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  作者: 宙音
13/25

13.決意

 長い廊下をハイドはどんどん進む。

 ユウリは廊下に敷かれているふかふかしている赤い絨毯を感心したように見ながらハイドに引っ張られていく。

「あの……ハイド?」

 ハイドはユウリを吸血鬼から救ってから一度も口をきいていない。

 ……何をそんなに怒っているのでしょう?

 ユウリはハイドの様子に首を傾げる。

 長い廊下の一番奥の部屋に着くとハイドは黙ったままドアノブに手をかける。

 カチャ……。

 その部屋には小さな窓がひとつ。

 その窓から見える景色はもう真っ暗で見えるものと言えば細長い月だけである。

 暗い部屋にユウリが怯えているとハイドは手を軽く振り明かりを灯す。

「あ、ありがとう」

 ユウリは無表情のハイドに礼を言うとハイドはユウリの顔を真っ正面から見る。

「…………」

「えっと…あのですね、今度はちゃんとお兄様に了解を得て……出てきたんですよ」

 何も言わないハイドに戸惑い、ユウリは弁解でもするかのように喋り出す。

 しかし、まだ声を発しようとしないハイド……。

「それで…あの、言いたいことは沢山あるんですけど。まず、吸血鬼さんから助けてくれてありがとうございます」

 ユウリはハイドの視線から逃れるように下を向いて言うがハイドはまだユウリの顔をみたまま黙っている。

「ハイド?何か言ってくださいよ……」

 ユウリはとうとう瞳をうるわせ、涙声になり始める。

「……お前はやっぱり馬鹿だ」

「なっ……なんですかっ、喋ったと思ったらいきなり馬鹿呼ばわりですかっ」

「まず、聞きたいが……どうしてあの吸血鬼を庇った?」

 ハイドは恐ろしく冷たい声でユウリに問う。

「どうしてって……だって、吸血鬼さんは血を吸わないと生きていけないのでしょう?それに、あの吸血鬼さん……とっても辛そうでしたし。ハイドこそ、どうしてあの吸血鬼さんを傷つけたのですか?血が出たらもっと貧血になって……」

