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JKときどき死神  作者:
第四章 眠り姫
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死神とジャンクフード

 雑居ビルの一階を占める店内には六、七割ほど客が入っており、部活帰りの髯高生がその大半を占めていた。金のない髯高生御用達のこの店は、噂によると周辺の系列店でもトップクラスの売上らしい。

「ウチの生徒が多いけど大丈夫? 聞かれるとまずいことなら……」

「少し離れたところに座って小声で話せば大丈夫でしょう。それに――」

「それに?」

「――私、ジャンクフードが好きなんです」

 死神がジャンクフードを好んで食べるというのは初耳だったが、とりあえず僕たちはなるべく周囲に人がいない席を探した。あと、ごく自然に僕は遠藤の分までおごらされる羽目になった。

「いただきます」

 遠藤は丁寧に手を合わせてから食事に入った。それにしてもダブルチーズバーガーを幸せそうにほおばっているその姿に違和感を覚えずにはいられない。

「それで、さっきの話の続きは?」僕も自分の分を食べながら尋ねた。

「焦っちゃだめですよ、冷める前に食べておかないと」

 そんなにありがたがって食べるものでもないと思うのだが、ひょっとすると死神にとってはごちそうなのかもしれない。仕方ないので黙々と食べ続けた。あらかた平らげた後、容器の底に残った短いポテトをつまみながらようやく本題に入ることができた。

「せんぱいは学校にいるとき、何か感じませんか?」

「質問の趣旨がよく分からないけど――授業中に居眠りが多い話とは別でってこと?」

「もっと本質的なことです」

「ごめん、何を言ってるのか全然分からない」

「……霊感の強いせんぱいでそれですか。だとすれば多分誰も気づいてないんでしょうね」

「さっきから何の話をしてるの?」

「実は、竜髯高校に異変が起きてるんです。それは居眠りがどうとかいう次元の話ではなく、もっと深刻なことです」

「どんなこと?」

「いいですか、驚かずに聞いてくださいね――生徒の寿命が奪われているんです」

「……ふーん」

「あれ? もっと驚くかと思ったんですが、案外普通ですね」

「いや、きっと大変なことなんだろうけどさ。あんまり実感がわかなくて」

「気楽でいいですね」遠藤は呆れ顔でため息をついた。

「何か、ごめん。もうちょっと俺にも分かるように説明してもらえないかな」

「順を追って説明します。知ってのとおり私が竜髯高校に入学したのは四月からですが、その時点ですでに生徒の寿命は吸い取られていました。授業中に居眠りが増え始めたのが二月頃だということなので、おそらく始まったのもそのあたりからなんでしょう。ただ、その量はごくわずかで直ちに問題になるわけでもなかったですし、私にはどうしようもなかったので見過ごしていました」

「その――ごくわずかっていうのは、具体的にどれくらい寿命が縮んでるの?」

「せいぜい一日に一時間ほどですね」

 計算が苦手な僕は心を落ち着かせながらその意味を考えた。一ヶ月に大体二十時間の寿命がなくなるとして、二月から五月の四ヶ月間でだいたい八十時間、四日に満たないくらいの寿命が減ったことになる。

「何だ、そんな極端に縮んだわけじゃないのか」僕は少し安堵した。

「個人単位でみれば、たしかにそうですね。でも、いざ死期を迎えたときにその数日がどれだけの重みを持つかよく考えた方がいいですよ」

「たしかに――そうだね」

「授業中に眠くなるのは寿命が吸い取られていることの副作用なんだと思います。せんぱいはさっき部室で話していたとき、居眠りの頻度は以前と変わらないと言っていましたが、それはせんぱいが常人よりも霊感が強いおかげでほとんど寿命を奪われていないからなんでしょう」

「……なんか霊感が強いことで生まれて初めて得した気がする」見たくもないものが見えるので大抵は嫌な思いしかしてこなかった。

「本来霊感なんて人間には必要ありませんから。目に見えないものに対する畏敬の念さえあれば十分で、霊感はむしろおごりを生みます」

「でもさ、一体何でこんなことが起きてるの?」

「それは私にも分かりません。ただ、ひとつ言えるのは、おそらくこの一件には死神が深く関与しているということです」

「それはつまり――遠藤以外にも死神がいるってこと?」

「せんぱい、私普通の女子高生なんですけど」遠藤は0円スマイルを見せた。本家に負けないくらいの作り笑顔で。

「そうでした――ええと、死神がどこかにいるとして、それはウチの学校にってこと?」

「その可能性は高いと思います。こんな現象が起きているのはどうやら竜髯高校の中だけのようですから」

「もし校内にいるんだったら、遠藤には誰が死神かって突き止められないの?」

「死神の気配があればすぐに分かります。ただ、人間の中に紛れる場合には通常気配を殺していますから探し当てるのは困難です。それにしても気配を隠しつつこれだけ大規模な採取を行えるということは、ただ者ではないのでしょう」

