Time-lag ――遅れて主役はやってくる。――
思い返していたんですが、四章辺りのお話ですね。
セラフィナさんはどこに行ってもセラフィナさんだった、というようなお話です。
ちょっとずつ載せている間に、読んでくださりしかもブクマまでありがとうございます。
「やあ、どうも」
それは、穏やかな真昼の事だった。この寮生活にもようやく慣れて、食事が美味しく感じられる程度には精神的にも落ち着いてきた時のこと。まあ、元々前世では男だった事もあって、この男ばかりの世界に恐怖は感じなかった事は幸いといえる。
いつものように昼ご飯を食べていると、同じ新入生だと思われる少年に声を掛けられた。
「……どうも」
名前は覚えていないけれど、確か上級生達が、神がかっているぐらいの美形がいるとかで騒いでいたのがこの少年だったような気が。
「相席、良いかな?ここ、座っても?」
「えっ、あ、レイン良いかな?って……寝てるし」
というか、おたくも俺に聞く前に座ってるよね?しかも、隣りってどういう事だよ?とは言えないので、愛想笑いで誤魔化す事にする。どうせ、俺は今でも典型的な日本人だ。
そもそも、この状況が分からない。なんだっていきなり?だって、入学から一ヶ月過ぎといえば、たいてい集まるメンバーも決まってくる頃だろうに。現に、俺だって不本意ではあるが、とあるグループに纏められていたりする。いや、ほんと不本意なんだけど。ただ、隣りにはいつもこの寝ることが好きな友人がいるから心細くはないけども。
「……」
うん。っていうかさ。
「あの、食べないの?」
「うん?」
いや、うん?じゃなくて。見惚れてしまうぐらいの美形が隣りにいて、じっとこっちを見つめて肘を突きながら微笑んでたら食べにくいよね、普通?多分、若い女の子たちだったら卒倒するんじゃないかなぁ?
「料理が冷める、よ?」
ぶっちゃけ、食べにくいです。
「それもそうだね」
はあ、良かった。これで、俺も落ち着いて食べられる。そう思ってホッとしていると、目の前に食事を載せたトレーが置かれた。
「よお」
「あ。お疲れ様です、フェルメールさん。……と、統括長」
「……ああ」
うーん。相変わらず、一緒に来といて見事に愛想がバラバラだなぁ。そもそも、ここまで統括長はフェルメールさんを嫌ってるのにどうしていつも一緒にご飯を食べるのかが分からない。……まあ、他人の事情に首を突っ込むのもアレなんだけど。この有名人二人がきたおかげで、にわかに周りがざわついているのにも、もう慣れた。いや、正確にはそうならざるを得なかった。
つまり、俺は入学してしばらくの事。フェルメールさんとレインに入れ替わっている事を暴かれて、何故か分からない内に彼らと一緒に昼ご飯を食べるグループに纏められてしまったのだ。要は、巻き込まれたって事だけど。
始めは、食べる場所が他になかったからとかそんな理由だったはず。なのに、いつの間にかこうして仲良くとまではいかないが一緒に昼休みを過ごす間柄になってしまった。
……うーん、いまだに解せない。
「んで?君は、何を期待してここにいるのかな?」
フェルメールさんの楽しそうな顔は通常運転――なんだけど。この明らかに好戦的な笑顔が恐い。それが決して、俺に向けられている訳ではなく、隣りで微笑んでいる人物に向けてというのは分かっているけど。
「え?言っている意味が分かりません」
いやいや。お前は、なんでそんなに余裕かましていられるんだよ。
「入学試験では学年トップ。適正試験すらSクラスで、人当たりも良く人望も厚い。おまけに美貌も備わっている。どこにいっても一年の集団の中心にいるお前が、どうしてそこに居るのかと訊いている」
わー、ダブルコンボきたー。って、どうでもよさげに見えて統括長も気になってたんですね。でも、俺もどうして声を掛けられたのか分からなくて困ってたのは事実だ。
「しかも、ここは食堂内でも隅の方です。なるべく周囲の目を避けたいという人物の希望に添って、あまり目立たない位置だと思うのですが?」
おっと、まさかのトリプルか。遅れてやってきて早々に会話に入ってきたのは、統括長の弟のリーンハルト先輩だった。なんだ、これ。向かいに上級生が三人並んで座っているものだから、圧迫面接としか思えない。どこの面接会場なんだよ。
ちなみに、目立ちたくないと言ったのはこの俺です。すいません。だから、リーンハルト先輩は意味深に見ないで下さい。
三者三様に責められて、俺ですら徒労感が半端ないのに、どういうわけか隣りに座る麗人は笑顔でそれを受け入れていた。お前、精神力すごいな!?
「おかしいですか?」
「そりゃあな。自負してるわけじゃねぇが、俺たちがいると分かって敢えてここに来たんだろ?権力目当てっつう可能性もあっからよ」
フェルメールさんがそういうのも無理はない。実際、これまで何度かそういったケースに遭い、全て俺が被害を受けているのだから。けども、結局そういった者たちはその権力によってあえなく去っていったけれど。
そもそも、この人達の権力を利用しようという方が間違えている。いや、正論としていってるのではなくて、逆に食われますよという心配の意味で。
しかし、隣りの少年は、さも可笑しいとばかりに笑って首を振った。
「いえいえ!そんな、違いますよ」
「だったら、何だ?」
ディートリッヒ先輩の言葉と共に、上級生の瞳が一気に集まる。
これ、たまにされるけどほんと心臓に悪いから。
「ただね、私はこうして時間を過ごすなら、好きな顔を見て食べたいと思っただけです。というわけで、私が必要なのはイエリオス君だけですよ」
「はい?」
えっと……ちょっと、こいつが何を言っているのかワカリマセン。いや、待って?
「僕?」
向かいで先輩方すら目を見張って声が出ないというのに、一体こいつは何を考えているんだろうか。
「そう。という訳だから、これから仲良くしてくれないかな?」
「あ、えーっと」
そもそも、名前すら知らないんだけど?という俺の思考を読んだ訳でもないだろうが、彼はその特徴的なピンクブロンドの髪をかき上げながらこう言った。
「私は、セラフィナ・フェアフィールド。女の子みたいな名前だから、覚えやすいと思うんだ」
その仕草は、さすが美形と言えるだろう。俺からしても、実に色っぽく艶めいていた。
こっちのセラフィナさんは、口調はあまり変わらないんですけど何故か格好いいんですよね……




