2 泥棒と白の部屋
気が付けば俺は真っ白な部屋の中にいた。
あぁ、捕まったのか。
漠然とそんなことを考えていた。
「おっす、お疲れ!!」
いつの間にか目の前に真っ白なスーツを着込んだ初老の男がいた。
髪も、伸ばした髭も白い。
「ここ、どこですか?」
恐らく留置所か病院か。
気を失う寸前に何かに吹き飛ばされた記憶がある。
にしては、痛みはないっと。
「イエス、ゲット!!」
初老の男は小躍りを始めた。
何この展開?
「いいなぁ、たまにはゲカイの様子もみておくもんだなぁ。」
ん?外科医?
ってことは、ここは病院か。
「いいもん拾ったなぁ。」
じいさんテンション高ぇよ
「すいません!あの、ここどこですか?」
俺はもう一度聞いた。
「あっ、おう。ここか?ワシんち」
「えっ!?」
ワシんち?家か?
「えっと、あなたが院長先生ですか?」
初老の男は小躍りをやめ、変な顔をしてこっちをみた。
「あ?ちげーよ!ワシ神だから!」
「は?」
「あっちなみにお前死んだよ。」
さらっと問題発言を連呼する初老の、いや変なじじい。
「おいコラっ!誰が変なじじいじゃ!」
「!?」
「神に向かってなんちゅーこというんじゃコイツ!泥棒なだけあって性格悪いな。」
「なっ」
「「なんてタイミングで」」
「「えっ」」
「ワシ神だから。心ぐらい読めるって」
「「んなわけねーよ。」」
うそーん!?
寸分違わず声が重なる
「ほれ、見てみ。リンゴ」
どこから出したのか、じいさんの右手にリンゴが握られている。
「でな、これがほれっ。」
目の前でりっりんごが二つになった。いや、何が起こったのかわからないが、りんごが当たり前のように二つになって…
「ははぁん、マジシャンか。」
「なわけねーよ。」
「いや、だってそんなこと急に言われても……」
「とにかく、お前死んだわけ。」
は?ちょっと待って!
今なんて言った?
「お前死んだの。」
自称神が俺を指さす。
冷静にこの現状を分析してみる。
まず俺の体。死んだにしては、何も変化がない。
っと言いたいが、何かに吹っ飛ばされたのに、恐らく無傷。
ちなみにスーツも無事。むしろ汚れひとつない。
部屋を見回すと、とんでもないことに気が付いた。
「窓も扉もない。」
「なっとくしたか?」
「マジ神様っすか?」
「だな。で、こっからが本題なんだが、お前異世界興味ない?」
唐突だが、もはやどうでもよくなってきた。
「神様なんか、ノリが軽くないっすか?」
「でたよ。お前らっていっつもそうな。神にもいろいろあるんだって。」
神様は頭をかきながらめんどくさそうに言う。
「お前らって?」
「人間。神をなんだと思ってんだ?」
「イメージだけでいうともっと厳粛な感じかと。」
「ど~でもいいよ。とにかくお前異世界でもっかい人生やりなおさね?」
神様はリンゴを一つ俺に差し出すと、もう一つのほうをかじりだした。
「あの、一応聞くんですが、なんで俺なんですか?」
神様はニヤリと口をゆがめた。
「お前身体能力高いから。」
「それだけっすか?」
「まぁそだね。」
なんてこった。身体能力だけで決まったの?
「説明するとだな……」
めんどくさそうに話す神様の話によると、俺は身体能力が人より優れているらしい。
そして、人より優れてる能力を持つ者は、転生する際にボーナスポイントがもらえるそうだ。
もらえるボーナスはその者の能力値に比例すると。
「ステータス見るぞ。」
神様が俺のほうを見て、目を細めた。
「なんじゃこれ?」
「なんすか?どうしたんですか?」
まさか、何にもボーナスないとか?
「お前、足異常に早くない?」
「元陸上部です。一応インターハイで優勝経験もあります。って、俺のこと何も知らないんすか?」
「知らねーよ!人間何人いるかお前知ってんのか?億だぞ億!」
「でも、なんで今回?」
「たまたま下界見てたらさ、なんか速いやつがいたから見てたのよ。そしたら事故って死んだからワシが拾ったわけよ。」
やっぱ事故ってたのか。
「ちなみに、何にぶつかって?」
「あぁ、車!ライト切れてたみたいだね。」
マジっすか?そんな……
「でもなんでお前みたいなんがノーマークな訳?しかも泥棒やってるって」
俺は黙りこくってしまった。
神様は何も言わず目をつぶった。
しばらく沈黙が続いた。神様は何も言わずにただうなずいている。
そして、ゆっくりと目を開いた。
「膝か。」
「えっ。」
「なるほどね。お前、真面目なやつだったんだな。」
神様が優しく俺に語りかける。
「一生懸命だったんだな。だが膝を壊して、そっから人生狂ったわけか。」
神様はいともたやすく俺の一番傷ついた部分にたどり着いた。
だが、なぜか怒りはわいてこなかった。
「そりゃ能力高いわな。才能ある上に誰よりも努力してたんだから。膝壊してあの速さか。」
「でも、もう本気で走れません。」
「いや、もう治したけどね。」
神様さらっとそんな!?
ってかもうなんかいろいろありすぎて、感情が付いてこない。
「ちょい聞いて。お前さ、これ転生したらやばいことなるよ。」
「やばいって?」
「お前がいく世界には、攻撃力、守備力、体力、魔力、敏捷性ってのがあるんだが、普通の人間はそれぞれデフォルトで平均10ぐらいのもんね。もちろんそれぞれの能力は鍛えれば鍛えるだけ成長する。お前らの世界であるだろ、ゲーム。あれのレベルっつーのと一緒な。レベルを上げるごとにポイントが入り、それを振り分けられることで成長する。しかし、転生するとボーナスポイントをやることになってんだけど」
頭が追いつかん。というか魔力とか言わなかったか?
「聞けよ。お前のボーナスポイント572あるんだって。」
「はぁ。」
「なんじゃそのリアクションは!?572だぞ572!!」
「それってどれぐらいっすか?」
「レベルが一つ上がると、ポイントは3~5もらえると言えばわかるか?何にどれだけポイントが入るかは鍛え方しだいだ。」
えっと、仮に毎回ポイントってやつを5ずつもらったとすると、572ポイントあるってことは……
「俺レベル112ですか?」
「いや、レベルは1よ。これはボーナスポイントだから。」
「普通の人って平均10すよね。」
「あぁ。レベルは上がれば上がるほど経験値が必要になってくる。それをレベル1の時点で572ポイント持ってるとは……お前」
「でも俺転生するって了解したわけじゃないっすよ。」
「うそん!?」
神様が両目を見開いて俺を見ている。
「だって急に言われても……」
「まぁ断られても転生させるんだけどね。」
またこの神様はさらっと……
「スキルもいくつか付けれるから頑張れよ!」
神様は俺の肩を軽く叩いた。
すると俺の体が肩から光に包まれていった。