1 泥棒 走る
「待ちやがれッ!」
警察官が怒声をあげる。
走り出した俺に向かって。
待てと言われて誰が待つ?
追いついて捕またらいいじゃん。
まっ無理だろうけど。
俺は塀をよじ登った。
スーツのポケットには真珠のネックレスやダイヤの指輪。
今しがた、どこぞの金持ちの家から盗んだものだ。
しかし、まさか警察官と出くわすとは。
俺が忍び込んだのは近所でも有名な大豪邸。
今夜は旅行中で留守だったわけだが、家から出たところをたまたま自転車で通りかかったこの警察官に見つかった。
真夜中に徘徊するなよポリス。夜ぐらい休め。
スーツ姿に覆面の男が留守中の大豪邸から出てきたとなりゃ、警察官がほっておくわけがない。
というわけで真夜中の追いかけっこが始まった。
足には自信があるのだが、自転車には勝てない。
自転車では追ってこれないよう、塀をよじ登る。
正義感の塊の警察官は自転車をほりだし追いかけてきた。
塀から飛び降りるとそのまま転がり、衝撃を逃がす。
スーツが破けそうだが、そんなの気にしていられない。
平成のルパンと呼ばれたこの俺が、警察に捕まるわけにはいかない。
バンっと後ろから衝撃音が聞こえた。
警察官も塀を飛び降りたようだ。
すげ~根性あるな。銭形警部と呼ばせてもらおう。
俺は走り出した。
「待てッ!!おい、止まれ!!」
銭形警部も走り出した。
静寂に包まれた夜の町を駆け抜ける。
夜風が気持ちいい。
六割ほどの力で走るが、追いつかれる様子はない。
だが、銭形警部も粘る。
どこまでも追いかけてくる。
「まっまっ……て」
声になっていないが、必死なのは伝わってくる。
でもごめんよ、警部。
次の角を曲がったら、ちょっと本気だすわ。
角を曲がった瞬間、俺は吹き飛んでいた。