表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 宙音
14/25

14.美女

 ハイドの城に向けて黒い怪しげな一行が空を切るように向かってきていた。



「ハイド……なんですか、この手は?」

 ユウリは目を覚ますとユウリの首に巻きついているハイドの腕をつつく。

「…ん…?」

 ハイドはゆっくりと目を開けるとユウリの顔を上目に見る。

「だから、どうして私の首に抱きついてるんですか?」

「悪いか?」

 ハイドの真っ直ぐな質問にユウリはきょとんとして少し考えてみる。

「……悪く……ないです」

 しばし考えた後、ユウリは妙に腑に落ちないといった様子でこたえる。

 ユウリはベッドからするりと抜け出ようとすると素早くハイドに腕を掴まれる。

「なんですか?」

 ユウリは掴まれた腕を見る。

「今、何時だと思っている?まだ城の奴らは起きていないぞ、ここは魔族の城だ。忘れてないか?」

 ハイドの言うとおり、ここは魔族の城……魔族の起床時間は人間や神格と異なっている。

 それも、神が彼らを暗闇を愛し光を好かない生き物にしたからなのであろう。

 時としてハイドのように例外の者もいるが、城の者たちが起きてくるのは何時間も先のことであろう。

「でも、私は目が覚めてしまいました」

 ユウリは拗ねる子供のようにいじけて見せる。

 ハイドは口元にニヤリ笑いを浮かべるとユウリの腕を引っ張りベッドに連れ戻した。

「じゃあ、ここにいとけよ」

「だから、私はもう十分休みましたよ?」

 連れ戻されたユウリは首を可愛らしく傾げるとハイドはさらに口元を緩ませるとユウリをまるでぬいぐるみのように抱く。

「わあっ」

 ユウリが叫ぶとハイドは形の整った唇に人差し指をあて静かにするように、と合図をする。

「城の奴らが起きるだろ?」

 ハイドはユウリの優しい心につけこむ。

 ユウリはアッと小さく声を出す。

「そうでした、申し訳ないです……」

 するとその時、扉がノックされた。


「ハイド様、ハイド様っ!!ビビアン様がおいでです」

 扉の向こうの慌ただしい声を聞くとハイドは軽く舌打ちをした。

「くそっ……最悪だ」

 小さく言うハイドの声はユウリには届かずユウリは お客様っお客様っ とはしゃぎ出す。

「お前は餓鬼か」

 ハイドははしゃぐユウリの体を止めるとユウリの顎を掴みゆっくりと唇を重ねた。

 すぐに解放されたユウリはとろんとした瞳でハイドを見つめる。

「ちょっと行ってくるから、お前はここで大人しくしてろ。いいな?」

 ハイドはそう言うとさっとベッドから出ると素早く部屋を出て行った。


 ユウリは唇に指を当てる。

「えっ?私もお客様にお会いしたいです……」

 ユウリはベッドの上に残されて寂しそうにぽつりと呟く。

「ユウリ、おはよう」

 開けたままにされた扉から癖っ毛の茶髪が覗く。

「まあ、ジェレミーいいところに来てくれました」

 ユウリは顔をぱあっと輝かせ遊び相手が来たとでも言うようにジェレミーを見る。

 ジェレミーはニッコリと微笑み部屋に入るとベッドに近寄った。

「まだこんな時間だというのに、またあの女が来てね。兄さんも大変だよ……」

「あの女?」

 ユウリは不思議そうに尋ねるとジェレミーは溜息をつくと話しだす。

「そうなんだ。すごく兄さんに惚れこんで、月に一回は兄さんを口説きにくるんだ。しかも、それなりの家系の一人娘だから困ったもんなんだ」

「ふうん……」

 ユウリはなぜか感心したような声を出す。


「あっ、それよりユウリ。湯の用意をさせておいたんだ」

 ジェレミーが思い出したように言うとユウリの顔はとたんに輝きだす。

「本当ですか?今、ちょうど入りたいと思ってたんです」

「それは良かった。今日は薔薇の花弁を浮かべておいたからね」

