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Cheek cherry Cheek

時間が取れたので、ようやくTSの方も載せていきます。




 ――どうして、こんな事が起こってしまったのか分からない。


 けれど、分からないなりにも、とにかく今一番にすべき事が何なのかという事を彼女は知っていた。いや、思い出したという方が正しいだろう。

「……」

 ゴクリ、と小さく喉を鳴らした音は自分の中で響いて。

 覚悟は出来ているはずなのに、いまだ緊張してしまうのはこの身体に慣れていない証拠だろうか。まるで、人形の中にいるかのような。

 ……だけど、やるしかない。

 ここで挫折すれば生きていけないと覚悟を決めて、彼女は朝の静謐な空気を味わいながら、猫のようにしなやかな身体を伸ばして背伸びをする少年へと声を掛けた。

「あ、あのさ」

「ん?なあに?」

 首を傾げて振り向いた彼の顔は、まるで写し絵のように己の顔とそっくりだった。その事実にすら、目眩が起きる。――これが、現実なんだと突きつけられたようで。

 ああ、でも。

「お願いが、あるんだけど」

 だからこそ、希望を賭けて彼の蒼い瞳をじっと見据えた。

「君がお願いなんて、珍しいね?」

「……っ」

 そう言いながら鼻先まで顔が近付き、思わず身を引いてしまう。その蒼い瞳は愉しそうに弓形に反り、明らかに遊ばれている感が否めない。

「ち、近いってば。……あのね、後生だから、どうか何も言わずに私と今すぐ入れ替わって!」

 両手で拝むようにぱちんと音を出して合わせながら、頭を下げる。

「し、しばらくでいいから!お、お願い」

 今は、とにかくそれしか言えない。というか、彼女にとって今はそうする事でしか自分の本来の自尊心を守る術が思いつかなかったのだ。


 だって、俺は――――


 目が覚めたら、ここに居て。身体に違和感を覚えたので鏡越しに自分を見れば、そこに立っていたのは紛れもない美少女だった。

 嘘だろ、と何度確認しても見間違うはずがない。身体を動かすに合わせて流れるようにふわりと風を帯びる白金色の長い髪。手足も以上に細くて白く、か弱いという表現が正に似合う。

 そして、何より――小ぶりで控えめだが女だと主張する胸の膨らみ。

 あったものが無くなって、無かったものがあった時の衝撃はすさまじいものだった。

 気が付けば第二の人生を女の子として生きていたとは思いもせず、身体はそうでも心は全く予想だにしていなかったのだ。

 それなのに、数日後には制服を着て学院での生活が始まる。


 そう、彼女が着る制服とは、当然、スカートと呼ばれる物なのだ。


 自分が女の子として生きてきた事実を思えば、それは至極当然なのだが。彼女は、残念な事に今日という日に前世という特異な記憶を呼びおこし、しかも男だったという事実を思い出してしまったのだ。

 そんな彼女が――いや、彼がどうして簡単にスカートなどを受け入れられよう。せめて、しばらくは自分が女の子として生きてきたと自覚しなければ受け入れられない。

 だからこそ、双子の弟にこうして朝っぱらからお願いを申し出た訳であるのだが。

「……」

 もしかして、怒っているのだろうか?とこの沈黙が何より恐い。なので、恐る恐る顔を上げて彼を見れば。

「ふうん。そっかぁ、後生なんだ」

 (あれ?なんだろう、微妙にぞわって)

 不意に背筋が凍るような感覚を帯びて気が散れば、その間に彼は距離を詰めていって、先程と同じぐらいに顔が間近に迫っていた。

「ねぇ、お姉ちゃん?後生だったら、どうすれば良いのか……お姉ちゃんなら分かるよね?」

 いつの間にか、逃げるのを防ぐように握られた手が熱い。

 きっと、自分の顔と同じぐらい熱いだろうなと彼女は思いながら、目を逸らして頷いた。


こちらのアルは少し意地悪となっております(オプション)

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