神の娯楽
「でもさ――死神としての力がもうないって言うならどうして俺にこんな話をしたんだよ。遠藤にもこの事件は解決できない。当然俺にもできない。ならなんで?」
「事態が少し変わったんです。今日宇賀神せんぱいが連れてきた子、いますよね?」
「委員長のこと?」
「そう委員長さん――彼女、このままだともうすぐ死にます」
僕は一瞬遠藤が何を言っているのか理解できなかった。委員長がもうすぐ死ぬ? 一体何を言ってるんだ。
「ど、どういうことだよ」
「そのままの意味です。死ぬといってもそれは本来の寿命を迎えたからというわけではありません。採取による結果です」
「でもさっき採取されているのは一日一時間程度だって――」
「他の生徒に比べて彼女だけが異常に寿命を採取されているのです。さっき部室でお会いしたとき、すぐにおかしいと気付きました。どうして彼女だけそうなっているのかは分かりませんが……」
「最近授業中の眠気がひどいって言ってたのは、ひょっとしてそれが原因で?」
「おそらくは」
「……委員長の寿命は、あとどれくらいなんだ?」
「もってせいぜい二週間ってところでしょうか」
「二週間……」想像以上に短くて僕は言葉を失った。
「それまでにエリア担当の死神がこの事件を解決してくれることを祈るしかありませんね」どこか他人事ような遠藤の口ぶりが僕の耳にはとても冷たく響いた。
「やっぱり委員長を救うこともできないのか?」
「ええ」
「でも、それこそおかしいだろ――俺にこんな話するなんて。暗にどうにかしろって言ってるようなもんじゃないか。それに、部室にいたときからおかしかった、相談を受け付けるなんて――遠藤だってこのままだとまずいって思ってるんじゃないのか?」
「そうですね――たしかにこのままではいけません」
「でも俺にもどうしようもない。俺だって普通の高校生なんだから」
「そうですね。せんぱいにこの話をしたのは少し意地悪でした。昔の悪い癖が出たのかもしれません」
「悪い癖?」
「神の娯楽みたいなものです」
「……よく分からない」
「つまり、人間にあれこれ吹き込んで苦悩するさまを見て楽しむんです。不死の存在である神々にとっては、人の生き死になんて事象のようなもので、たいした意味も価値もありません。それでも大抵の人は一度きりの命を大事に大事にしながら生きている。そんなのは本当に見ていて退屈です。反対に、ごくわずかですけど命を燃やしながら狂気の手前で生きようとする人もいます。その一瞬の輝きを神々は見たいんです」
「俺にも同じようなことをしてるってこと?」
「どうでしょうか――つい試してしまったのかもしれませんね。せんぱいがどんな人間か知りたくて」
「……悪趣味だよ」
「今となってはそう思わなくもないです。さあ、もうこんな時間ですし、そろそろ帰りましょう」
店内の壁時計は七時過ぎを指していた。僕たちはトレーを片づけて店を出た。そのまま駅に向かい改札を通ったところで僕たちは別れた。遠藤と僕の電車は反対方面だった。
「遠藤!」別れ際僕は声をかけた。
彼女は振り返ってこちらを見た。その瞳は何も語らなかった。
「俺はどうしたらいい?」
「それはせんぱいが考えることです」
彼女はにっこり笑うとくるりと背を向け、そのままプラットホームへ上がっていくエスカレーターに乗ってしまった。
(一体どうしろっていうんだよ)僕はやり場のない憤りを感じながらむしゃくしゃした気持ちで歩き出した。




