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海の焦げた跡

真冬の春

作者: 海之本

冬至だというのに

春のにおいがしました

あなたのような

穏やかな温もりが

コートの中

吹き込みます


ずっと

傍にいることを

夢見ていた幼き恋は

透明で

何色にも染まらず

朝露のように

頬へ落ちました

きっと

今が春であれば

昇りゆく朝日と共に

消えゆくのでしょう


あなたはついぞ

この名を

呼んではくれませんでした


見上げた空には

あの日

一緒に見た星はなく

帰り遅れた月が

哀れむように

私を見ています


あなたの優しさが

ただ

ただ

今は辛い


別れの言葉は

紡がれる思い出に

耐えられないと

口を閉ざしました

春であれば

さよならと

笑って

告げられたのでしょうか


風が

温かければ

温かいほどに

あの日の言葉が

何度も

何度も

心の中

巡るから


冬に似合わない温もりを

コートと共に

脱ぎ捨てたいのです


明日は

寒いのでしょうか


どうか

冬が寒いこと

忘れさせないでください

優しい言葉

穏やかな眼差し

安らかな時間

温かすぎて

寒い帰り道

泣きたくなる


私はついぞ

その名を

忘れられませんでした


揺れる雲が

空に浮かんでいます


あなたには

冬は似合わない

私には

春は遠い


脱いだコート

いつの日か

手放せるのでしょうか


さよなら

さよなら

何度つぶやいても

思い出が

言葉が

纏わりついて

春のにおいをさせるのです


あなたが

冷たい吹雪のようであれば

どんなにいいか

季節外れの温もりを

すっかり

忘れられるのに


人知れず

蒸発してゆく朝露も

春であれば

せめて

雨粒となって

あなたの上に

降り注げたのでしょうか

そうしたら

ほんの少しぐらいは

寒いと

思ってくれますか?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わってしまった恋、あるいは届かなかった恋、のような、ほの悲しい雰囲気を感じた。 冬でも温かい気持ちになれたのに、その人の傍を離れてしまうという、とても辛い心象が読み取れる。 そんな中、せ…
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