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JKときどき死神  作者:
第三章 イニシエーション
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終わり良ければ

「さっきのは一体何だったんだ?」

「何者かが轡せんぱいにとりついたんだと思いますが――おそらくかなり高位な存在でしょう。それこそ神やそれに準ずるものが――」

 遠藤は本殿の脇にある縁起を記した立て札に懐中電灯をかざした。そこには一言主神が祀られていると書かれていた。

「でもなんでまたそんなのが轡さんに?」

「分かりません。よっぽど腹に据えかねたことがあったか、あるいは伝えたいことがあったのか、どちらかでしょう」遠藤はそのまま黙り込んでしまった。

「ところでさ今更なんだけど、なんで遠藤がここにいるの? 俺たちが戻ってないから順番まだでしょ」

「……せんぱいたちが出発してからどれくらい経ってると思ってるんですか?」

「え?」僕は慌てて腕時計の蛍光バックライトを点けた。出発してからもう四十分は経過している。

「なかなか戻ってこないから迎えに来たんです。さっきから霧も濃くなってきてたのでみんな心配してたんですよ。それで来てみたら、見るからに普通の状態じゃない轡せんぱいとのんきにおしゃべりしてるんですから」

「ご、ごめん。つい相手のペースに乗っちゃって……」

「本当に気を付けた方がいいですよ。人ならざるものとの会話は基本的に慎むべきです。気付いたらあの世にいたなんてケースはたくさんありますから」

「……分かった。でも遠藤が来てくれて助かったよ。そうじゃなきゃどうなってたか」

「あれは相手が引いてくれたから助かったんです。もし私たちに危害を加える気があったら止めるすべがありませんでした」遠藤の声は暗かった。

「でも鎌で戦うことってできないの?」

「……う……ん……」僕が質問しかけたとき遠藤の腕に抱えられた轡が小さな声を出し、やがてうっすらと目を開いた。

「轡せんぱい、目が覚めましたか?」遠藤が優しく問いかけた。

「……遠藤……さん……?」

 はじめ轡は寝ぼけたようにぼんやりとしていたが、やがてゆっくりと上半身を起こした。

「……あれ……私……何を……蒲生君と……歩いてたはず……?」

 轡の口調は元に戻っていた。さっきの方が幾倍も聞き取りやすかったのだが、こっちの方が安心するから不思議だ。状況が理解できていない彼女は少し混乱した様子で遠藤と僕の顔を交互に見比べていた。

「神社までたどり着いたら轡さんの具合が悪そうだったんで横にさせたんだよ、そしたらそのまま寝ちゃって。多分貧血か何かだと思うんだけど、覚えてない?」我ながら無理のある嘘だったがこの際仕方ない。

「……全然……石段を上っているところまでだったら……覚えてる」

「ここに来た途端急に具合が悪そうな感じだったからなあ。そういうこともあるよ。それでここで待ってたら遠藤が心配して迎えに来てくれたんだ」

「……ごめんなさい……迷惑かけて」

「別に迷惑だなんて思ってないって。誰にだって体調の悪いときくらいあるだろ。立てそう?」

 轡が無言でうなずいたため、彼女に手を差し伸べ引っ張り立たせた。体調に問題がなさそうであれば早く皆のところへ戻りたい。そう考えながら彼女の方を見ると遠藤の前で何か言いたそうにもじもじしている。

「轡さんどうしたの?」

「……遠藤さん……ごめんなさい……偉そうにイニシエーションを企画しておきながら……私が……こんな……」

「そんな――謝らないでください。私はイニシエーション楽しかったですよ。夜中で皆でこうやって集まるなんて滅多にないですし」今にも泣きだしそうな轡の様子に遠藤は慌てていた。

「あーもう、こんなのやめよう! ほらここにバルタンがあってダダもあるんだからこいつらを持って帰って無事イニシエーションはおしまい。それでいいだろ?」僕は湿っぽい空気にうんざりしていた。

