6.使い
「まぁ、今日も来てくれたのですね?さあさあ、今ちょうどハイドとお茶にしようと思っていた頃なのですよ」
城の一つの窓から愛らしい少年の顔が覗くとユウリはパッと立ち上がり窓の方に駆け寄る。
「お前はまたそんな所から入ってきて……」
ハイドは窓をよじ登るスワンを見ながら呆れたように溜息をついてみせる。
少しうんざりしたような表情はきっと、ここ数日間スワンにユウリと2人きりでお茶をする楽しみが奪われたからであろう。
「だって、お庭に出れる近道を見つけたんです、ハイド様」
スワンは無事にダイニングの床に到達するとテヘッと無邪気に笑う。
「笑って誤魔化すんじゃない、お前はまったく……」
「まぁいいじゃないですかハイド。さぁ、お菓子もあるから沢山お食べなさい。あなたは今から大きくなるのですから」
ユウリは今にも説教を始めようとしているハイドを制止するとスワンにソファに座るよう合図をしてキッチンから美味しそうな焼きたての菓子を運んできた。
「わぁ、今日はクッキーだぁ。ありがとうユウリ様っ」
スワンは目の前に置かれたクッキーの山を見ると顔をほころばせユウリに勢いよく抱きついた。
ユウリは少しよろめくが嬉しそうにスワンの頭を撫でてやる。
「おい、離れろ」
ふいに冷たい声が部屋に響く。
他の者がこの声を聞くと固まってしまうほど恐ろしく氷のように冷たい声だがスワンはそんなことを気にする様子もなくなおもユウリに抱きついている。
その表情はどこか幼いながらも優越感に浸っているようだ。
ハイドがユウリに抱きついて離れないスワンをぺりぺりとユウリから引き剥がす。
「うーー。ハイド様の意地悪ー」
命知らずな言葉を吐きながらスワンはクッキーをほおばり始める。
幸せそうにさくさくさくとクッキーを食べているスワンを横目で睨みつつハイドは紅茶をすする。
ユウリはそんな2人の様子をなぜか微笑ましく見ているのであった。
――バサバサバサ……
編み物をしていた手を止めすやすやとユウリは夢の中に入っている時スワンが開けっ放しにしていた窓から一羽のフクロウが入ってきた。
スワンは絵を描いていた手を止め驚いたようにそのフクロウを見つめる。
「誰の使いだ」
ハイドは読んでいた本をパタンッと閉じてフクロウに喋りかける。
「ファーレン様の使いで参りました」
「はぁ……」
ハイドはうんざりだ、とでも言いたいように溜息を吐く。
フクロウは部屋の隅で寝ているユウリの方を向く
「ファーレン様があなた様にお話したいことがあると……」
フクロウはユウリから目をそらさずに言う。
「話。ねえ……」
「はい、話でございます。今日の夕食をご一緒にとのことです」
ハイドは頭をかかえる、その様子を唖然と見ていたスワンはフクロウに興味を持ったのかじーっと見つめている。
「あと、ファーレン様があなたお一人で来るようにとのことでございます」
フクロウは思い出したように言う。
「そうか、分かった。日が沈んだら行く。そう伝えておけ」
「いえ、私があなた様を案内することになっております」
「必要ない、お前らの城がどこにあるかぐらい知っている」
ハイドはうんざりしたような顔で言う。
「しかし、ご主人さまからのご命令でございますので…」
フクロウはハイドを見据える。
「……分かった。好きにしろ」
そう言い残すとハイドは椅子からさっと立ち上がると部屋から出て行った。
フクロウは先ほどから視線を送っている少年に目を向ける。
「……人間」
フクロウはそう呟くとスワンは少し興奮した様子でフクロウに近づく。
「ねぇ、どうしてフクロウさんが喋ってるの?」
スワンは不思議そうにフクロウの嘴を見ながら聞く。
「私はフクロウでありません。この姿は仮の姿です」
フクロウは憤慨したように言う。
「じゃぁ、元の姿は??」
フクロウは元から大きく丸い目をさらに見開くと羽をパタパタさせる。
するといつの間にか音もなくフクロウは一人の少年になっていた。
スワンは自分と同じくらいの身の丈のその少年を凝視した。
艶やかな黒髪にユウリと同じ黒い瞳をしているその少年は整った顔立ちのせいかどことなく冷たい表情に見える。
「わぁ、驚いたなぁ……」
スワンは感心したように言う。
「名前は何?」
「リリュウ」
少年は素っ気なく答える。どうやらフクロウの時のあのへりくだった態度とは違うようだ。
「へぇー。すごい名前だね。君は何なの?妖精?」
リリュウはふっと薄ら笑いをすると。
「そうだよ、僕はファーレン様の召使なんだ」
「ふぅーん。ファーレン様ってユウリ様のお兄様?どんな人なの?」
スワンは興味を持ったのか声を弾ませて聞く。
「素敵な方だ……。頭脳明晰で性格も素晴らしい、その上容姿は完璧で……そして、なによりユウリ様のことを本当に愛してらっしゃる」
リリュウは寝ているユウリに目をやる。
「えっ?でも、愛してるって……2人は兄妹だよね?」
スワンは驚いたように聞く。
「そうだ、でも僕たちの世界じゃね兄妹でも結婚するのはおかしいことじゃないんだ。むしろ、それが名門の家系ではそれが普通なんだよ、血を絶やさないようにね」
目を見開いているスワンを見据えながらリリュウは少し意地の悪い微笑み方をした。
「それは俺たち魔族でもよくあることなんだ、スワン」
いつの間に部屋に戻ってきたのかハイドが後ろから声をかける。
「じゃぁ、俺は今からそいつの主人の城に行くから、ユウリの傍にいてやってくれ。そいつが起きたら俺はちょっと用事で出かけたと言っておけ」
スワンは黙ってうなずいた。
「あと、お前の親にはもう言っておいたから今日はここで泊って行け」
その言葉を聞くとスワンはこの上なく嬉しそうな顔をして。
「はいっ」
と元気に返事をした。
その返事を聞くとハイドは黒いカラスに姿を変え窓から飛び去った。
その後を追うようにリリュウもフクロウの姿に戻り急いで飛び立つ。
「僕も飛んでみたいなぁ……」
スワンはそう小さく呟くと再び絵を描き始めた。