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JKときどき死神  作者:
第四章 眠り姫
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保健室にて

「失礼します」引き戸を軽くノックしてから僕たちは保健室へ入った。

「あら、どうしたの?」

 椅子に座っていた先生はくるりと身体をこちらへ向け優しく微笑んだ。やはり何度見てもどきりとする色気があった。くやしいけどチープが夢中になるのも納得できる。

「ちょっと先生に相談がありまして――」僕は少しどぎまぎしながら切り出した。

「ふうん。ごめんね、ここ、そんなに椅子ないから、とりあえずそこのベッドにでも座って」僕たちは机に最も近いベッドに並んで腰かけた。

「ええと――蒲生君でいいよね?」

「は、はい。そうです。よく覚えてますね」僕は保健室をほとんど利用しないため、先生が自分の名前を知っていたことに驚いた。

「最近よく安井先生と職員室で話してるじゃない。あなたは――轡さんよね?」

「……はい」轡も驚いているようであった。僕よりもさらに地味な轡を知ってるとはただものではない。

「ごめんなさい、あなたは分からないわ。一年生?」

「はい。一年二組の遠藤と言います」

「まだ一年生は半分も覚えられてないの。二組の遠藤さんね。もう覚えました」そう言って先生はにっこり笑った。

「ひょっとして生徒全員の名前を覚えたりするんですか?」

「一応毎年それを目標にしているの。人によっては大したことないって思うのかもしれないけど、私は誰かに名前を覚えてもらったり、名前を呼ばれたりすると、何というか自分が軽んじられてないと感じてうれしいから、自分も他の人の名前をできるだけ覚えるようにしているの」

「すごい。僕なんて同級生の名前半分も言えませんよ」

「それってどうなんですか……」遠藤が呆れ顔で言った。

「え、結構普通じゃないの? 同じクラスで名前知らないやつだっているだろ?」

「……それはさすがに」轡にまで呆れられてしまった。みんな覚えてるのかな。

「まあ、人の顔とか名前を覚えるのが苦手っていうのは珍しくないから。それはマイペースでいいんじゃないかな。ごめんなさい余計な話しちゃって、それで、相談ってなんなの?」

「え? あ、ああ、すっかり忘れてました。その――」僕は周りに人がいないかキョロキョロと室内を見回した。

「大丈夫、今ちょうど誰もいないから。何か言いにくい話なの?」

「いえ、そういうわけではないんですが――最近、授業中に居眠りする生徒が多いじゃないですか、そこらへんについてちょっと話が聞ければと思いまして」

「ああ、今朝も全校集会あったもんね。眠いからって理由で保健室に来る子が最近ほんと増えちゃって。保健室なんて普通そんなに利用されないから、生徒が来てくれるのはうれしいんだけど、あまりにも多いのはちょっと困りものね」

「先生から見て、単純に睡眠不足が原因だと思いますか?」

「どうかしらね。はじめはそう思ってたけど、これだけ多くの生徒が眠気を訴えているのだから、何か他に原因があるんじゃないかという気もするし。ただ、具体的に何かって聞かれると困っちゃうけど。四月になって環境が変わると精神的な疲れが出るいわゆる五月病みたいなもので、それが集団ヒステリーみたいに周囲に伝染している可能性は否定できないけど――明確な根拠はないわ」

「何かこう、対処方法みたいなのはありますか?」

「やっぱり睡眠をたっぷりとりなさいとしか言いようがないわ。今の子は夜更かししすぎなのよ。あとは日ごろからストレスをためないことと、上手に解消することくらいかしら」

「今後はどうなっていきそうですか?」

「うーん、はっきり言って全然分からない。保健室に来る子は徐々に増えてきてるんだけど、まだ増えるのか、それとも今がピークなのかも読めないし。いずれにしても現状は様子を見るほかないんじゃないかな――ていうかこんなこと聞いてどうするの?」

「その――僕たちオカ研なんですけど、部活動の一環でこの現象を分析してまして」こういうまともな大人に自らをオカ研ですと自己紹介するのはとても恥ずかしい。

「オカ研? ああ、オカルト研究会なんだ。この現象もオカルトなの?」

「原因不明という点で一応部類に含めてもいいかと」

「オカルトってそういうものなの? まあいっか。ねえねえオカルト研究会ってことは幽霊とかも信じるの?」

「ええ……まあ」僕は少し言葉を濁した。というのも霊感があるのだから当然幽霊を信じてはいるのだが、それを他人にあけっぴろげに話すのは避けていたからだ。対照的に轡なんかは熱心に頷いている。

「先生は信じてるんですか?」遠藤が尋ねた。

「どうかしら――でも、いたらいいなとは思うわね」先生は物悲しい笑顔を見せた。僕は内心しまったと思った。未亡人の先生に対してこの手の話題はなるべく避けたい。

「……そろそろ時間が」空気が変わったのを轡が敏感に察して切り出した。

「すみません、このあと少し用事があるので。お忙しいところありがとうございました」

「あら、もういいの? 今度また時間があるときにでもゆっくり話しましょう。また来てね」

 僕たちはぺこりとおじぎをしてから逃げるように保健室を出た。

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