誘惑の果実
「いちごの日」のSS
前世と性別が変わってしまっても、体の特徴以外の変化は特にない。
だから、はっきり言ってデザートにもスイーツにも興味はなくて。
「……えーっと」
なのに、俺の目の前には大量のショートケーキ。っていうか、ぶっちゃけここまで集まったらワンホール分は確実にある訳で。
戸惑う俺を囲むのは、馴染みの面々と外野たちの期待の眼差し。
あの、本気で泣いて良い?っていうか、むしろこれってある意味嫌がらせじゃないかな?なんて本気で思わなくも無いんだけど。
というのも。
今日はリーレン騎士養成学校の記念日でもあったらしく、甘い物が苦手な先輩はまだ分かるとして、どう考えても俺が女だと分かってる連中から女ってこういうの好きだよね?的な具合で軽く寄越されてしまった俺の心境を誰か理解して欲しい。
そりゃあ、ここは男ばかりなもんだから、保健室でよくからかわれたり襲われたりするので、癒やしが欲しいのは心得ている。そして、それを人より体が弱くて小さいナヨナヨした俺で発散させようとしている事も。さすがに二年もいればそれなりにねー。
でも、さすがにワンホールはキツくない?正直、ワンホールも食べる女など居ないと思う。知っているなら、それこそ紹介して欲しいくらいなんだけど。
俺が間違えているんだろうか。……いや、違うと思いたい。
「ありがたいんですけど、食べきれない……と言いますか、えと」
だーかーらー、そんな目で俺を見ないで欲しいー!!!!!と叫びたい。
「……だったら、苺だけ……食べて」
そこへ、困った俺を見かねたというか、気配だけでそういうのを感じ取ったレインがもそりと頭をもたげて呟いた。
「えっ?レイン、苺が苦手なの?」
「……んー」
……って、寝てるよ。あーもう。
さすがに、ショートケーキのメインである苺だけ食べるとか申し訳ないんだけど。どうしようかな、と思わず苦笑いを浮かべたら、正面に座っていたフェルメールがニヤリと笑って、そうしろよ、と同調してきた。
「これだけの量は酷だからな。俺も、果物を食ってくれりゃあ後は食うから」
「俺も」
「私も無理は言いませんよ」
うわぁ、嬉しいけど今度は苺推しでこーまーるー。って、冗句にしてる場合じゃないか。
この人たちには、いつも甘やかされているという実感はありますよ。あるけど、何もお三方がそろい踏みする事ないじゃない。いつもはバラバラなのにさ。
現に、この会話だけで外野で聞いてた生徒たちがすっごく幸せそうな顔をしているので、恐ろしいから視界を遮断した。いや、だって厳つい顔でそれはない。はい、ごめんなさい。
うーん。でも、どうしようね。と、更に悩んでいると。
「はい、口開けて」
「なっ、……むぐっ!」
レインとは反対の俺の隣りに座っていたセラフィナから言われて、驚いてそちらを向けばやや強引に苺を口へと詰め込まれてしまった。
「……に、にゃに、ふるん、ですか」
しまった。ちょっと行儀悪く、咀嚼しながら反論しちゃった。
おかげで、言葉がふにゃふにゃしてしまったので何気に恥ずかしくて口元を手で覆い隠す。っていうか、フェルメールもそのグッジョブみたいな手は要らないから。
「困らせるつもりはなかったので、さっさと実行に移してしまっただけなんです……けど、控えめに言って最高です。ありがとうございます」
「えっ?えっ?」
どうして、お礼を言われるのか分からないんだけど。しかも、口を覆いながらどうして泣きそうになってるの?
「じゃあ、私のもどうぞ。はい、あーん」
「あ、いや、ちょっと待っ、ん!」
と、油断していた訳ではないのに、リーンハルト先輩からも苺を口へと入れられた。
結局、攻防の末、これをあと三回は繰り返してようやく解放されたけど。
「……人の羞恥心を煽るだけ煽っておいて、どうして皆、急に居なくなるのか分からない」




