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 White snow snow Drop(下)

 ふわふわ、と。


 緩やかに意識が浮上していく。

 微睡みにたゆたう感覚が心地よくて、覚醒するまでの僅かな感覚を深く味わう。

 その過程の中で、誰かが声を荒げたような気がした。

 この声の持ち主は――――弟?

「こんな事になるんだったら、あんた達に姉を任せるんじゃなかったよ!」

「まあまあ、落ち着いて。幸い、大きな怪我もないみたいだし、ひとまず彼女が無事で良かったと思うべきだよ」

 ……え。

 ちょっと、待って。どうして、コルネリオ様までいるんだよ。

「甘い!っていうか、コルネリオ様にも少なからず責任があるんだからね!」

「あはは。君は彼女と比べて手厳しいなぁ」

「おいおい。ちょっと待てよ、確かにこいつが階段から落とされたのは俺たちの責任かもしれねぇけどよ、コルネリオ様にまで言いがかりを付けんじゃねぇよ」

 えぇ……?しかもフェルメールさんまで?一体全体、どういうことだ?

 これは、早く起きるべきか。

「お前達、今ここで問うべき事柄からどんどん話がズレてきているがそれでいいのか?」

 ちょっ!この声はまさか……ディートリッヒ統括長?

「そうですよ。ディーに同調するのは遺憾ではありますが、私たちがどうしてここに居るのかのという事を今一度、ちゃんと思い出して下さいね」

「シビア!そこ、シビアだから!もうちょいオブラートに包んであげて!」

「貴様になど同情されたくないわ!」

「まあ、そう言うなっての」

 わあ、まさかのリーンハルト先輩までいらっしゃるー。というか、こんな状況じゃ起 き ら れ な い。うん、これだけ大所帯で来てもらっても困るんだけど。

 もう微睡むなんて事は悠長な贅沢は堪能できない。それに、思い出したけど、確か俺は階段から突き落とされてしまったはずだ。という事は、ここは保健室と考えて良いのだろうか。

 寮の部屋なら、両サイドから声が聞こえるはずがない。オーケー、ならば保健室で正解だ。

 さて、それで次はどうしよう?何となく、狸寝入り決めてるけど下手に起きられなくなってしまった。

「いや、だからさ、僕はね本題に入る前に、これは一体どういう事かって聞いてるの。姉がこの学校でまた無意識に人をたらし込んでるのは知ってたけどさ。この手紙の数は、どういう事なの?」

 ……う。

 誑し込むってなんなんだ。俺は、魔物か悪魔なのか。っていうのはもう流すとして。

 ああ、やっぱりか、なんて思うのは、ここに弟がいる時点でわかりきっている事だった。俺が前世の記憶を取り戻すよりも前から何かとシスコンな弟が、俺宛の手紙を見過ごすはずはない。

 しまったな。せめて、階段から落ちるのが放課後であれば、その前にどうにか処分のしようもあったのに。

「すまん、それは俺も存在すら知らなかった」

「はあ?今まで?」

「ああ。……おい、レンドレイン!起きろ!お前も、こいつが手紙を貰っていた事は知らなかったよな?」

「……」

「頷くんじゃなくて声に出せ、ってかまた寝ちまった……ったく」

 あはは。レインはどこにいても相変わらず寝るのが好きだなぁ、じゃなくて。まさか、レインさえもここに居たなんて。……もう笑うしかないだろう。笑えないが。

 一体、この部屋に何人いるんだ?

 それは、起きた時にしか分からないのが何とももどかしくて仕方ない。まあ、考えても埒が明かないのは分かってる。

 ――それよりも、だ。手紙の事は、フェルメールさんが知らないのは当然だろう。いつも手紙を渡されていたのは保健室だし。……ただ、心配をかけたくなくて、帰る前に申し訳ないけどどうにか処分していたのだ。

 騎士見習いの中でも、俺は体格もまだ小さいし頼りなさそうに見えたから、当然擬似的に懸想しやすい対象だという事は手紙を読んで理解した。初めて貰ったときは、まさか女だという事がバレたんじゃないかってドキドキしたけど。

「そりゃあ、うちの姉は儚い系美少女だよ?だけど、こんなにも貰うなんて尋常じゃないでしょ」

 ……え?六通って多い方なの?酷かったら、十通以上貰う時なんてあったけど。

「おわぁ、これは座学じゃ常にトップクラスのあいつじゃねぇか」

「こちらは、実技でも剣を得意とする彼ですね」

「見てみろ、これなんて手紙のての字も知らねぇ奴だ」

「こらこら、特務生たちがこぞって他人の秘密を覗くものじゃないよ。彼らは、勇気を振り絞って手紙を書いて渡したのだろうからね」

 コルネリオ様のおっしゃるとおり。だからこそ、俺も蔑ろにしないように気をつけている。だから、処分する時は仕方ないとはいえいつも心が痛むのだ。

「手紙……そうだ、手紙の内容を確認していきませんか?」

 ……あ。それは、いけない。

「はあ?あんたコルネリオ様が言った意味理解してる?この際だから言わせてもら」

「手紙にヒントが隠されているかもしれないじゃないですか!」

 というか、どうして彼がここに居るのかは分からないけど。

「ちょっとぉ!」

 弟の驚きの声と共に、紙が擦れる音が響く。もしかして、強引に手紙を奪った?

