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JKときどき死神  作者:
第一章 死神、再び
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寡黙な少女

「失礼しました」

 出口のところで一礼してから職員室を後にした僕は、憂鬱な気分で第二多目的室へと向かった。

 多目的室とは名ばかりで実際は物置きとして使われているこの部屋の廊下側には、カラメル色に日焼けした貼紙が次のような文句をうたってひっそりと掲げられている。

〈オカルト研究会 求ム! 怪奇現象情報 相談等も随時受付けてマス〉

 こいつももうすぐ見納めかもしれないな。僕は少しノスタルジックな気分に浸りながら引き戸を開けた。木造の旧校舎特有の建てつけの悪さから耳障りな音が響き渡った。部屋の隅では少女がひとり読書している。

「……蒲生君……ノック」

「ああ、ごめん。忘れてた」

 (くつわ)が消え入りそうな声で注意するのを僕は適当に聞き流し、テーブルをはさんで彼女と斜向いになるいつもの席に腰かけた。それに呼応するかのように轡は立ち上がると、どこからかジュースとお菓子を出してきて僕の前に置き、席に戻って再び本の世界に没入していった。

 とにかく轡は変わったやつだった。オカルト研究会、通称オカ研の部員は実質的に彼女と僕の二人だけなのだから、たいして広くもないこの部室をもっとのびのびと使えば良いのにいつも隅の目立たないところに座っていた。

 何も知らない部外者がこの部屋に入ってきたら座敷童と勘違いしてもおかしくない。ちょうど髪型もおかっぱで(本人は「ショートボブ」だと思っているらしいが)前髪も目にかかるくらい長かったからいよいよ座敷童であった。

 この日のように彼女は部室での大半の時間を読書に費やす。大抵は「ペー」だか「パー」だかいうオカルト雑誌を好んで読んでいたが、歴史や神話、思想書なんかもときどき読んでいるようであった。

 しかし何より彼女の特筆すべき点は声が小さいということであった。本当に腹が立つくらい声が小さいのだ。言葉尻の大半が線香花火のように消えてしまうので、こちらとしては想像力を働かせるほかない。なんだかんだで一年以上の付き合いになるため、ある程度彼女が何を言いたいのか分かるようにはなってきたが、それでも不必要に疲れることに変わりはなかった。

 物静かならずっと黙っていてくれれば良いのに、そのくせ部室に入るときはちゃんとノックをしろとか注文を付けてきたりもする。どうせいつも本を読んでるだけなのだから別に構わないだろと思うのだが。

 ひょっとすると僕が来る前はひとりの部室で何やら他人に見られるとまずいことでもしているのではないかと妄想したりもするのだが、あまりそこら辺を詮索する勇気は持ち合わせていなかった。

 先ほど職員室であった出来事にむしゃくしゃしていたため、僕の中では轡に対する不満がふつふつと湧き上がってきていた。彼女に話しておかなければならないことがあるのだが、どうも面白くない。よし、ちょっとびっくりさせてやろう。

「轡さん!」僕はわざと大きな声で彼女の名を呼んだ。

「は、はひっ!!」

 突然声をかけられ慌てふためいた彼女は、手に持っていた本を落としそうになりがら返事をした。

「ちょっと話があるんだけど」

「……うん」

 彼女は本を閉じて机に置くと、妙にかしこまった様子でこちらを向いた。こころなしか緊張しているようにも見える。

「それで、話っていうのは――」

 僕が切り出そうとすると彼女はひょこひょこと部室の扉を指さしている。

「……蒲生君……鍵を」

「え? ああ、はい」

 それほど内密な話でもないんだけどなあと思いつつ、僕は言われるがまま鍵をかけた。椅子のところに戻って再び彼女を見つめると、伏し目がちに頬を紅潮させてなんとも乙女チックな顔をしている。何か勘違いしているんじゃなかろうか。

「実はさっきチープから職員室に呼ばれたんだけどさ、どうもこのままだとオカ研が廃部になるらしいんだ」

 「チープ」とはオカ研の顧問をしている安井先生のあだ名である。あだ名といってももちろん生徒の間で勝手に呼んでいるに過ぎない。英語教師で「やすい」だから「チープ」。本当に安っぽいあだ名だと思う。

「……話ってそういう話?」

「うん」

 どうやら期待に沿う内容ではなかったようで、彼女は少しがっかりした様子を見せると同時になんだか怒っているようでもあった。

「なんでかって言うと、部員数の問題なんだよ。部として存続するには最低三人必要らしいんだけど、ウチはそれを満たしてない」

「……部長を含めれば三人」

「俺もそれは言ったんだけど、部長は休学中だから人数に含めないって」

「……じゃあ……廃部?」

「このままだとね」

 二人の間に沈黙が流れた。先ほどは轡に対する不満ばかり並べたが、彼女とのこういった沈黙は不思議と気まずくなかった。無理に会話を続ける必要がないという安心感があるからかもしれない。

「……蒲生君は……どうするの?」

「どうするって、廃部になったらってこと?」

 轡はこくりと頷いた。

「どうしようかな。もう二年生だから今さらやる気のある部に入ってしごかれるのも嫌だし、ぬるい部を見つけて籍だけ入れさせてもらおうかな。轡さんはどうするの?」

「……分からないけど……漫研とか」

「そっか、マンガ好きだもんね」

 部室ではあまり見かけないが、家ではマンガばかり読んでいるとのことであった。

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