 ジェレミーはにっこりとほほ笑んでユウリの嬉しそうな顔を見る。

 ユウリはハイドの言ったことも忘れてジェレミーの差し出された手をとると風呂に向かった。



 ハイドが大広間におりていくと、そこには多くの家来を従えた金髪の美女がひとり椅子に堂々と腰掛けていた。

「…………」

 ハイドが黙って入っていくとその美女は目の色を変えハイドにいきなり抱きついた。

「久しぶりですわっ、ハイド様ったらどちらにいらしてらっしゃったの?3か月も会えないなんて私は寂しくて死んでしまいそうなくらいでしたのよ」

 美女は潤ませた瞳でハイドを上目づかいに見つめる。

 ハイドはその美女を体から引き剥がすと冷たい目でその女を見た。

「お前にどこにいたかなど教えてやる筋合いはない」

 冷たく言い放つと美女はふらっと後ろに倒れそうになった。

 それを4人ほどの家来が支えると。

「ビビアン様っ!お気を確かにっ」

 と口ぐちに言う。

 ハイドは大きな溜息をつくとソファに深く腰掛ける。

 ビビアンはハイドの隣にくっついて座ると気を取り直したようにその艶やかな唇で喋り出す。

「ハイド様ったら、今日もクールでいらっしゃいますのね」

「……」

「それはそうと、そろそろお父様が結婚式をとうるさいのですわよ。私も早くハイド様と一緒になれたら嬉しいのですけど」

 ビビアンは声を弾ませてまるで夢を見ている少女のように喋る。

「ふざけるな。俺がいつお前なんかと結婚すると言った?」

 ハイドは怒気を含んだ声で冷たく言うと立ち上がりビビアンから離れる。

「まあ、本気ですの?魔族界は私とハイド様が結ばれることを……」

「関係ないっ」

 ハイドは強くそう言い放つとビビアンに冷たい目を向ける。

 その迫力の強さにビビアンはビクッと身体を震わせる。

「ハイド様……聞くところによれば、神格の王女と何やらあると……」

 ビビアンは反抗するように必死になって言う。

 今度はハイドの肩が揺れた。

「あったら何か問題でもあるのか?」

 ハイドは冷静を装いビビアンを見据える。

「あるに決まっているではないですか。神格の王女と魔族の王……そんな話を聞いたことがありますかっ?」

 ビビアンの口調はどんどん強くなっていく。

 しかし何も言葉を発しようとしないハイドを見るとビビアンは立ち上がる。

「もう、いいですっ。私が直接話をつけますわっ」

 そう言うと部屋を出ていった。

 残されたハイドはしばらくの間ビビアンの言った意味を理解しようとその場に立ち尽くしていたが、言葉の意味に気づくと顔色を変え部屋を飛び出した。



「まあ、なんて美しいのでしょう」

 ユウリは湯に浸かりながらあたり一面に散らばっている薔薇の花弁を腕にのせてみる。

 ユウリの長い黒髪が湯にふんわりと揺れ花弁の中に沈み込んでいく。

 さっきまで寝ていたというのにあまりの気持ちのよさにユウリの瞼は重くなっていく。

「ふあぁ……」

 寝むたそうに大きな欠伸をする。


「困りますっ、ユウリ様が今……」

 そんな時、外から焦ったような声が聞こえてきた。

「邪魔よ、どきなさい。私は急いで話があるのよっ」

 荒々しい声がしたと思えば風呂場の扉が勢いよく開く。

「…………?」

 ユウリは驚きのあまり目を丸くしてビビアンを見つめる。

 ビビアンはというと…どうしたことであろう、先ほどまであんなにも勢いよく怒っていたのに今は顔を真っ赤にしてユウリを見ている。

「あの……まだお風呂中なので、できれば出て行って欲しいのですけれども……」

 ユウリは遠慮がちにそう言うとビビアンはハッとしたように。

「ごっ、ごめんなさい。」

 そう言い扉をバタンと閉めた。

 ユウリは訳の分からない美女の乱入に湯に浸かったまま首を傾げた。


「ユウリ様、お着替えはお済みになられましたか?」

 侍女が優しくユウリに扉越しに声をかける。