「犯人を見つけたくないんですか!?彼女を、階段から突き落とした犯人を!」

「可能性はありますね」

「そうだね。この手紙の一つ一つに思いは込められているのだろうけど。どうして、そこに早く気付かなかったんだろう」

 リーンハルト先輩とコルネリオ様の声が聞こえて、一斉に封筒から手紙を引き抜く音がする。

 レインは寝ているだろうから、六通なんて今俺が数えたここにいる人数と同じであって……いや、もう考えている暇はない。

 とにかく、今は――


「やっ、止めてください!!」


 声を出さずにはいられなかった。

「……お姉ちゃん、目が覚めて?」

 彼らの行動を慌てて止めようと起き上がったと同時に、まず目が合ったのは俺とそっくりな顔の弟だった。

「……」

 だが、その顔は驚きに満ちていて――まるで、歪められた紙のように強張った。

「あ、あのさ」

「これって」

「……どういう事だ」

 そんな引き攣った顔の弟とフェルメールの言葉を引き継いだのは、統括長で。

「もしかして、君は」

「こんな……手紙をいつも?」

「……っ」

 続く彼らの呟きと視線に耐えかねて、思わず唇をかみ締める。


 ――分かってた。

 だからもう、これ以上言わないでほしい。


 そんな俺の願いは叶わず。

 思わず、耳を塞いだ俺にとどめを刺したのは、


「悪意なんて、もんじゃない!これは、明白な敵意だよ!!」


 まるで、自分が同じ目に遭ったかのように悲痛な表情を浮かべたセラフィナだった。

「……」

 ――そう。

 彼らが手にしているそれぞれの手紙にあるのは、怨嗟の言葉。初めは、拙い文面で書き綴られた恋の文。だけど、俺はそれに応えることなんて出来なくて。なびかない俺に苛ついたのかいつしか憎しみへと変化したのだ。

 初めて押し倒された時は、馬鹿にしてって思ってたけど、さすがの俺も恋文を貰ったら、あの行為がどういう意味を持っていたのか理解した。

「……悪いのはこっちだし、手紙ぐらいなら我慢出来るよ」

「ばか!違うだろ!」

「六人全員というのは異常過ぎるぞ。お前、こいつらに脅されて呼び出されたんじゃないのか?」

「……っ」

 そこまでお見通しされたら、ぐうの音も出ませんって。

「何故、君まで傷付く必要があるというのですか?こうして階段から落とされて、今回はかすり傷程度で済みましたが、死んでもおかしくない行為ですよ」

 真剣に上級生に怒られてしまった。……というか、この場にいる全員の表情がはっきり言って恐いのだが。

「申し訳ないけど、今回は彼らを処分せざるを得ないよ。君が彼らの将来を守ろうとして、どれだけ庇おうとも次は大けがを負うかもしれない、いや、次こそ命を落とすかもしれない」

 分かっているよね?と、コルネリオ様は緋色の瞳で俺を見下ろす。

 コルネリオ様が言いたい事は分かってる。両親と同様に俺たち双子をいつも大事に守ってくれて、学校長であるよりも一人の人間として俺に重きを置いているという事実も。

「そもそもね、恋愛沙汰で逆上するなんて騎士としては失格なんだよ。だから、君が気を咎める必要はない」

「……ごめん、なさい」

 きっと、こうなる前に相談するなりすれば良かったんだ。


 そうすれば、きっと――


「ああ、泣かないで」

「泣いてなんて、」

「もう。お姉ちゃんは泣き虫なんだから。ほら、僕がぎゅってしてあげる」

 え?この状況で?

 さすがに、学校関係者がいる中で弟に抱きつくのはどうかと思う。

「いやいや、するなら俺に任せとけ」

「は?なにを言ってるんですか?ここは、この中で一番冷静な私がすべきでは?」

「あー、ゴホン。お、俺なら、こいつらより体格があるし周りから隠してやれんこともないが」

 え、ええっ!?……いや、なになに?どうして、急に競い合うんだ!?

「さっき、……誰が目覚めのキス、するか……口論してたっけ、……ぐう」

「えっ!レイン!?」

 って、また寝てる。

 それよりも、何かただならぬ事を言われたような。

「もう!こうなったら、誰がお姉ちゃんを抱き締められるか勝負しよ!」

「は!?なに、言ってるの!?」

 ちょっと、いやかなりついて行けないんですけど。……だ、誰か止めてよ。と視線を彷徨わせて助けを求めれば、セラフィナと目が合った。

 お願い、この状況を止めて!という切実な思いを目だけでどうにか伝えた所、彼が大きく頷いてみせる。

 ああ、良かった、と思ったのも束の間。

「勝負は一回のみという事で。じゃんけんにしましょう!」

 はい?ちょっと、待って。さっきのは何だったんだ?

「……ふふ、この世界に生まれる前からこの方、じゃんけんの勝負には負けた事がないんだよ。イエリオスくんの思いは、しかと受け取った。このセラフィナ・フェアフィールド、全力でお相手しよう!」

 うわぁ、一人だけかなり燃えてる!!どうして、こんな変な方向に向かうんだ!

 この世界の男共おかしすぎだろ!!!!



 その後、やはりというべきか当然あの人が勝利を収めたのは言うまでもない。

 ……というか、別の意味で泣きたくなった。



確か、なんちゃって白雪姫がテーマでした。

TSだとイオこそ乙女ゲームの主人公みたいだと載せた時も書いた気が。

中身は男だし、記憶を取り戻して一年も経ってないので文体も男らしくあったりします。


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