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JKときどき死神  作者:
第六章 銃声
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指輪

「……なんでそんなとこにつけてるんですか?」

「なくしそうで怖かったんだよ。ふだんから指輪はめる習慣なんてないし。映画の主人公みたいにネックレスに通して首からかけた方がよかったか?」

「……せんぱいには似合わないので、それでいいです」

「結局さ、この指輪って何なの?」僕は少しむすっとしながら尋ねた。

「それ、実は死神がつくったものなんです」

「え?」僕は動揺して携帯電話を落としそうになった。そんなヤバいものを僕は二日間も身の回りに置いていたのか。

「死神のなかには鎌をつくることを専門としている鍛冶師たちがいるんですが、ときどきこういった特殊な道具を暇つぶしにつくったりするんです。この指輪もそういう類なんですが――ああっぴったり! 気持ち悪っ!!」遠藤は指輪を左手薬指にはめると小さな悲鳴をあげた。たしかにそれは寸分違わず彼女の指に収まっていた。

「つまりその指輪は誰かが遠藤のためにつくったってこと?」

「正確には私と大吉せんぱいのためにですね。はめてみてください」

「……一度はめたら外せないとかないよな」昔やったRPGにそういう装備があったのを思い出して僕は警戒した。

「大丈夫ですよ。鍛冶師たちには変わり者が多いですけど、腕はたしかですから。そんな不良品はつくりません」

 しぶしぶ遠藤にならって指輪をはめてみると、なるほどジャストフィットだった。

「本当にぴったりだ――指のサイズなんて自分でも知らないのに」

「どうやって測ったのかしら……」遠藤の顔が珍しくひきつっている。

「何かストーカー的で怖くなってきたんだけど……」

「……まあ、どこの誰がくれたものかは分かりませんが、有効に使わせてもらいましょう。ものとしては一級品ですから」

「それでこの指輪って何に使うの?」

「百聞は一見に如かず。使ってみましょう」

 そう言って遠藤は妙にニコニコしながら手品のように鎌を取り出した。その瞬間、僕は全身に電流が走ったような衝撃を感じた。

「ちょ、ちょっと待って!! 身体がなんか変なんだけど!!!」

「少しの間我慢していてください」遠藤は冷たく言い放った。

「我慢って言われても……」徐々に力が抜けて全身が重たくなり僕はたまらずその場にしゃがみこんだ。

「だいぶ元に戻ってきたわね」

 僕のことなんか眼中にない遠藤は品定めでもするかのように鎌をじろじろ見ていた。彼女の鎌はもともと傷や錆の目立ついかにも使い古されたものであったが、それがみるみるうちに再生して今や新品同様に輝いていた。

「とりあえず試運転としてはこんなものかな」遠藤はそう呟いて鎌をしまった。それと同時に僕を襲っていた脱力感は急激に和らいだ。

「せんぱい、おつかれさまです。具合はどうですか?」隣にしゃがみこんだ遠藤がようやく僕を気遣うようなそぶりを見せた。

「すごく悪い……一体なんだったんださっきのは」僕は軽いめまいを覚えながら言った。

「せんぱいの霊力を少しだけもらったんです。おかげで鎌がだいぶ往年の姿を取り戻しました」

「もらったって――霊感がなくなるってこと?」別にあったって得することなんてほとんどないが、いざなくなるのはなんだか惜しい。

「なくなりはしません。血と同じで吸い取られてもしばらくすればもとに戻りますから」

「戻るって言ってもさ――霊力取るなんて聞いてないよ」

「先に教えちゃうと怖くなりますから。それにこの間、せんぱいは委員長さんを助けるためにできる限り協力するって言ってたじゃないですか。男に二言はないはずです」

「そうかもしれないけど……」

「でもせんぱいはすごいですよ。これだけ霊力を吸い取られてもちゃんと意識を保ってるんですから。普通の人なら失神してます。前々から霊力が強いとは思っていましたが、これほどまでとは」

「そんな危ないこと事前説明もなくやるなよ……」こいつ死神じゃなくてほんとは悪魔なんじゃないか。

「ちょっと休憩しましょう――具合が悪いようなら膝枕してあげますよ?」そう言って遠藤はポンポンと自分の膝を叩いた。

「い、いいよ! そんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ!」

「じゃあ誰も見てないところだったらしてもらいたいんですか?」

「ち、ちがう、そういう意味じゃない!」僕はむきになって否定したが、内心やってもらいたくてたまらなかった。

「……なあ、俺の霊力が吸い取られたのってこの指輪を使ったからなのか?」

「そうです。この指輪はせんぱいと私を繋ぐいわばパイプです。私の鎌はさっきまで眠った状態だったのですが、指輪を介して霊力を送り込むことによって無理やり覚醒させたんです。それにしても思ったとおりこの指輪は優れものですね、純粋に霊力だけを抽出するのには高度な技術が必要なんですよ。寿命を奪うのは簡単なんですが」

「でもなんでその鎌は眠った状態だったの?」僕は以前から気になっていたことを質問した。

「スクールライフに死神の鎌なんて必要ないじゃないですか」

 冗談めかしてこそいたがそこにはこれ以上の追及を許さない雰囲気があったため、僕は口をつぐまざるを得なかった。ひょっとすると遠藤が女子高生として生活していることに関係があるのかもしれない。結局僕は彼女の核心に足を踏み入れることのできない部外者でしかなかった。デートをしたとこちらが浮かれていても、彼女は本心をさらけ出してくれたわけじゃない。僕は遠藤ひな子という存在がやはりよく分からなかった。でもあのときドラゴンパークの出口で見せた笑顔――あれだけは真実だと信じたかった。

「そろそろお昼休み終わっちゃいますね。せんぱい、教室まで戻れそうですか」

「よっ――と」軽く立ちくらみがしたが、どうにか自力で戻れそうだった。

「多分、大丈夫」

「不安だったら保健室まで連れて行きましょうか? 大川先生に優しくしてもらえますよ」

「……別に優しくしてもらう必要はないけど」

「でもせんぱいってああいう感じの女性(ひと)好きですよね?」

「そ、そんなことはない」女の勘ってすごいな。

「まあ冗談はこれくらいにして――せんぱい、放課後よろしくお願いします」

「……分かった。轡さんを部室に入れないようにして、あと委員長をどうにか呼び出せばいいんだな」

「それもなんですけど――委員長さんの採取を解く際にもう一度せんぱいの霊力が必要になりますから、それもよろしくお願いしますね」

「は? また吸うの?」

「あの程度の採取を解くにはそんなに力を必要とはしないんですけど、さすがに一回の補給だけじゃ心許なくて。きっとせんぱいなら何とかなりますよ」

 やっぱこいつは悪魔だな。

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