パリスの審判
翌朝僕は母親からもらったチケットを制服のポケットにねじ込んで登校した。委員長のことを聞いた直後に女の子を誘って遊園地に行こうだなんて自分でもどうかしていると思ったが、こういったときだからこそ何か気が紛れるようなことをしたかった。僕があれこれ悩んだところで何か解決するわけではないのだ。反対に悩めば悩むほど、それこそ遠藤の思うつぼではないか。通学のために電車に乗っている間、誰を誘うか考えていた。
候補は三人いた。遠藤と宇賀神そして轡だ(顔の好み順)。自慢じゃないがもともと僕には気軽に声をかけられる女子などほとんどいない。
遊園地に誘って一番ホイホイついてくるのは轡だろう。だが、そんなの全然面白くないし、別に轡と付き合いたいわけでもないからあんまり誘う気にもなれなかった。
遠藤はどうだろうか。正直なところ彼女が何を考えているのかいまだによく分からなかったが、誘えば案外来てくれるかもしれない。ただ前日委員長の話を聞かされてからというものの僕の中で彼女に対する反感が強まっており、誘うことにやや抵抗があった。さらにいえば女子高生と言い張っていても結局死神なのだから、このあと男女の関係に発展する見込みがあるのかも良く分からなかった。
残る宇賀神に関していえば、健という本命がいるうえにそんなに親しくもないため断られるだろうと予測される反面、案外あの軽いノリで「いいよ~」と言ってくれるかもしれない。付き合ってくれるとは思えなかったが、エッチくらいはさせてくれるんじゃないだろうかと思春期特有の都合の良い妄想をしていた。
本当のことを言えば、委員長を誘うという案も考えなくはなかったのだが、特に親しいわけでもなかったし、何よりその動機が不純だと思えた。彼女に残された時間が短いという理由で誘うのであれば、そんなのは失礼だろう。
「うーん……」結局僕は教室に着いてもこの重要問題を解決できずにいた。
「何悩んでるんだ、大吉?」健が心配して声をかけてきた。
「普段使わないもの使うと知恵熱になるぞ」僕よりも使ってなさそうな堂島も寄ってきた。
「いや、大したことじゃないんだけどな――今ここに偶然手に入ったドラパーのチケットが二枚あります。俺は片方を誰に渡せばいいでしょうか?」とりあえずなぞなぞみたいに聞いてみた。
「そんなの好きな子に渡せばいいだろう」健はこともなげに言った。
「自分の気持ちがよく分からない」
「なんだよそれ」堂島が呆れ顔で言った。
そう言われても自分が誰を好きかなんて正直良く分からなかったし、人間じゃないのも一名混ざっていたから余計事態を複雑にしていた。
「候補は誰がいるんだ?」
「それは想像に任せる」
「あんまり深く考えずに、誘いたいなあって子を誘えばいいだろ。好きか嫌いかなんて後からついてくる」さすが経験者だけあって健の言うことは違う。
「大吉はメンクイだから単純に顔基準で選べばいいだけだろ」堂島の意見は基本的に信用ならんのだがこの時ばかりは一理あるような気がした。
「顔基準だけってのもどうかと思うが、誘うときや後のテンションを考えると、やっぱり見た目は重要だよな」健も賛意を示した。
「そうなると必然的に答えはひとつになるな」堂島は暗に遠藤を誘えと言いたいのだろう。
「そうだな……」
「何か問題があるのか。性格か?」
「そうじゃないけど、ほら、相性とか」
「少なくともこの前話してた感じでは別に合わなくはないと思うんだが」
「うーん……」
「煮え切らんなあ」
「遊園地なんて誘ったら子供っぽいと思われないかな? しかもドラパーだぜ?」
「ドラパーを馬鹿にすんなよ。たしかに親子連れか小中学生しかいないイメージだけどな」
「深く考えすぎだって。『たまたまチケットが手に入ったから、どう?』って聞かれてそんな悪く受け取られはしないだろ。それにあれだけかわいい子放っておくとすぐに他の男に取られるぞ」
健の意見はもっともだった。あれだけの美人はそうそういないし、乗ってくれるかは別にして誘うこと自体はそれほど難しくなさそうだった。そして彼女の秘密を知っているのはこの学校で自分一人だという優位性が少しだけ自信を与えてくれた。
「……それもそうだな。誘ってみるよ」
「結果報告は任意でいいよ。何か悩むことがあったら相談に乗るから」健はさらっと言って立ち去った。こういう台詞がキザっぽくなく自然と言えてしまうところは本当に尊敬できる。
「健はああ言ったが、俺にはちゃんと報告しろよ。特にヤったかヤってないかを」堂島がささやいた。
「お前には絶対言わねえよ」




