チケットは突然に
帰宅した僕は自室に入るとカバンを放り出して制服のままベッドに倒れこんだ。委員長の寿命があと二週間だという遠藤の言葉がいまだに頭から離れなかった。委員長は別に友達と呼べるほど親しいわけではなかったが、その面倒見の良さから日ごろから何かと世話になっていた。そんな彼女の余命がいくばくもないと聞いて、何もできないのは歯がゆかった。これならいっそ何も知らない方が良かった。僕はこの一件を打ち明けた遠藤を恨まずにはいられなかった。どうしようもないことなのに、神の娯楽とやらで心をかき乱されてはたまらない。ただそれでも遠藤という死神ないし少女は決して悪人ではないと思うし、どこか憎めないところがあるのもたしかであった。悪びれた様子のないあの笑顔を見ると、ついさっきまで腹を立てていたのが馬鹿々々しく感じられるのだ。しかし今度はそういう風に彼女を許してしまう自分自身に怒りの矛先が向いた。僕は声にならない声をあげて枕を思い切りぶん殴った。しばらくベッドの上でうつぶせになって悶々としていると、部屋の外から階段をのぼってくる音が聞こえてきた。すぐにドアがノックもなく開かれた。
「大ちゃん、ちょっといい?」母親だった。
「いいけど――お願いだからノックくらいしてよ。いつも言ってるけど」僕は枕に顔をうずめながら答えた。なぜ母親という生き物はこんなにもデリカシーがないのか。
「まあいいじゃない。ねえねえ、遊園地のチケットいらない? パート先の人が余ったからって二枚くれたの。誰かと行ってきなさいよ」
「この歳で遊園地かよ」
「じゃあ、いらない?」
「……どこの?」
「ドラパー」
「いらない」
〈ドラパー〉もとい〈りょうぜんドラゴンパーク〉は地元の遊園地だ。自宅の最寄り駅から電車で十分もかからないほど近くにある。もう少し遠出すれば国内有数のテーマパークに行けてしまうため、そこと比較すればどうしても見劣りしてしまうこの遊園地は、地元住民からは馬鹿にされがちであった。それでも近郊の遊園地の中では五本の指に入る規模を誇っていたりするので地域密着型でしぶとく頑張っている方ではあると思う。とはいえ僕も幼い頃散々行ったため、まったくありがたみはなかった。
「まあ、そう言わずにさ、好きな子誘えばいいじゃない」
「そんなのいない」
「またまた~。最近気になる子できたんでしょ?」
「できてない」
「えー、でも最近鏡の前で髪の毛いじってる時間長いよ」
「……出て行ってくれよ」
「あっそ。じゃあこれは他の人にあげちゃうね。いや~もったいないなあ。誘ってもらったら女の子は絶対喜ぶと思うのになあ」わざとらしい口調でそう言いながら母親は出て行くそぶりを見せた。
「……待って。やっぱり一応もらっとく」僕はむくりと上半身を起こした。