「ふざけるなっ!!」

 ユウリの言葉を妨げるようにハイドの珍しく興奮した大きな声が響く。

「お前の血は……他の奴らと違うんだ。お前が死ぬまで血を吸われる可能性だってあるんだぞ。どうして抵抗をしなかった?」

 ユウリはハイドのいつものような冷静でない様子に驚く。

「え……だって、怖くって……。動けなくなってしまって」

 ハイドはたじろぐユウリを見ると荒げていた息を整える。

「もう……いい」

 そう呟くとハイドはぽかんと情けない顔をしているユウリに歩み寄るとその顎を掴み上を向かせ荒々しく彼女の桃色の唇を奪う。

「……んっ?! んーー」

 ユウリは驚いたように目を見開き暴れ出すがハイドがその腕を抑える。

「急に何するんですかっ。は、初めて……」

 やっと解放されたユウリは空気を肺に補給するとハイドに向かって涙声で訴える。

「お前は、馬鹿でどうしようもない……俺がずっと傍にいてやる」

 ユウリはハイドの言葉を聞くなり真っ赤になり、非難の声も忘れてしまう。

「は……はい。あの、そうして頂けると助かります……」

 ユウリは口をもごもごさせる。

 ハイドは溜め息をひとつ吐くとユウリの髪を撫でる。

「で、お前は……俺が怖くないのか?」

「え……。あの、ハイドが女の人の血を吸ってるの見たときは…・…びっくりして足動かなくなっちゃったんですけど……」

「怖かったのか……」

 ハイドは額に手を当てる。

 しかし、ユウリは急いで首を横に振った。

「違うの。あの、その……。あとでよく考えたら、怖かったんじゃなくて……そのですね、あの……」

 ユウリは戸惑うように目を泳がせる。

 ハイドはその様子を不思議そうにうかがう。

「なんだ?」

「その、嫌だったんです」

「……はあ?」

 ユウリの意味不明の発言にハイドは片眉を吊り上げてみせる。

「どういう意味だ?」

「だから……嫌なのっ。自分でも馬鹿だって分かってるんですけど、それでも……ハイドが他の女の人の血を吸ってるのが……」

 ユウリは顔をこの上ないほど真っ赤にさせながら言う。

「……それは、つまり嫉妬?」

 ハイドは信じられないといった様子でユウリに聞く。

 ユウリは黙って下を向いたまま頷くとハイドの手がさっと伸びてくる。

「じゃあ、俺に血を吸ってほしくないと?俺を殺したいのか?」

 ハイドはユウリの耳元で低く囁く。

「……え。それは」

 ユウリはハイドの声に体をびくりと震わせる。

「俺は吸血鬼だ。血を吸わないと生きていけない、とさっきお前も言っていただろう?」

「う……。そうですよね…。」

「まあ、お前の血が頂けるなら問題はないんだがな……」

 ハイドはふざけてそう言いながらも灰色の瞳はユウリの首筋に注がれている。

「あっ、そうですよね。じゃあ、血を差し上げます。前にも言いましたけど……ハイドのためならいいのですよ」

 ユウリは顔をぱあっと輝かせる。

 ハイドは呆気にとられ言葉を失う。

「……お前、本気か?」

 ハイドは目を見開きながらユウリの肩を掴む。

「はい。もちろんですよ?」

 ユウリはどうしてハイドがそんなことを聞くのかが分からないといった様子で首を傾げる。

「でも…お前は吸血行為が怖いんじゃないのか?神格は皆恐れるのだろ?」

「うーん。そうなんですか?でも、お兄様はそんなことないと思いますよ。あ、でもポーカーフェイスだから分からないだけですかね?」

 ユウリは人差し指を唇にあてながら考え込む。

「じゃあ、お前は怖くないのか?」

「少し……怖いかもしれませんね、ハイド以外の吸血鬼さんなら…。ほら、さっきの吸血鬼さんの時はすごく怖かったですし」

「俺は、いいってこと……か?」

 ハイドはユウリの頬に細長い指を当てる。

 ユウリはその指を握ると優しく微笑む。

「はい」

 ユウリが短く答えるとハイドはユウリの腰に手を回し体を引き寄せるとさっきユウリを襲った吸血鬼がしたように首筋を舌でなぞる。

 ユウリは微かに身体を震わせるとハイドはそれに気づいたのかユウリの腕を優しく撫でてやる。

「いい……のか?」

 ハイドはユウリの様子を伺う。

 ユウリは少し怯えながらもゆっくりと頷くと肩にのっているハイドの頭に手をやる。

 ハイドは瞳の色を赤くして口を開ける。

 いつもより長い牙がユウリの目にちらっと入ってくる。

 その牙はユウリの首筋にあてがわれる。

 ユウリはきゅっと目をきつく閉じて次に来るであろう皮膚を裂く痛みに耐えようとする。

 しかし、首筋に降り注いだのは痛みではなく柔らかい唇の感触であった。

「えっ……?」

 ユウリはハイドを見る。

「楽しみは後にあるほうがいいだろう?」

 ハイドはにやりとユウリに笑う。

「……?」

「それに、お前だって今日は疲れてるだろう、倒れられると後が面倒だしな」

 ハイドはそう言うとユウリを離す。

「でも、死にそうになったらいつでも血を差し上げますからっ」

 ユウリは離れていくハイドに少し必死になって言うとハイドは嬉しそうに笑う。

「ああ、分かったよ」

「なら、いいです」

 ハイドの笑顔を目にするとユウリも笑顔になった。

「ハイド……あの……」

 ユウリが決心をしてハイドに何かを言おうとするとちょうど部屋がノックされる。