「そうですね。みなさん向こうで心配してるので早く戻った方がいいです。轡せんぱい、大丈夫そうですか?」

「……多分……大丈夫」見たところ別に無理している様子もなかったため、僕たちは来た道を引き返し石段をゆっくりとおりていった。

「ところでさ、ほんとにさっきまでのことって覚えてないの?」僕は少し気になって轡に尋ねた。

「……覚えてない……何かしたの?」そう言って彼女はシャツの首もとからブラジャーの位置を確認した。

「いや、何もしてないよ……」

 先ほどのやり取りでは遠藤が死神だということにも言及していたため記憶がないというのは好都合であったのだが、その一方であれだけ僕に対して積極的に迫ってきたのは果たして彼女の本心だったりするのだろうかとちょっともやもやしていた。いや、別にそんなに好かれてどうというわけでもないのだけど。

 石段をおりて橋のところに着くと、さきほどまでの霧は嘘のように晴れていた。僕たちは急いで橋を渡った。対岸ではひどく心配していたであろう轡父が一番に出迎えた。僕たちは皆から矢継ぎ早に浴びせられる質問にかくかくしかじか事情を説明した。

「それで、もう体調は大丈夫なのか?」轡父が心配して尋ねた。

「……平気」

「轡っちのパパさんすっごい心配してたんだよー。椅子にも座らないでずっとうろうろして。そんなに心配なら電話したらいいじゃんって言ったら、親馬鹿だって思われるのが嫌なんだって」宇賀神がにやにやしながら暴露した。

「こ、こらっ!」

「そうかと思うと遠藤さんは勝手にひとりで出発しちゃうし。探しに行くなら皆で行けばいいのに」健は少し不服そうであった。

「せっかく私のために企画してくださったイニシエーションですから、ひとりで行かないと意味がないので」

「でもすごいよねー、さっきまでは霧が出てたのに。普通だったら怖くてひとりでなんて無理だよ」宇賀神が感心したように言った。

「いえ、たいしたことでは……」遠藤が困った顔で謙遜した。彼女なりに本気で心配してくれたのかもしれない。

「それじゃあ予定よりも時間が押してるからそろそろ帰る準備をしよう。悪いけどみんな片づけを手伝ってくれないか?」

 轡父が音頭を取って僕たちは急いで後片付けをした。その最中僕はすきを見て他の人に聞かれような場所で遠藤に話しかけた。

「結局さ、あの轡さんにとりついてたのが言ってたのって何なんだろう。なんだか分かるような分からないような話だったけど」

「あまり気にしない方がいいですよ。まったく的外れなことを言っている可能性もありますから。私が来る前に何か言われたんですか?」

「言われたけど、あんまり覚えてない。とりあえず欲しいものは何でも手に入る的なことを言われた」さすがに本人を前にして子宮がどうとかは言えなかった。

「すごいじゃないですか。宝くじでも買ったらどうですか?」

「真剣に聞いてくれよ――いや俺もそんなに信じてるわけじゃないけどさ」

「向こうが何かしらの助言を与えるつもりだったとして、その意図が分からないことにはなんとも。もし仮に私たちには見えていないものが見えていたとして、そのときになってやっとその言葉の意味が分かるといった類のものでしょう」

「それってあんまり役に立たないんじゃ……」

「助言なんてそういうものですよ。苦労せず得をしたり困難を回避したりしようというのは虫が良すぎるんです」

 どうもすっきりしなかったが片づけを終えた轡父から出発するので車に乗るよう促されたためそれに従った。なにはともあれイニシエーションは終わった。想定外の事態はあったもののおそらく轡は遠藤の入部を認めてくれるだろう。これでとりあえずオカ研の廃部は阻止できる。僕は頬杖をついてぼんやりと窓から外の景色を眺めていた。

 車は再び竜髯駅前に到着しそこで解散となった。各人の家まで送ろうかと轡父からの申出があったが終電もまだ残っているのにさすがにそこまで甘えることはできないので断った。

「それじゃあ気をつけて帰るんだよ!」轡父が窓を開けた車内から大声を出した。

「はーい!!!」僕たちは無邪気な幼稚園児のように声を合わせた。

「……蒲生君……また」轡がいつもより小さな声で別れを告げた。

「ああ。今日はゆっくり休んだ方がいいよ」僕はなぜだか良く分からないがとても照れくさい気分になった。

 轡父娘の乗った車を見送った後、残された者は改札の前で別れを告げた。バスを使う者はバスターミナルの方へ、電車で帰宅する者は各方面のホームへと向かった。健と僕は同じ方面の電車に乗るため他愛もない話をしながら家路についた。

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