「あの、ちょっと助けて頂ければ嬉しいのですが……」

 中からは困ったような声が聞こえてくる。

「入りますよ?」

 侍女はそう言い扉を開けるとユウリは一生懸命に長い髪を梳かしていた。

「まあっ。そのようなこと、私がやりますのにっ」

 侍女はそれを見ると慌ててユウリの手から櫛を取ると丁寧に髪を梳かしていく。

「あの、ありがとうございます…あ、そちらは?」

 ユウリは扉の前で立ち尽くしている美女を鏡越しに確認すると瞳をきらきら輝かせる。

「こちらはビビアン嬢でございます」

 侍女はビビアンが気に入らないのかどこか素っ気なく答える。

 ビビアンはそんな様子を気にすることもなくユウリを見つめる。

先ほどは失礼しましたわ……」

「まあ、いいのですよ。それよりなんですか?話って」

 ユウリはビビアンににっこりとほほ笑んで見せるとビビアンの頬は赤くなる。

「えっ?話?なんでしたっけ……」

「おいっ!!」

 ビビアンが考え始めた時、ハイドが息を荒くして入ってきた。

「ハイドっ!?何をしてるのですか、お客様は?」

 ユウリは突然のハイドの姿に驚く。

「お前が言うお客さまはこいつのことだ」

 ハイドはそう言ってビビアンを指差す。

「えっ、そうだったのですか?」

 ユウリはさらに目を丸くさせる。

 ハイドはユウリに駆け寄ると確かめるようにユウリの体をゆっくりと見回す。

「な、なんですか?」

 ユウリは不審なハイドの行動に焦ると同時に赤くなる。

「まだ何もされていないな?ビビアン、今すぐ出て行け」

 ハイドは一気に恐ろしい表情になるとビビアンを睨む。

「ハイドっ!お客様になんてことを言うのですかっ」

 ユウリは美女を睨んでいるハイドをキッと睨みつけるがあまり迫力がないどころか、どこか愛らしさが覗かせる。

 ハイドはそんなユウリを無視してビビアンを睨み続けているが。

 ビビアンはユウリに目が釘付けになっている、あまりにユウリを見つめているのでハイドは不審に思いユウリとビビアンを交互に見る。

「なんて…………」

 ビビアンがやっとのことで言葉を発したと思えばすぐに感嘆したように声を詰まらせる。

「どうしたのですか?大丈夫ですか?」

 ユウリは心配したようにビビアンに駆け寄り、侍女はユウリの髪を梳かしたままそれについて行く。

「なんて可愛いのかしらっ!」

 ビビアンは急にそう叫ぶと近づいてきたユウリに抱きつく。

「ほえっ!?」

 ユウリは驚いて美女の腕から脱出しようともがくもその腕の力は相当のもので簡単には抜け出せない。

「可愛いお人形さんのようですわっ。私、こんな子が欲しかったの」

 意味の分からない言葉を吐きながらビビアンはさらに腕に力をいれる。

 ユウリは今や必死に美女の腕の中で暴れるも、スラッとした体のどこにそんな力があるのかビビアンはユウリを放そうとしない。

「おい、いい加減にしろ」

 ハイドはそう言うとユウリの首根っこをつまむようにしてビビアンから引き剥がす。

「ふう……息ができませんでしたよ」

 ユウリは涙目になりながら大きく空気を吸い込む。

「お前……何がしたい? ふざけるな、今すぐこの城から出て行け」

 ハイドはユウリの目に涙が溜まっているのを見ると声を荒げる。

「申し訳ありませんわ、ハイド様。でも、この子、私のタイプど真ん中なもので思わず……」

「ふぇっ!?」

 ユウリは驚いたように肩を震わす。

「あなた名前は?」

 ビビアンはハイドの存在を気にする様子もなくユウリに近寄る。

「ユウリ……ですけど?」

 ユウリは少し怯えながら答えるとハイドがビビアンとユウリの間に割って入る。

「ユウリ……?それじゃ、この子が神格の?」

 ビビアンは小さく驚きの声を出すとハイドを見る。

「そうだ。それだけ分かったら充分だろ。さっさと帰れ」

