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うたたねユーフォリア

「ピーターパンの日」のSS

 ふわり、と頭を撫でられた気がして目が覚めた。

 こんな寒い時期は、いつまでも布団に埋もれていたい。だけど、その手の暖かさは俺のよく知る人物のもので。

「……あ。あー、……おかえり」

 うっすらと瞼を開けば、見慣れた色の長い髪を一筋垂らす愛する半身の顔がそこにあった。そういえば、この髪って元々俺のものだったなぁ、なんて。前世を思い出す前までは普通に伸ばしていた己の髪が、今は弟の変装道具に変わってしまっているのだから感慨深い。ぼんやりとそんな事を考えていれば。

「ただいま。まだ眠いんでしょ、眠ってても良いよ」

 そう言いながら、弟はいまだに俺と同じ顔とは思えないほど綺麗な笑顔を浮かべながら、ギシリと俺のベッドの端へと座り込んだ。

 この世界にはどうやら年始年末という概念があまりないらしく、休めるのはたったの二日間のみ。どこのブラック会社かと問いたいぐらいだ。いや、前世でもちょうど二十歳に死んだし柔道ばっかでバイトなんてしたことないけどさ。

 そんな大変貴重な二日間を、今年は城下にある屋敷で過ごそうと二人で計画していたのだ。

 ――けれども。

「せっかく、二人で眠るまでおしゃべりしようと思ってたのにごめんね。生徒会の手伝いが急に入っちゃって」

 俺の代わりを務める弟に急用が出来てしまって、結局、泊まりは俺一人。弟は、そんな俺を気遣ってせめてという思いで日帰りで帰ってきてくれたという訳だ。 

「んー、気にしないで」

 ぬくぬくとした布団の感触を味わいながら、ゆるゆると首を振る。あー最高。贅沢とはこれいかに。

「幸せそうな顔しちゃって」

 ごめん。だって堪らないもの。

「そ、かな」

 こういう寒い時期は夏より好きだ。だって、布団が暖かいんだもの。

 何なら、二人で一緒に寝ようよ。ちょっとだけね。ちょっとだけだから。

 段々とまた睡魔に誘われていく事で、もう心の中で呟いているのか声に出しているのかすら分からなくってくる。唯一、弟の手を掴んで引き寄せたのは覚えてるけど。そんな俺の事をどう思ったのかは分からない、けど。


「……お姉ちゃんはさ、本当にあいつと婚姻を結ぶ気なの?」


 えっと、あいつって?っていうか。

「どうして、」

 急にそんな話を?

 先程よりも明らかに近い位置から聞こえる弟の心地の良いテノールからの不穏な言葉に眉を寄せる。もはや、瞼すら重いので閉じてしまったけれど、予想の位置に手を伸ばせば、そこには確かに奴の頭があったようで何度か撫でた。

「ん。お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ」

 そうだ。俺はずっとお前のお姉ちゃんに変わりは無い。うん。それに、俺がオーガスト殿下に嫁ぐのは宮廷魔導師によって定められているんだよ。

 何を拗ねているのかは分からないけど、大抵これで落ち着くはずだ。……ああ、それにしてもすごく眠い。



「ずっと、ずっとこのまんまなら良いのにな」



 だから、弟が今どんな表情を浮かべているのか分からなくて。

 だけど、掠れた声はどこかひどく寂しそうで。


 意識の狭間で夢うつつになっていたものだから、「私たちは永遠に変わらないよ」と口にしたつもりだったのに。『ずっとこのまま』という発想から、『永遠』という単語が導き出されて、おまけにそこから更に飛躍していたようで。どうやら、弟を巻き込みながら再び眠る寸前の俺は、


「えっ、ピーターパンになりたいの?」


 という発言をしたらしい。

 おかげで、数時間後に目覚めた際、ピーターパンってだあれ?と何故か不機嫌な顔の弟に添い寝のまま顔を近づけられて言われて驚いた。


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