竜髯高校オカルト研究会
こうして部活動のことで頭を悩ませているのは、僕たちの通う竜髯高校(通称・髯高)には生徒は何かしらのクラブに所属しなければならないという校則があったからだ。文武両道をモットーとしているためこのような校則を設けたらしい。
やりたいことのある生徒にとっては特に苦にならないのだろうが、僕のようにこれといってやりたいこともなく、かといって運動神経や部活動に活かせる才能があるわけでもない生徒にとっては本当に良い迷惑だった。このような生徒の大半はたいして活動に熱心でない文科系のクラブに籍だけ置かせてもらうのだが、僕もその御多分にもれずこのオカ研に入部した。ただひとつ違っていたのが、他がマンモス文科系クラブに入部したのに対して、僕が入部したオカ研は当初から部員数の少ないマイナーな部であったということだ。
ではなぜこの部に入ったのかというと、詳しい話は割愛させてもらうが、すごく美人な先輩がいたのだ。入学時に新入生を部に勧誘するその先輩の姿に一目ぼれしてしまった僕は、ホイホイつられて入部してしまった。何かこう、ロマンスとか青春とか、ああいった類のものがあるかもしれないと高校生になりたての僕は愚かにも幻想を抱いていたのだ。今となっては若気の至りとしか言いようがないのだが。
ちなみにもう卒業してしまったその先輩は、確かに美人ではあったが性格にかなり問題があった。オカ研なんていう怪しいクラブに所属しているという時点でそこらへんは察するべきだったのだろう。
「……部員……増やさないの?」轡がぽつりとつぶやいた。
「今更この部に入ってくれる人なんていないよ。先月の新入生歓迎会のときにやった部活紹介でも全然食いついてなかったし、いまだに仮入部希望者だっていないだろ?」
「……でも……この部を残したい」
「うーん」
たしかにたいした動機もなく入部した僕と違って、轡はオカルトを愛してやまないからこそオカ研に入った。僕なんかよりもはるかに思い入れがあるはずだ。そんな彼女の気持ちを慮るとこのまま何もせずに潰してしまうのは気が引けた。
「友達で入ってくれそうな人いない?」
「……友達……少ない」
「あ、ごめん」
「……謝られると逆に傷つく……蒲生君だって少ないくせに」
「うーん……」
轡の言っていることは正しかった。僕もそれほど友達が多い方じゃない。それにしても彼女は物静かなわりに結構キツいことを言うときがあった。
「とにかく誰か入ってくれそうな人がいないか探してみるよ。あと、借りてたマンガ返す。ありがとう」そう言って僕は紙袋を彼女に手渡した。
「……どうだった?」
「面白かったよ。ただ何というかストーリーがありがちだし、勢いでごまかしてるような感じがしたかなあ」
「……でも結局……そういうのが人気になる」
「そうかもね。じゃあ、俺は帰るから。最後鍵かけといて」
轡は無言でうなずくと小さく手を振った。僕も手を振り返し部室を後にした。これで今日の部活動は終了だ。こんなことが半年近く続いている。
去年までは「黄金世代」(自称)である二学年上の先輩四名と一学年上の先輩一名が在籍していたため、部にも活気があり外が暗くなるまでくだらない話をしたり休日には心霊スポットや廃墟などを探索したりとまがりなりにも部活動らしいことをしていた。
ところが当時の三年生が大学受験のために引退した後、部員の中で唯一の二年生だった舟木先輩が新部長に任命されたのだが、この先輩がまた一癖ある人で突然海外へ旅に出たいと言い出したのだ。教師たちは「高校卒業後でも遅くない」等と必死になって思いとどまらせようとしたのだが、先輩の両親は子供の自主性を重んじる人たちだったようで息子の決断を支持した。ではそのときオカ研部員はどうしたかというと、轡と僕なんかはやんわりと思いとどまらせようとしていたが、三年生の先輩たちは面白そうだからとむしろけしかけていた。本当に罪深い人たちだと思う。
結局、舟木先輩は自らの意思を曲げることなく十一月から休学して日本を飛び出してしてしまった。そして必然的に三年生に進級することもなかったため、もはや「先輩」ではなくなってしまった。とはいえ年長者に対する敬意を払って、便宜上轡と僕は舟木元先輩のことを「部長」と呼んでいる。もっとも休学している人に部長としての責務を果たせるはずもないので、僕が部長代理となりこの日も職員室に呼び出しを受けるはめになったのだが。
こうして二人だけになってしまったオカ研に僕がいまだ所属しているのは、前述した厄介な校則のせいであり、たまに部室に顔を出しては轡からマンガを借りてすぐ帰宅する日々が続いていた。マイペースな轡は以前と変わらず毎日部室に通っては黙々と読書をして夕方になると帰っているようであった。