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ハニーミルクはお好みで

「はちみつの日」ということで。……はい、猛省します。というか、自重します。

 彼にとってその人物は、寝るのに頭の高さがちょうど適した枕のような存在だった。

 だから、本来の性別が己とは違っていても、そんな事はどうでも良かった。彼にとって居心地が、否、寝心地が良いかどうかという問題しかなかったからだ。

 彼は、とにかく寝る事が何よりも好きだった。食べる事より遊ぶ事より、それから他人と会話をする事よりも。

 おかげで、家族の中には呆れる者もいたが、母親は彼を最後に産んだという事もあって心配するばかりだった。

 そんな母を見かねて、父は爵位を受け継ぐ長男のスペアに過ぎない彼の根性を直すという名目で、国内でも屈指の名門校と言われるリーレン騎士養成学校へと彼を入学させたのだ。

 しかしながら、結局、どこにいても彼は何も変わらなかった。

 眠たければ何処にいても寝てしまうし、何をしていても眠気には抗えなかった。

 だから、たまたま同じ一年生で寮でも同室になった彼女には口にしないが感謝していたりする。元々、ここには彼女の弟が来る予定だったという事もあって、彼女は非常に面倒見が良く、先導して彼をよく引っ張ってくれていたのだ。

 いや、ありがたい、なんてものじゃない。

 彼にとっては、生まれて初めて出来た友達でもあったからだ。

 枕で揶揄出来るほどに、彼はそんな彼女の事を非常に気に入っていたのであった。


 なので、現在、非常に困っている彼女を助けるのはやぶさかではない。


 昼間の学生食堂、といういわゆる学生たちの憩いの場所は、彼にとってもよくあるお昼寝タイムには充分の場所であった。ただし、不満を言うならばただ一つ。

 それは、彼女の下に集まってくる者たちが大物ばかりで周囲が非常に賑やかでうるさいという点だろう。

 実は、その中の数割が彼のファンであるのを彼は知らない。知った所で、彼にとっては無意味でもあるが。

 うわっ、という声が聞こえたのは、ちょうどいつものように眠りに入る寸前の事だった。

「ああ、動かないで。まずは、そこを拭きますから」

 その後、小さなカップが机から落ちた音が響いて、少し前からこのテーブルの一員に加わった同じ一年生の声がした。

「まーた、派手にやっちまったなぁ」

「す、すみません」

「ベットベトじゃねぇか、お前」

「……フェルメールさん、楽しんでません?」

「いやぁ、だってな。お前のそんな姿はさすがに」

 続いて、彼女と同様ルームメイトである先輩が含み笑いをしながらそんな不穏な事を言うものだから、彼はそこでようやくのそりと顔を上げた。

「……ど、したの」

「あっ、ご、ごめんね、レイン。うるさくしちゃって」

「……」

 彼が睡眠をどれほどこよなく愛しているのか、彼女は知ってくれている。だからか、彼女は誤ってコップの中のものを浴びた状態であったとしても、眉尻を下げて彼に謝ってきたのである。


 己が、今、どういう状態に見えるのかという事も気付かずに。


 やけに静まりかえった食堂中の視線を受けている事さえも。

 彼女は全く気付いていない。

 普段は睡眠で周りの空気を遮断してしまう彼にも、この危うい状況を一目で理解出来たというのに。

「ああ、手までびしょびしょ」

 ならば、と彼は手を伸ばす。

 彼の睡眠を見守ってくれている彼女のために。

 故に、男女の感情など欠片もないが――


「……ん、甘い、ね」


「っ!」

 ペロリと舌で舐め取った雫は確かに甘く、びくりと震えて彼を見下ろした彼女の蒼い瞳と目が合った。

「ごめん、ね?」

 この危うい均衡を崩すには、これしか思いつかなかったのだ。

 なので、応急処置として敢えてそんな過剰な真似をした事を謝っておく。

「う、……うん」

 彼女は戸惑いながらも頷いたので、良かった、と思って再び彼は睡魔の誘いに答えるべく机に伏す――が。

「あー、コホン。イエリオスは直ちに着替えてこい。付き添いはフェアフィールドな。あと、レイン、お前は今から特務室行き決定な」

「……」

 え、なんで?という言葉は残念ながら聞き入れられる事はなかった。


分かる方には分かるタイトル。

最近、自分のタイトルの付け方が壊滅してきて恐ろしいです。


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