分からない。僕は部室を内側から施錠すると、遠藤に促されるまま指輪をはめた。それを確認してから彼女は鎌を取り出した。再びあの脱力感が僕を襲った。

「……あの……実は昼間からそんなに体力が回復してないんだ」

「でしょうね。霊力なんてそんな短時間で回復するものじゃない」

「……頼むからほどほどにしてくれ」

「善処はするけど約束はできない。鎌がそれなりに力を取り戻さないことには彼女を助けられないから」

 そう言うと遠藤は目をつぶり何か呪文のようなものをぶつぶつと唱え始めた。集中している彼女にはもう僕の声は届かないだろう。もはや僕にはぐったりと椅子にもたれながら彼女とその手に握られた鎌を眺めていることしかできなかった。その姿は美術の教科書で見た絵画の戦神のように荘厳で美しかった。

 次第に肉体が限界に近付いてくるのを感じながら僕は彼女に中断を願い出るか否か逡巡した。もし今ここでやめてしまえば委員長は死んでしまう。それは嫌だ。でもこのままだと僕が死んでしまうかもしれない。遠のいていく意識の中、彼女の持つ鎌に変化が生じていることに気付いた。

「……鎌が……紅くなってる……」僕は我知らずうわごとのようにつぶやいた。

 朦朧とした頭でも鎌が鈍い鉛色から薄紅色に変化していることが見て取れた。遠藤は相変わらず呪文を唱え続けている。その言葉にならないつぶやきは、やがて僕を優しく包み込んでいった。

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