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熱の代償

「いい兄の日」のSSでした。


 ふと思ってしまったのがそもそも間違いだった。

 いや、それよりもそれを口にしたのがいけなかった事じゃないのかと思わなくもない。絶体絶命、とは言い過ぎかもしれないが。

 まさしく、それに近い状態である事にかわりはない。

「ね、だから落ち着こう?」

 先ほど、つい口走ってしまった事により、まさか実の弟から両手で壁ドンをされるとは思わなかった。というか、さ。

「か、かお、近いってば!」

 それによって、いつもより顔が近くて圧迫感が半端ない。何なの?俺、もしかして地雷でも踏んだ?

「自分が何を言ったか分からせようと思ってさ?」

 ……のわりには、すごく楽しそうなのはなにゆえに。

 そのニコニコ顔が何気に恐い。

「って言われても。特に深い意味は無い……よ?」

「はぁ。それなら余計に性質が悪い」

 いや、待って。俺の言葉の一体何がそんなに気に触ったのか。ちょっと本気で分からない。

 そんな不満が顔に出てしまっていたのか、自分とそっくりなはずの弟は、まるで知らない男の人のように真面目な顔で俺を見ていた。

「……」

 どうしよう。

 本当に、何となく思ってしまっただけなのだ。


 もし、私が兄だったとしたらキスしてた?


 ――なんて。

 前世の事を隠してる状態がバレてしまったら、と。

 今の性別は女でも、心は今も男なのだから。

 それを知ってしまっても、こいつは俺にキスをするのだろうかと考えてしまった訳で。それがどうしてこんな事に。

「僕は、」

 と、言い淀んだ弟は少し目を泳がせたのち、俺と同じ色をした瞳で俺を捉える。

 その顔は、やるせないといった表情で、


「君を姉だと思ったことなんて一度もない」


 俺を地獄へと突き落とした。

「そ、……そんな」

 これでも、いい姉と思われるように頑張っていたつもりだったのに。

 ちょっと、いや……これは本気で泣きそうかも。

「ごめん、今日は帰って」

 今は一人きりになりたい。

 そう思って、弟の囲いから逃れようとしたのに腕を取られ――そして、あっという間に抱き締められて、まさかの。


「、んっ……!」


 いやいや、ちょっと待って。なに、この展開。冷静になろうにも、急にされて事に対して頬が熱くなる。

「な、なんで」

「僕にとって、姉だとか兄だとか関係ないんだよ」

「……ど、どういう」

 本気で食われるかと思った。

 そんなキスをされて、動揺しないはずがない。

 ずっと一緒に居たからこその安心感が取り除かれてしまったようで不安が募る。

 なのに。

 ――なのに、どうしてそっちが辛そうなの?

「なぁーんてね!」

「えっ?」

「驚いた?僕もなかなかの演技上手でしょ?」

 えへへ、と笑いながら俺から離れる弟がイタズラが成功した時のようにニヤリと笑う。

「えっ?えん、ぎ?」

 そんな急展開についていけず、まだぎこちなく問いかけてしまうも。

「そだよー!あはは。ね、だから安心して」

 普段通りになった弟は、いつもの柔らかい笑顔を俺に向けた。

「ほんとに?」

「ほんとほんと。もし、お姉ちゃんがお兄ちゃんでも僕には勿体ないぐらいだよ」

「そ、そっか」

 それなら良かった、と安堵しながらも、知らない弟の一面を見た気がして。


 いまだ熱は引かなかった。


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