 しかし、そんなハイドの言葉も無視しビビアンはユウリを好奇の目で見る。

「こんな可愛い子が神格にもいるのねえ……ハイド様?」

「なんだ」

 ハイドは不機嫌極りない声で返事をする。

「ユウリ様をしばらくうちの城にご招待してもよろしいかしら?」

「ビビアンさんのお城はどんなお城なのですか?可愛いですか?」

 ハイドが返事する前にユウリは目を輝かせてビビアンに詰め寄る。

「もう、それは可愛いお城で……お花も沢山咲いていますし、小鳥も遊びにきますのよ」

「嘘つけ、お前の城は魔族しか好まないような城だろ」

 ハイドがそう言うとユウリはがっかりしたように肩をおとす。

「そうですか……」

「うう…………」

 ビビアンは悔しそうに唸るとハイドは呆れたようにビビアンを見る。

「諦めろ、こいつの趣味とお前の趣味は恐ろしく正反対だ」

 ハイドが止めの一言を言う。

「…………分かりましたわ。諦めます」

 大人しくビビアンがそう言うとユウリは申し訳なさそうな顔になった。



「……それで?なんでお前はまだ俺の城にいる。大体、さっきお前は諦めると言ったのではないか」

 ハイドは大広間でお茶を楽しんでいるユウリとビビアンを見ると顔をしかめる。

「まあまあ、ハイド様ったら。そんなお顔をされたら、せっかくのお綺麗な顔が台無しですわよ?それに、諦めると言ったのはユウリ様を私の城に 連れていくということだけですわ」

「黙れ」

 ハイドが短く言うとユウリは頬を膨らます。

「どうしてそんなに意地悪ばかり言うのですか、ハイド」

 ビビアンはユウリの言葉に頬を赤らめるとユウリに抱きつく。

「そうなんですの、ハイド様ったら私にいつも冷たいんですわよ」

 ビビアンはハイドの顔をニヤニヤしながら見る。

「…………」

 ハイドは黙っているがそこからは恐ろしい怒りがみてとれる。

「そうなんですか?あっ、でも……ハイドはいつも冷たいですから気にしてはいけませんよ」

 ユウリは純粋に励ますように言うとハイドの顔はさらに険しくなる。

「わあっ……ハイドなんですか?」

つかつかとユウリに近づくとひょいっとユウリを抱きあげる。

「眠い……」

 ハイドはそう呟くと後ろで騒ぐビビアンを背に扉を派手な音をたてて閉じた。



 ベッドに乱暴におろされるとハイドはユウリの隣に寝転ぶ。

 そして、不機嫌そうにユウリの顔を睨む。

「な……なんですか?」

「思い当たる点は?」

「え、と?ない……ですが」

 ユウリはやや不安そうに答えるとハイドがユウリの耳元に口を近づける。

「ふーん。誰がいつも冷たいんだったっけな?」

 と不敵な笑みと共に囁くとユウリはビクッと震える。

「そ……それはですね」

 ユウリは急いで弁解しようとハイドの顔を見るとその瞼は閉じられていて美しい寝顔が隣にはあった。

「まあ、本当に眠かったのですね」

 ユウリはふふっと笑うとハイドの額と自分の額をこつんと当てた。

「ビビアン様、そろそろ城に戻られませんとお父上様がご心配なさります」

一人の家来が不機嫌そうにソファでくつろいでいるビビアンに言う

「・・・・・・・・もう一度だけユウリ様のお顔を目にしておきたかったのですけど、ハイド様と一緒にいるのならしょうがないですわね・・・・」

ビビアンはそう言うと美しい金髪をなびかせ城から出て行った


「ビビアン様はハイド様目当てだったのではなかったのか?」

ビビアンの家来たちはひそひそと喋る

「そうだったのですが、ユウリ様にひどく惚れこんでしまわれたらしいのです・・・・」

もう一人の家来は呆れたように言う

「まったく・・・・・・・・・・ビビアン様は綺麗なもの、可愛いものなら何でも惚れ込んでしまわれるのですから」

家来たちは大きな溜め息をひとつ吐いた



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