 コンコン…。

「誰だ?」

 ハイドはどことなく不機嫌な声で聞く。

「ジェレミーです」

「入れ」

 ハイドはひそかに溜息を吐く。

「失礼いたします…」

 ユウリはハイドに言おうとしていた時に邪魔をされ少し残念そうな顔をする。

 ジェレミーはそれを見ると不機嫌そうにしているハイドとユウリの顔を交互に見る。

「あの……邪魔でしたか?」

「ああ」

 ハイドは言うと椅子にどさっと座り込む。

「いえ、私は構いませんよ」

 不安そうにユウリの様子をうかがうジェレミーにユウリが優しく声をかける。

「ありがとう。ユウリ、ここの城には初めて来るよね?僕が案内するよ。あんまり魔族っぽくない様式にしたから、きっと気に入ると思うよ」

 ジェレミーはそう言いながら椅子に不機嫌そうに座っているハイドに目をやる。

「いいですよね、兄さん?」

 ハイドはユウリの嬉しそうな顔を見て呆れたように頷く。

 それを見るとジェレミーは顔を綻ばせてユウリの手を引き部屋から連れ出す。


「まあ、すごく大きいお部屋ですね。ここは……大広間ですか?」

 ユウリは暗い大きな部屋を目を細めながら見る。

「いや、ここは兄さんの寝室だよ。まあ、兄さんは滅多に使わないけどね……。だいたい、兄さんはこの城にいる時間が短いからね」

 ジェレミーは考え深げに言うとユウリは申し訳なさそうに肩をすくめる。

「ごめんなさい。私がハイドを振りまわしてしまって……」

「あっ、別にそういう意味で言ったんじゃないんだ。それに、兄さんはどこにいたってなにかあればすぐに駆けつけることができるしね」

 ジェレミーは慌てて説明するがユウリはまだ申し訳なさそうにする。

「でも……」

「いや、本当に…。兄さんがいなくても城は大丈夫だよ。何も起こってないし…ね?」

 ジェレミーはユウリの顔を覗き込む。

「ああ、確かに。だから、お前が心配することじゃない」

 ユウリとジェレミーの立っている主寝室の奥から声が発せられる。

「ハ、ハイドっ!?」

 ユウリは驚き暗い部屋の奥を目を細めて見ようとする。

「兄さん。さっきからずっと後をつけて……。そんなに気になるなら一緒に案内すればいいのではないのでしょうか?」

 ジェレミーは暗い中でも見えるのであろう、部屋の奥の一点を見つめながら言う。

「え?さっきからつけていたのですか?」

 ユウリは驚く。

「……鈍感。」

 ハイドはそう言いながら暗い部屋の奥から姿を現す。

「あの……」

 ユウリが明かりを……と言い終わらないうちにハイドが明かりを灯す。

 やっと周りが明るくなりユウリの目にも部屋の中が見えるようになるとユウリは感嘆の息を呑む。

「なんて立派なお部屋なのでしょう」

 天蓋の大きなベッドには金の美しく細かな装飾が施されており他の家具もすべてベッドと同じく統一されている。

「まあ、一応……主寝室だからな」

 ハイドはユウリの隣に立つと自然と手をユウリの肩にまわす。

「これでも、主寝室にしては小さいほうなのに兄さんが大きいのはいらないと言うから」

 ジェレミーはそう言いながらさりげなくユウリとハイドの間に割って入りユウリの肩にまわされているハイドの腕をほどく。

 ハイドはきっと弟を睨むが弟はというと何事もなかったように笑顔でユウリに話しかける。

「僕の部屋も見にいく?」

 ユウリは好奇心からか喜んで首を縦に振ろうとするとハイドが後ろからユウリの首に抱きつくようなかたちでその動きを止める。

「わっ、ハイド?」

「お前はもう消えろ。ユウリはここで寝かせる」

 まるでユウリを子供だと思ってるような言い方である。

 ジェレミーは本当は反抗したいのであろうが兄に逆らうこともできずユウリの手の甲にキスをすると大人しく部屋を出て行った。


「私がここで休んでもいいのですか?」

「構わない」

 ハイドはそう言うとさっきジェレミーにキスされたユウリの手に視線をやる。

 そしてその手を取ると床に膝をつく。

「なんですか?」

 ユウリは不思議そうにハイドの行動を見る。

 ハイドはユウリの手に頬をつけると赤くなるユウリを上目づかいに見ながらジェレミーがしたようにキスをした。

 ハイドが立ち上がって真っ赤になっているユウリを見ると満足そう口元を緩ませた。

「そうだ、さっき何を言おうとしてたんだ?」

 ハイドは思い出したように聞くとユウリはさらに真っ赤な顔になる。

「あの、その……」

「その?」

「……好きです」

 ユウリは恥ずかしそうにそう言い俯く。

「……」

 俺もだ。

 ハイドはそう言うとユウリを優しく抱きしめた。


 ……大きな窓から見える月は2人の様子を見守るように静かに優しく輝いている。

お久しぶりです


春日凜音です


読者の皆様・・・こんな作品を読んで頂いて


ありがとうございますっ


ハイドさんもユウリさんも・・・ぁ。ファーレンさんも喜んでいらっしゃるようで(笑)


これからも、よろしく。


とのことです


あと、時間がございましたら感想など・・・☆彡 *.:*:.。.: (人 *)

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