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JKときどき死神  作者:
第四章 眠り姫
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乙女の悩み

 オカ研の部室には特に客人を迎える用意なんてなかったため、僕たちは部屋の隅からほこりをかぶった折りたたみ椅子を引っ張り出してくる必要があった。狭隘な部室にどうにか全員座れるよう空いている場所に椅子を並べてめいめいが好きなところに座った。

 僕はなんだか落ち着かない気分で宇賀神と委員長を交互に見た。彼女らは彼女らでそれまで入ったことのない未知の部室を興味深そうにきょろきょろと見回していた。轡がいつものようにどこからかお菓子と飲み物を出してきた。今日は紅茶だった。

「わあ、ありがとう。いただきまーす。あ、おいしいね、これ。轡っちがいれたの?」宇賀神が感嘆の声を上げた。

「……そう……香りがよくて……落ち着く」

「こんなの毎日飲めるなんて大吉君は幸せもんだね。さっさと結婚しちゃいなよ」

「普段はペットボトルのお茶とかジュースだよ。今日はお客さんが来たから奮発したんじゃない?」僕は宇賀神の冗談を聞き流した。

「そっか、何か気を使わせちゃって、ごめんなさい」委員長が申し訳なさそうに言った。

「いや、別にいいよ。何もすることがなくて何しようか会議してたところだから」

「外に出てゴミ拾いでもしてた方がはるかに有意義なんじゃない?」宇賀神が呆れ顔で言った。

「まあそれはそれとして――どうしたの急に?」

「ええと、私はただの付き添いなんだけどね――実は委員長から相談があるんだ。聞いてもらえるかな?」

「え、相談? ほんとに?」

 あまりにもタイムリーな話に僕は自分の耳を疑った。隣に座る遠藤はそれ見たことかといった顔をしていた。

「あれ、ダメだった? 外に相談受け付けるって書いてあったから来たんだけど」

「いやその、ダメってわけじゃないけど――今まで相談に来た人なんていなかったから。ポスターだって見てもらえてると思ってなかったし」

「そうなの? 結構目立ってるよ」

 ずっと前から貼っていたものなので、僕の中では風景の一部と化したプロパガンダ広告のようなものであったが、案外通行人の目には留まっていたのかもしれない。

「話の腰を折ってごめん。念のため確認なんだけど、ここはオカ研だからオカルト的な相談にしてほしい。人生相談とか法律相談とかはしかるべきところに行ってもらいたい」真面目な話を敬遠して僕はあらかじめ釘を刺した。もっともそんな話をここに持ってくるとは考えにくかったが。

「大丈夫大丈夫。原因不明っていう意味ではオカルトだから」

「分かった――それで相談っていうのは?」宇賀神の「大丈夫」はどうも信用ならなかったが、一応話を聞いてみることにした。

「その――最近学校で居眠りが多いってことで問題になってるじゃない?」それまで黙っていた委員長が口を開いた。

「うん。今朝も校長が怒ってたね」

「蒲生君はどう?」

「どうって――居眠りするかってこと?」

「そう」

「うーん、前から授業中はよく寝てたから……。今も相変わらずなんだけど、以前より増えたって感じはないと思う。通常ペース」

「参考にならないなー。轡っちは?」

「……私は増えた……前よりすごく眠い」

「やっぱり轡っちもか。ひな子ちゃんは?」イニシエーション以降遠藤は宇賀神から下の名前で呼ばれるようになっていた。

「私ですか? 特に眠くはなりませんけど」

「ふーん、多少個人差があるのかな?」

「それで話を戻すと、私は学期末のあたりから授業中に眠くなることが多くなって、うとうとすることが多くなったの――多分ここまでは他の人と同じなんだと思う。ところがこの一週間それがひどいことになっちゃって――」

「爆睡しちゃうわけ?」

「そう」

「なるほど……」

 そういえばこの前の授業で寝息がどこからか聞こえきたため周囲を見回したら、その主が委員長で驚いたことがあった。もちろん本人の前でこの話はできないけど。そのときはちょっと疲れてるのかなくらいにしか思わなかったが、彼女は真剣に悩んでいたのだろう。

「参考までに、どれくらい寝ちゃうの?」

「ひどいときは一日の大半の授業で。さすがに体育みたいに身体を動かしているときは寝ないんだけど、それでもやっぱり眠いしすごく身体がだるいの」

「家での睡眠時間は足りてる?」

「普段から七時間はとるようにしてる。でもこういう風になってからもう少し寝るようにしたんだけど効果が全然なくて」

「何か原因に思い当たる節は?」

「まったく」

「その――病気とかの可能性は?」

「特に持病とかはないんだけど」

「病院で検査を受けたりはした?」

「――してない」

「それなら、僕たちなんかに相談するより、まずそっちを先にした方がいいと思うよ。何かの病気の兆候かもしれないし」

「あんまり大事にはしたくないの……」委員長は言いにくそうにうつむいた。

「いや、でもこれは結構深刻な問題だと――」

「ちょっとそれには事情があるんだよ」宇賀神が会話に割って入った。

「事情?」

「――実は今、施設に入ってる私のおばあちゃんが危険な状態なの――それでお父さんやお母さんがそっちにかかりっきりで――それだけでも大変なのに、私のことでこれ以上心配事を増やしたくないから――もちろん、こんなことは無茶なお願いだって自分でも分かってる。でも、自分では本当にどうしようもなくて、それがすごく情けなくて――菜々ちゃんに相談したら、オカ研に行ってみたらって言われて――」委員長は途中言葉を詰まらせながらぽつりぽつりと話した。

「……」

 僕はどんな言葉をかけたら良いのか分からなかった。客観的に見れば彼女の選択は賢明とは言えないのだろう。身体の異常のことならば僕たちみたいな素人に相談するより医者に行った方がはるかに的確な助言をもらえるはずだ。ただ親に余計な心配をかけたくないという彼女の気持ちは分かるし、そんな彼女が藁にもすがる気持ちで僕たちのところへ来たのを冷たくあしらうことはできなかった。

「でも、ありがとう。こうやってみんなに話したら少し気が楽になった。ごめんね、忙しいところ、私の変な相談を聞いてもらって」委員長はハンカチを口元に当てながら無理に明るい様子で話して見せたが、逆にそれが痛々しかった。やがて立ち上がり帰るそぶりを見せた。

「その――なんだ――僕たちなんかが力になれるか分からないけど、できる限りのことはするよ」僕はとっさに声をかけた。何ができるというわけでもないのに。

「……ありがとう」委員長は宇賀神に付き添われて部室を後にした。

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