深夜2時のおひめさま
TS版、女だってバレましたの時のお話です。
「……つまり、これって秘密って、こと?」
「そ、そうなんだ」
お久しぶりです、こんにちは。突然ですが、俺は今、とてつもない緊急事態に陥っている最中です。
「そ、その前に、この体勢をどうにかしようよ」
というのも、俺が身に纏っているのは布きれ一枚。いや、正確に言うのであればタオルという名称だけど。それを、外れないよう片手で固定。おまけに、アウトドアな気分じゃないのに土まみれで尻餅状態。
更に、今ならルームメイトである同級生が上に覆い被さっているというオプションまで付いている。
一体、どうしてこんな事に?と、お思いの方もおられるだろう。分かる、俺にも分かるよ。だって、俺も何が起こったのか分かってない。
「ふ、ぅー……ん」
「って、寝ないで!ちょっ、ばか!」
まさか、後をつけられているとは思いもしていなかったのだ。
前世の習慣とはいえ、女の体にも慣れてないくせに、湯浴みがしたくて仕方なく近くの水辺で水浴びをしに行っていたのが間違いだった。
……そりゃあ、毎日出て行っていたら、いい加減、不審に思われて当然か。
あまりにも自分の単純さにため息を吐き出すが、趣味・特技・好きな事に対して寝ることを真っ先に述べる友人が来たのも運の尽きだったのかもしれない。
まだ濡れた状態で、しかもかろうじてタオル一枚。おまけに、何か疚しい事でもしていたみたいに異性が上に乗っかっている――なんて。
誰かに見られでもしたら、自分の身だけでなく宰相という職業にある父の身も危ないだろう。とにかく、この状況をどうにかするべきだという事は馬鹿でも分かる。
「っ、けど、……っ重!」
誰か、助けて――なんて、バレたら人生の終了が待っているのに、思わずそう願わずにはいられない。
なのに、こんな時に思い出すのはあの悪魔のような自分の分身の顔で。
「……ど、どうしよう。バレたら、きっとキス以上のことが」
「キスが何だって?」
「だっ、だから、弟にバレたらキスだけじゃ済まなくなっ……ええっ!?」
思わず、大きな声を出してしまったのは仕方ない。水浴びにきた自分、そして今も眠っている同級生。 なのに、第三者の声があったのだから。
驚いて、体を軋ませながらもぎこちなく振り返った先にいたのは。
「……フェルメール、さん」
まだ小さいこの体の心臓が大きく跳ねる。
「おうよ。お前ら、おもしれぇ事になってんな」
「お、面白くなんかっ!」
そんな風に言い返しながらも、頭の中では警告の鐘が鳴り響く。
しまった、すっかりこの人の存在を忘れてた、と。毎日、自分一人だけが出て行っていたから見逃してくれていたのかもしれないが、今日はここにもう一人のルームメイトが来たのだから、ついて来るのは当然の結果だった。
――この人が、俺たちを尾行するぐらい分かってたはずなのに!
「そうかぁ?んで?女の子なイエリオスちゃんは、どうしたいんだ?」
近くもなく遠くもなく。ちょうど良い場所にある木に凭れながら、腕を組むフェルメールが楽しげに笑う。
ほんと、どうしたいかなんて分かってる癖に……敢えて言わせるなんて。
この世界の男共はーーーーーー!!!!
だけど、悔しいけども背に腹はかえられない。
いつか、絶対この人の弱点を見つけてやる、と思いながら覚悟を決めて口を開いた。
「……取引きを、しませんか?」