「サイシュ?」

「ああ――ええと、『指紋を採取する』とかの『採取』です。死神の権能は大きく四つに分かれます。即ち、測量、採取、分配そして閉鎖です。測量は寿命を見通すこと、採取は寿命を奪うこと、分配は奪った寿命を他人に与えること、閉鎖は寿命を終えた者の玉の緒を刈り取ること。これらについて死神は広範な裁量権を与えられています」

「さらっと言ったけど、それって死神が人間の生殺与奪の権をすべて握ってるってことなんじゃ……?」

「そういうことですね」

「え、じゃあ今回のウチの学校みたいに好き勝手に寿命を奪ってもいいってこと?」

「それは違います。私利私欲のために権能を使うことは禁じられていますし、今回のように不特定多数の寿命を採取するなんてもってのほかです。通常であれば各地区にエリア担当の死神がいて、こういった異常事態があればすぐ解決に乗り出すのですが――今のところそういった様子もないのが不可解です」

「話を聞いてると、案外死神って巷にいるもんなの?」

「うーん、どうでしょう。でもせんぱいが考えてるよりはいるんだと思いますよ」

「なんか色々知らない方がよかったな……」

「じゃあ、やめますか? 聞きたくないことを無理に聞かせるつもりはありませんけど」

「いや、ごめん、聞くよ。聞かせてほしい――それで、この事件に死神が関わっているとして、一体何のためにこんなことを?」

「それもやはり分からないのですが、寿命を採取したいじょうは誰かに分配するんだと思います」

「誰かの寿命を延ばすってこと?」

「そうです。一人当たりの採取量は少なくても、竜髯高校の生徒数は千人近いですから合わせればかなりの量になります。これまで採取した寿命を仮に一人に分配するとして十年近く延命できる計算になります」

「十年……」

 これだけの寿命を延ばせるというのはとてつもなく価値のあることだろう。世の中には金や地位、名誉を他人がうらやむほど持っていても、あっけなく早世する人は珍しくない。そんな人たちにしてみればこの十年という猶予は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

「ただ、これは人の天命を根本からひっくり返すことになりますから大罪に当たります――いくら死神とはいえ重い罰が下されるでしょう」

「じゃあさ、例えば、例えばだよ――遠藤がこの件を解決することはできないの? さっき言ってたエリア担当の死神がいつ動くのかもわからないわけだし、遠藤が解決しちゃえばこれ以上みんなの寿命が採取されることもない。それが一番手っ取り早い気がするけど」僕は彼女の「自分、女子高生ですから」という切り返しを警戒して「例えば」をやたらと強調した。

「それはできません。そんなことをする義理も権限もありませんし、だいいちそんな権能はもう私に残されていないんです」

「でも死神の鎌を持ってるじゃないか」

「私の鎌はすでに本来の力を失っています。今は伸縮自在の便利な孫の手みたいなものです」遠藤は自嘲気味に笑った。

 これまで彼女の鎌を二回ほど目にしたが、たしかに昔僕が見たものと形状こそ酷似しているものの雰囲気はまったく異なっていた。僕の知っている死神の鎌は鮮血のごとく朱色に輝き、本能的に恐怖心を呼び起こす何かがあった。だが、遠藤のは本当にただ普通の鎌でしかなかった。

「じゃあこの間、宝山神社で出してたけどあれは……」

「はったりですよ。もっとも、おそらく見破られていたので意味はありませんでしたが」

「実は結構危なかったの、あのとき?」

「相手に本気で危害を加える気があったのなら、死者が出てもおかしくなかったですね」

 僕は何と言ったら良いのか分からず、それをごまかすためにストローでジュースをすすった。別に遠藤に頼っているつもりはなかったのだが、心のどこかで甘えがあったのかもしれない。実際あのときも彼女が駆け付けてくれたのでもう大丈夫だと安心しきっていたのは否定できない。それにしても彼女にはもう死神としての力が残されていないと言っていたが、一体過去に何があったのだろうか。興味はあったがどうせ尋ねても答えてくれないのは分かりきっていたので深く追及しなかった。

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