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JKときどき死神  作者:
第五章 おいでよドラゴンパーク
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ホップ君登場

 遠藤を待っている間、手をつないで帰る家族客をぼんやりと眺めていた。いつかは僕もあんな風に家庭を築いて、ありきたりな生涯を送るのだろうか。あんまり想像できなかった。

 ああ、そういえば担任から進路希望調査を提出するよう言われていたのをすっかり忘れていた。そろそろ期限のはずだ。将来何をしたいとか、どうなりたいとかなんて、まだろくに考えていなかった。かといって舟木部長くらい自由に生きるだけの度胸も持ち合わせていなかった。

 そんなことを考えていると後ろから肩を叩かれた。遠藤か、随分と早いな。

「じゃあ、行こうか――」

 振り向いた僕は言葉を失った。背後に立っていたのが巨大な化け物――ではなくドラゴンパークのマスコットキャラクター・ホップ君であったからだ。

 ホップ君はいたずら好きな子供ドラゴンという設定で、いかにも着ぐるみといった感じであった。表情は冷静に観察するとちょっと不気味だったりする。

 それにしても、いくらいたずら好きという設定とはいえ、こうやって普通に向こうから接してくるものなのだろうか。それとも閉演が近くなって暇になったから、たまたまひとりでいる僕にちょっかいを出してきたのだろうか。そんなことを考えながらクネクネと着ぐるみ特有の緩急のある仕草を繰り出すホップ君を眺めていた。

 向こうとしてはこちらから何かしらの反応を引き出したいようであったが、もう小さい子供ではないので別にはしゃいだり抱き着いたりすることもないし、欧米人的なノリでハイタッチをしたり肩を組んだりする気にもなれなかった。動物園のライオンでも見てるかのようにぼんやり僕が観察していると、しびれを切らしたのか突然ホップ君が詰め寄ってきた。

「な、何だよ――」表情も変わらないうえ(設定上)話すこともできないホップ君の意図が読めない僕は戸惑った。そして正直怖かった。

 すると不意にホップ君は右こぶしを僕に向かって突き出してきた。僕は一瞬殴られるんじゃないかと思い身構えたのだが、こぶしは目の前で止まり上下に揺れている。どうやら何か渡したいらしい。僕がいやいや両手を差し出すとホップ君はそこに指輪を二つ置いた。大きさが若干違っていたのでペアリングのようだった。それにしてもグローブみたいなその手でよくこんな小さなもの持てたな。

「これ、くれるの?」

 僕の問いかけにホップ君は無言で頷いた。僕は指輪をまじまじと見た。不思議な輝きを放つ小さな石が埋め込まれており、リングには細かい意匠が施されている。宝飾品には疎いためこれが本物か否か判断することはできなかったが、少なくとも祭りの夜店とかで売っているような安っぽいものではなかった。

「いや、でもこれ結構ちゃんとしたものじゃない? 本当にもらっていいの?」

 ホップ君は人差し指を立てて左右に振った。ノープロブレム的なことを言いたいらしい。それにしてもなぜこんなものをくれるのだろう。たまにテレビなどで見かける来場者百万人記念とかだろうか。しかしそれならもっと盛大に祝うだろうし、タイミングだって入園した時点のはずだ。僕は突然の出来事にわけがわからず困惑していた。そんな僕をよそにホップ君はどこからか群がってきた子供たちをハーメルンの笛吹き男よろしく引き連れながら立ち去ろうとした。

「あ、ちょっと待ってくれ!! やっぱりこんな高そうなの受け取れないよ!!」

 ホップ君はちらっとこっちを振り向くと親指を立てた。グッドラック的なことを言いたいのか。そしてそのまま引き返すことなくノソノソ歩いていってしまった。追いかけようか迷ったが、一日中遊んで疲れていたので諦めてぐったりと椅子に腰かけた。

「せんぱいお待たせしました。帰りましょうか――ってどうしたんですか? さっきよりげっそりしてますけど」戻ってきた遠藤は例の後輩口調に戻っていた。

「なんか、こんなのもらっちゃった」

 指輪を渡すと遠藤はそれをしげしげと念入りに調べ始めた。

「せんぱい、これどうしたんですか?」

「ここのマスコットのホップ君がついさっきくれたんだ。理由は全然分からないけど」

「そのホップ君さんは今どこに?」

「子供たちとどっか行っちゃったよ」

「そうですか――これも何かの運命かもしれませんね……」遠藤はそうつぶやきながら指輪を眺めていた。

「結構ちゃんとした指輪みたいだったから、なんだか怖くなって返そうと思ったんだけど逃げられちゃって。まさかとは思うけど、盗品かもしれないし警察に届けた方がいいかな?」

「……いえ、その必要はありません。これは間違いなくせんぱいと私に渡されたものです」

「え? それはどういう――」

「せんぱい」遠藤は真剣な面持ちでこちらを見た。

「な、何?」

「せんぱいは委員長さんを助けたいですか?」

「何だよ突然」

「いいから答えてください――せんぱいは本気で委員長さんを助けたいと思っていますか?」

「……そりゃもちろん助けたい」

「もしかしたら何とかなるかもしれません」

「え、ほんとに?」

「でもそれにはせんぱいの力が必要です」

「俺の? 俺にできることだったら協力するけど……」そう答えはしたものの僕はちょっと嫌な予感がしていた。なんだか悪魔と契約しているような気分だ。

「なら決まりですね。委員長さんを助けましょう」そう言って遠藤は男性用の指輪だけを僕に差し出した。

「助けるのはいいけど、具体的にはどうするの?」指輪を受け取りながら僕は尋ねた。

「詳細は月曜日に話します。今日はやめておきましょう、いっぱい遊んで疲れましたから。とにかく、その指輪は肌身離さず持っておいてください。委員長さんを助ける鍵になりますから」

「……分かった」

「さあ、帰りましょう。閉園しちゃいますよ」

 たしかにさっきからずっと『蛍の光』が流れている。周りに客の影はほとんどなくなっていた。僕たちは少し焦りながら早歩きで出口へと向かった。

「せんぱい」ドラゴンパークを出たところで遠藤が不意に話しかけてきた。

「ん?」

「今日はありがとう。楽しかった」

「……ま…………こ……」

「へ? 何か言いましたか?」

「……ま、また、どっか遠藤の行きたいところがあれば、一緒に行こう」

「はい!」この日一番の笑顔だった。

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